「グローバルサウス」
グローバルサウスとは?
グローバルサウスとは、「途上国」と同様の意味で用いられる言葉。アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国などが当てはまり、国際連合は、77の国と中国をグローバルサウスに分類している。対義語として、経済的に豊かである国々を「グローバルノース」と呼ぶ。
グローバルサウスの定義
バージニア大学のアン・ガーランド・マーラー准教授によると、グローバルサウスの定義は3つある。
1つ目は、冷戦後の「第三世界」に代わる呼び方である。資本主義のグローバリゼーションによって、マイナスの影響を被る人々や場所を指す。
2つ目は、地理で南に位置しているかに関わらず、豊かな国かどうかの境界線を表す。単に「サウス」ではなく、「グローバル」が付くことで、地理的には南半球に位置していても経済的に豊かな国との混同を取り除くためである。例えば、オーストラリアやニュージーランドなどが当てはまる。
3つ目は、南の国々の連帯を表す。グローバル資本主義の権力に対して、「世界の“南”が互いに認め合い、自分たちの状況を共有するもの」として、南のコミュニティーを意味する。
グローバルサウスが直面する問題
資本主義やグローバリゼーションの影響で、グローバルサウスの国々はどのような影響を受けているのだろうか。数多くの問題の中から下記では「貧困」「環境」「人権」3つの問題に触れる。
貧困問題
国連開発計画(UNDP)は、貧困を「教育、仕事、食料、保健医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態」と定義している。世界銀行は、国際貧困ラインを2015年10月に1日1.90ドルと設定。所得または支出水準が衣食住など必要最低限に満たない状況を「絶対的貧困」としている。
サブサハラ・アフリカ地域の絶対的貧困率は41.1パーセントと高い割合を占めている。日本ユニセフ協会によると、1990年の51パーセントに比べると割合は減っているが、この地域の人口が増えていることから、1日1.90ドル以下で暮らしている人は1億1300万人も増えているという。
世界全体で見ると、絶対的貧困の人口は、1990年の18億4,100万人から、2013年の7億6,600万人と大幅に減っている。しかし、依然として厳しい状況下で生活している人がいることを忘れてはならない。
環境問題
先進国の人が捨てるプラスチックごみは、その多くが途上国へ輸出されている。日本では、街中のごみ箱に捨てられているペットボトルなどの汚れたプラスチックは、リサイクルするには人件費が高いことから、これまで主に中国などのアジア諸国に輸出されてきた。
「資源」と言う名目で輸出されたプラスチックは、必ずしも正常にリサイクルされてきたわけではない。洗浄の手間を省くために、児童労働など劣悪な環境下での労働、汚水の垂れ流し、野積みによる発火でダイオキシン発生など環境問題の他に健康問題や人権問題など様々な課題が浮き彫りになった。中国政府は、このようなプラスチックごみ輸入問題を受け、2017年に廃プラスチックの輸入を禁止することを決めた。
廃棄物の国境移動を国際的に規制している「バーゼル条約」もこのような問題を受け、2019年に改正された。2021年より、汚れたプラスチックを輸出する際には事前に相手国に了承を得る必要がある。
ごみ処理を途上国に頼むことが厳しくなっていることから、先進国は、適切に廃棄する仕組みやごみを減らす取り組みをより一層活発にする必要が出てきている。
人権問題
上述のプラスチックリサイクルに関する人権侵害に加えて、グローバリゼーションで途上国が受ける被害の例として、ファストファッションが挙げられる。先進国の人たちが着る安価な服は、グローバルサウスの人たちが劣悪な環境下で低賃金労働したものかもしれない。
2013年4月24日にバングラディッシュのシャバールで8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し死者1,127人、行方不明者約500人を出した。事故の原因は、ずさんな安全管理である。このビルにはグローバルに展開しているファッションブランド工場などが入っており、低賃金かつ劣悪な労働環境で働かせる典型的なスウェットショップであった。事故後はファッションのあり方を見直す取り組みが世界中で行われている。
