ブレジンスキー氏の『大いなる失敗』を、読み終えました。今回は、「レーニン主義」と「スターリン主義」に関するブログの予定でしたが、興味深い発見をしましたので、予定を変更します。
氏は反共産主義者として、矛盾を論破していますが、なんと中国共産党については例外でした。氏が攻撃していたのはソ連の共産主義で、中国にはむしろ寛大で、好意的です。
「中国こそは、アジアにおける〈アメリカの自然な同盟国〉と言ってよい。アメリカの国防政策は、日本政府の行動の自由を拘束する役割を務めている。」「この地域で優越した地位にある中国こそ、アメリカの東アジア外交の基盤となる国だ。中国政府は、アメリカに挑戦することなど考えてもいない。」
「教義上も実戦上も、中国は社会改革と近代化の両面で、ソ連に先んじていた。」「趙紫陽が、長期にわたる実利的な社会主義初級段階論を、大胆に唱えたのに対し、ゴルバチョフのスピーチは、イデオロギー的な迫力に欠けていた。」
「曖昧な表現で、ペレストロイカはロシアが発展を遂げていく途上での、特定の歴史的段階であるとしか言えなかった。」
「中国のように、党の最高指導者たちと首相の任期は、二期10年を限度とするというような、思い切った決定をする用意が出来ていなかった。」「中国は、イデオロギーの面だけでなく、実戦の面でもより大胆で、その改革は、ソ連より先んじることとなった。」
ゴルバチョフ書記長のソ連と、趙紫陽首相時代の中国を、米国の指導的政治家がどのように見ていたのかを知る、貴重な意見です。彼らの視界にあるのは、米国の同盟国となれそうなアジアの大国・中国であり、日本は眼中にありません。ニクソンの訪中以降、米国と中国のトップ同士が、どれほど緊密な関係にあったのかを、私たちは認識しなければなりません。
中国が、日本に敵対し、激しい情報戦争を仕掛けてきた答えがあります。自民党の政治家たちが、国民に何を言わなかった理由が分かりました。しかしその前に、もう少し、氏の中国礼賛に耳を傾けましょう。
「その上社会の受容力も、中国の方が大きかった。この受容力ゆえに、中国はおそらく成功するであろう。」「ソ連と違って、中国では小作農が一掃されなかった。新たな機会を与えられた時、それに応えて生産性を上げることができた。ロシア人と違い、中国人には商才があった。」
「商業の伝統が深く根づき、社会的にも浸透している中国では、ソ連に比べて、国内の商業のみならず、対外貿易でも、かなりの成長が期待できた。」「中国は、漢民族が大多数を占める国家であるに対し、ソ連は多数の民族から成り立つ、連合体である。」「中国は権力を分散しても、やはり一つの中国だが、」「ソ連は権力を分散すれば、バラバラになってしまう恐れがある。」
中国に好意を寄せる米国人が、ここにもいました。先日ブログで取り上げた、アメリカABCの特派員ジョン・クーリー氏も、著書『非聖戦 』の中で、共産主義国ソ連を酷評していましたが、中国対しては好意的な意見でした。
日本のマスコミや、ネットでは、米国人たちの中国への親近感について、ほとんど情報がありません。中国が米国に嫌われ、日本の方が好感を持たれていると、そんな報道が多くを占めています。何ヶ月かの読書で、日本のマスコミが客観的な事実を伝えていないと知りました。
中国の近代化を支援し、中国の経済活動や会社経営のノウハウを教えたのは、日本だったと、そういう報道が大半だったような気がします。しかし米国の指導者たちは、もともと中国にはそうしたノウハウがあったと考え、日本の支援について、日本人が言うほどには注目していません。
「ロシア人と異なり、自国を国家としてだけでなく、文明としても見ている中国人は、西側に対し薄っぺらな劣等感など持っていない。」「自国技術の後進性を、5000年に及ぶ、自国のすぐれた文明の中のごく一時的な現象だと思うだけの、誇りを持っているからである」
「だから外国のノウハウを、文化的・イデオロギー的懸念なしに、取り繕ったりせず、自然に受け入れることができるのだ。」
日本の保守の人々が言います。
「中国は、恩知らずだ。」「日本から受けた支援を、何も覚えていない。」
事実はその通りだとしましても、米国の指導者たちが、日本の影響を何も考慮していません。それよりも彼らにあるのは、アジアの大国として中国への敬意です。駐日米国大使だったライシャワー氏も、ブレジンスキー氏と同じでした。米国の指導者がそうであるのなら、中国が日本に感謝することはありません。
「改革を助ける中国独特の要素が、さらにある。」「中央集権、集団化、官僚主義から、商業主義、企業主義、対外貿易へと、移行しつつある国内を支える力として、国外に、大きな味方がいるということだ。」
「4000万人の、華僑の存在だ。」「多くは裕福で、中国がこれから振興しようとしている産業について、ノウハウを持っている。大多数が、本土につながりを持っており、母国の近代化を助ける良い機会と見て、既に積極的な反応を示している。」
今回は予定へ変更して「興味深い発見」を紹介するつもりでしたが、そこまでいけませんでした。氏の中国礼賛を抜きにすると、「興味深い発見」が意味をなさなくなりますので、致し方ありません。
この段階でも、日本人には貴重な情報があります。恩義を忘れた中国人の不遜さは不愉快ですが、「中国の近代化は日本の支援だ」と主張するのも、みっともない話だということです。今更ながらのことですが、世界にはいろいろな意見があるということでしょう。中国を批判する以前に、米国の指導者が中国を高く評価しています。日本の保守の人々は、認識を改めなければなりません。