【令和3年酒類鑑評会(本格焼酎部門)優等賞 甘藷部門 39/50
(鹿児島)「天狗櫻/白石酒造」
*https://www.honkakushochu.or.jp/product/1711/ より
お湯割りナンバーワンと言われた「天狗櫻」の蔵
無農薬、無肥料の自家栽培芋へのこだわり
芋焼酎「天狗櫻」を初めて飲んだ時、口の中に広がる甘い香りに驚いた。焼酎居酒屋「博多島一」の大将、山崎幸一郎さんが「お湯割りナンバーワンの焼酎」と絶賛していたのもうなずける。
造り手に会ってみたい。鹿児島県いちき串木野市の白石酒造へ向かうと「さつま芋農家か?」と思えるほど、芋にこだわる若き蔵の経営者がいた。
蔵の代表、白石貴史さん。双子の男児のパパでもある。
「焼酎って嗜好品であり、ちょっとした贅沢品ですよね。だから、飲んだ時に何らかの感動がほしい。芋焼酎はこんなにおいしいものなんだって、人の心を動かせるものを造りたいんです」
白石酒造を仕切る白石貴史さんは、物静かな職人的雰囲気を漂わせるが、焼酎のことになると熱い語り口調だ。38歳、蔵の代表としては、まだ若い。でも、東京農業大学醸造科学科を出てすぐ実家の蔵に入ったから、焼酎造りのキャリアは長い。
人を感動させる。そのためには、自分自身が感動しなければならない。感動って、どんな時にするものなんだろう? それは、自分の想像を超えたものに出会った時では?
「各メーカーからたくさんの芋焼酎が出されていますが、僕がおいしいと思う芋焼酎は数%ぐらいなんです。もっと芋焼酎はおいしくなると思っています。そうするためには、まずは原料のさつま芋からだなと思いまして」
取材日は1月。黄金千貫の収穫は終わっていた。
なぜ、無農薬、無肥料なのか?
10年ほど前から、地域の休耕畑を借りて、黄金千貫芋をつくり始めた。農家の高齢化で使われていなかった畑だけに荒れ果てており、開墾からスタートする場所も。実際に借りている段々畑の上に登ると、東シナ海が太陽の光でキラキラ輝いて見える。心がリフレッシュできる気持ちのよいところだ。ただ、開墾するのは大変だっただろうな。そんな苦労が想像できる。
段々畑でさつま芋づくりへの思いを語る白石さん
芋づくりも試行錯誤の連続だったという。堆肥を入れると、葉が虫に食われた。いろいろ勉強して、肥料を使わない農法があることを知る。除草剤も肥料も使わない芋づくり(カキ殻や米ぬかは使用するそうだ)。人の手を極力、貸さないようにすると、芋が野生化したような状態になり、葉を食われなくなった。
「収穫量は減りましたけど、虫に強い芋ができたんです。ただ草がどんどん生えてくるので、草取りだけは僕ちの手を貸してやらないといけない。これが結構大変です」
ことし植える芋の苗がビニールハウス内で育てられていた
無農薬、無肥料栽培は大変、
でも「おいしかった」
農薬や堆肥などをつかった、一般的な芋農家のつくり方に比べ、同じ面積の畑でとれる芋の量は半分ぐらい。一方で、草取りなどの手間は遥かにかかるし、効率的には良くない。芋栽培のための人も雇っていて人件費もかかる。それでも、つくり続ける理由とは?
「理由は単純です。自分らのやり方で栽培したさつま芋がおいしかったんです。その芋でつくった芋焼酎は心地よい芋の香りと風味があって、余韻も長く残ると感じたんです」と白石さんは言い、続けた。「おいしい芋をつくれて、量もたくさん採れればいいんでしょうけど、そこまで器用じゃない。僕はおいしいものがつくることができれば、それでいいんです」
5反(約5アール)から始めた畑は、今では5町歩(約5ヘクタール)と10倍に拡大した。面積だけを見れば100%自家栽培の芋で天狗櫻を造れるそうだ。ただ、全部の畑をフルに使っていない。「一つの畑は2年栽培して、1年休ませています。休ませることで地力を戻してやる。ことしから1年つくって、1年休ませるサイクルにしようと思っています」。
肥料を使わないから、土が持っている力(栄養)に頼るしかない。土に頑張ってもらっているから、休ませてあげないといけない。だから、現在の焼酎造りで使っている黄金千貫芋のうち自家製は6割ぐらいという。
果物のような独特な風味を持つ芋に
白石酒造のようなやり方は、大手のメーカーなら採算を考えて、おそらくやらないだろう。小さな蔵だからこそ、固定観念にとらわれない自由な発想で、冒険ができる。
「あきらかにおいしいという芋が栽培できる方法が別にあるのなら、その方法に変えますが、今は、自分たちのやり方がおいしいと思っているので続けているんです。芋は地中で育てる果物だと思っていて、実際にうちの芋は果物感を感じる独特の風味があります」
他の焼酎メーカーに「買いたいと言われるような芋をつくりたい」と白石さん
若き蔵元は他の焼酎メーカーが買いたくなるような芋を栽培し、飲んだ人を感動させるようなおいしい芋焼酎をつくりたいという。そのために、「芋の可能性を追求し、もっと芋本来の持ち味を引き出したい」と力を込める。
僕は2016年の天狗櫻を飲んで素直にうまいと思った。でも、「もっと、もっとうまくなるはずです」と白石さん。そんなことを言われたら、これから出てくる白石酒造の焼酎が気になって仕方ない。彼との出会いで、僕の焼酎ライフの楽しみが増えた。
白石酒造 鹿児島県いちき串木野市湊街1-342
白石酒造のラインナップ
「天狗櫻」
「南果」
「天狗櫻」は無農薬、無肥料の自家製黄金千貫芋だけでなく、原料米も地元農家の無農薬栽培米を使っている。栗東(くりあずま)という珍しいさつま芋を使った「栗東」も焼酎マニアに人気。焼酎は伝統製法のかめ壺仕込みで丁寧に手づくりされる。「天狗櫻」を絶賛する山崎幸一郎さんは焼酎人で紹介している。
*http://44471.jp.net/shiraishishuzou/ より
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