南南協力(South South Cooperation)
グローバルサウスの定義の1つに、経済的に豊かではない「南」の国同士の連帯を示す意味があることを挙げた。
国連の「Economic and Social Council」が主導する「Finance Center For South-South Cooperation(FCSSC)」は、政治、経済、社会、文化、環境及び技術の領域における「南」の国家間協力のための広範な枠組みである。
南南協力 (SSC) の目的は、搾取的な世界システムの中で、「南」の国々を統一するために、相互に経済変化を追求することである。持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、知識、技術、専門知識、技術の協力を2カ国間や多国間、地域間ベースで行っている。
2015年12月の中国・アフリカ協力フォーラムにおいて、FCSSCはセネガル、ジブチ、ナイジェリア各政府と、工業化の推進と経済発展の促進に向けた規約に署名した。グローバルサウスが国際的な生産力において競争優位を発揮できるよう、FCSSCは、工業団地の設計や専門家チームを組織して産業分析などを行った。
SSCの成果の1つに、中国やインドがグローバルサウス諸国において西洋による政治的・経済的な支配を引き継ごうとしていることが挙げられる。実際に、中国のアフリカ諸国に対する貿易・開発協力は、欧米よりも上回っている。このような状況は、アフリカ諸国において中国が発言力や影響力をもつことを意味している。
まとめ
グローバスサウスとは、資本主義のグローバリゼーションなどによって経済的に不安定な国やそのコミュニティーのことを指す。日本国内にも日々の生活に困窮する人はいるが、世界にはより厳しい状況で生活している人がいることも忘れず、格差を埋めるためにできることを考えてみたい。
例えば、日々の買い物の際に、商品や食料がどこから来ているのか、誰が生産したものなのかを日頃から意識し、トレーサビリティを基準に商品を選ぶことで、グローバルサウスに住む人々の人権に配慮し、貧困状態を改善する消費行動をとることができるだろう。フェアトレードや環境に配慮した商品を探すことはもちろん、すでにあるものを長く使い、過剰な消費を抑えるなど、一度消費行動を見直してみるのはいかがだろうか。
*https://ideasforgood.jp/glossary/global-south/ より
【1分解説】グローバルサウスとは? 石附 賢実
グローバルサウス(Global South)には明確な定義や国家のリストがあるわけではありませんが、一般的には「発展途上国」のことを指します。南北問題の南(サウス)、即ち発展途上国の多くが南半球に位置することに由来します。①世界銀行における「低中所得国」や国連の発展途上国の交渉グループ「G77」(現在は130か国以上)、あるいは②冷戦期の「第三世界」(東西陣営のどちらにも属さない国々)の代替的表現、などの解説がみられます。
昨今、米中の覇権争いやロシアによるウクライナ侵略などを受け、民主主義的な国家と権威主義的な国家との間での競争や対立が激しくなるなかで、西側先進国では②のニュアンスで使用される傾向が強まりそうです。例えば、東南アジア、アフリカ、中南米などの国々が中露など権威主義的と言われる陣営に取り込まれないよう、G7を始めとした西側先進国はグローバルサウス重視の姿勢を打ち出しています。
一方で、グローバルサウスとされる国々の多くは、それぞれの国益最大化のために欧米・中露のいずれとも「うまく付き合っていきたい」と考えています。インドは2023年1月12・13日に“Voice of Global South Summit”を開催するなど、グローバルサウスの影響力強化を狙っています。
*https://www.dlri.co.jp/report/ld/230348.html より
解釈・定義などいろいろあり、「グローバルサウス」を一言では表しにくい。
首相のいう「中国を含めない」ということから、「発展途上国」を「グローバルサウス」とみなしていることなのだろう。
対 中国に対して長年行っていたODAもようやく昨年3月に終了した。経済大国となった中国にODAなんてするのは失礼極まりないことだし(笑