第178回 2017年12月12日 「編んで丈夫においしく~長野 戸隠竹細工~」リサーチャー: 三倉茉奈
番組内容
今回は、長野県・戸隠の竹細工。20年以上も使えるという「そばざる」はレストランガイドで一つ星をとるそば屋さんが愛用するほど。とにかく丈夫で使いやすいと評判だ。他にも見る人をひきつけてやまない美しい編み目模様の籠や、一流のバリスタも舌をまくほど、おいしいコーヒーがいれられる竹製のドリッパーなど、現代のライフスタイルに合った製品も続々。職人達の驚きの「編みワザ」を工芸品が大好きな三倉茉奈がリサーチ!
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201712121930001301000 より
1. 原山昭俊さんの「蕎麦ざる」(原山竹細工店)
長野県北部、標高1000mの山間にある戸隠は、冬には大量の雪が降り積もります。
「戸隠竹細工」は、江戸時代の初め頃から地域の人達の生活の中に始まり、雪に覆われた戸隠の冬の手仕事として、400年もの昔から、代々、その技術が継承されてきました。
今も30人程の職人さんがいらっしゃいます。
老舗竹細工店「原山竹細工店」は150年以上の歴史を持つ根曲がり竹細工の専門店です。
店内には竹で作られた製品がずらりと並んでいます。
四代目で職人の原山昭俊さんが採るのは、「根曲がり竹」(チシマザサ)の1~2年目の若い竹です。
雪の重みに耐える「根曲がり竹」は、標高の高い場所に自生しています。
原山さんが伐採するのは、9月中旬から11月中旬頃。
この日は100本程の竹を採取しました。
2種類の竹に乾燥させた竹だけでザルを作ります。
直径15㎜程の竹を4つに割るために、中央に鉈(なた)を入れ、節のある所で力を入れて割いていきます。
「根曲がり竹」は他の竹と比べて硬いため、力加減が難しいそうです。
「ヒゴ引き」という鉄板には2㎜と4㎜の穴が開いていて、この穴に割った竹を通します。
これを何度も繰り返して2種類の細い竹ヒゴを作ります。
中心部の縦横に規則的に編む「網代編み」で底編みし、その外側では渦を巻くような文様を作り上げているのは戸隠独特の「七回し」(ななまわし)。
ザルに強度・弾力性をもたせる「七回し」には1年目の細さ2mmの竹ヒゴを使用します。
丈夫で扱いにくい竹を2本一組にして広げ、頑丈な骨組みにするために、体重を右足にかけ、強い力で締め付けながら編んでいきます。
「七回し」でキレイなザルを作れる職人は一握りだそうです。
「網代編み」から伸びた網が丸く均等に広がり、強い骨組みが出来ました。
最後は「ざる目編み」で、2年目の竹で骨組みを上下交互に編み込みます。
仕上げに乾燥させた竹の輪を縁に取り付け、竹の皮で巻いたら、全て手仕事で完成させました。
原山さんは、「蕎麦ざる」の他にも、かばんかご、茶盆かごなど丈夫で実用的な竹細工を手作りしています。
店舗横の工房で簡単な竹細工の体験も出来ます。
原山竹細工店 長野県長野市戸隠3393
2.木下晨進さんの「楕円碗籠」(戸隠竹細工センター)
戸隠では、現代のライフスタイルに合うオシャレな竹細工も誕生しています。
戸隠産の竹を使用した木下晨進さんが作る幾何学模様が美しい楕円形の籠は、しっかりとした安定感と美しい編み目模様で、手提げつきはマガジンラックにもなりますし、小ぶりのものはパンや果物を入れるとテーブルにもなります。
木下晨進さんが使うのは、1年目のしなやかな竹です。
6本の竹を左右斜め横に組み合わせて、六角形の形にします。
リズムに乗って一気に編み込み、20分程で280個もの六角形が出来ました。
籠の縁のところで余った竹を折り返したら、編み込む「返し編み」の技法で編んでいきます。
戸隠竹細工の良さを多くの人に知ってもらいたい、そんな木下さんの思いが込められた竹籠です。
戸隠竹細工センター 長野県長野市戸隠3694
3.井上栄一さんの「コーヒードリッパー」(井上竹細工)
新発想の竹細工が誕生に話題になっています。
竹で作った「コーヒードリッパー」です。
コーヒー抽出の世界大会「World Brewers Cup」でアジア初の世界チャンピオンとなったバリスタの谷哲(かすや てつ)さんも甘さをより感じやすい、酸味が苦手な人も飲みやすいとおっしゃいます。
竹で編まれた目の細かい「コーヒードリッパー」を作った井上栄一さんは、竹細工職人になって40年のベテランです。
銀座の寿司屋から「茶こし」の製作を依頼されたことがきっかけで生まれたんだそうです。
細かい茶葉は網目に詰まってしまうため、茶こしと紙のフィルターをセットで使う必要があります。
このことは、同様にフィルターを使う「コーヒードリッパー」にも応用出来るのでは?と思い立ち、蕎麦ザルの技術を駆使して、1年がかりで「竹のドリッパー」を商品化しました。
「コーヒードリッパー」の網目は、「蕎麦ザル」の網目以上に先端部分が細かいため、材料の選定に一番気を使いました。
井上さんが選んだのは、30年前に先代が選定した「根曲がり竹」です。
竹独特の香りが抜けてしまっているので、コーヒーの香りを邪魔しないと考えました。
井上さんは古い竹と新しい竹を使い分けて、底から編み進めていきます。
最初のこの部分が一番難しいとおっしゃいます。
竹ヒゴを1.5㎜という極細に削ります。
井上さんは編みながら爪の先を使って、竹をしっかり押し込み、少しでも緩んでいるところがないかチェック。
最後に丈夫な縁をつけたら、完成です。
緻密に整えられた網目には、コーヒーの味を変える秘密があります。
ドリッパーの内側には「リブ」と呼ばれる溝があることで、ペーパーがドリッパーに密着せずに、お湯を注ぐとコーヒーはこの隙間を通ってカップに落ちます。
竹細工のドリッパーは網目がリブの役割を果たしてくれます。
しかも、網目が非常に細かいため、コーヒーが少しずつ染み出し、普通のドリッパーよりゆっくりと落ちます。
時間をかけて抽出することで甘みが増し、渋味や雑味のない、まろやかな味になるのです。
井上竹細工 長野県長野市戸隠3416
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Nagano/Togakushitakezaiku より
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