ブレジンスキー氏の「日本共産党論」です。前回までに紹介している「中国共産党論」と、比較して読んでください。
〈 「日本共産党論」 〉
「共産主義の展望が暗いことを、雄弁に物語っているのは、日本における共産主義の不振である。」「アメリカに次いでいち早く工業化時代を脱し、高度情報化社会を迎えている日本では、すでに共産主義が、政権を取ってもいいはずだった。事実共産主義は、日本で成功するチャンスが一番大きかったはずである。」
「日本はその発展段階の工業化時代に、戦争を経験し壊滅状態に陥った。戦後の復興で、市民労働階級が力を取り戻した。国民の間に残った反米感情は、共産主義を受け入れやすい土壌を作ったはずだった。」
アメリカの知識層が、日本の本質に無知であることを教えられます。戦前でも、戦後でも、日本に共産党が政権を取る土壌はありませんでした。天皇陛下も含め、貧乏人以外は全て処刑せよという思想が、特に戦前では国民に危険視され嫌悪されていました。
敗戦後に反米感情が生まれる余地があっても、即座に消滅しました。共産党の委員長だった徳田球一氏でさえ、「マッカーサーの占領軍は、解放軍だ。」と誉めました。米国敵視の急先鋒であるべき共産党の委員長が、こんなことを言ったのですから、左翼は腰砕けになりました。
それより、日本の政治家や学者たちが、揃って節操を捨て、マッカーサーに協力したことが、国民の反米感情を消しました。「日本だけが間違っていた。」「軍人が、間違った戦争をさせた。」と、反米どころか、自己反省する方向に国民を誘導しました。
ブレジンスキー氏は、それでもまだ日本人の気持ちを、理解していません。当時の一般国民は、徳田球一氏が何を言おうと、自民党の政治家や学者たちが変節しようが、構っておれませんでした。焦土となった街や村では、日々の食べ物にこと欠き、まずは働くことが優先しました。平和が来たという事実だけが間違いなくあり、それ以外のことは、何も考える余地がなかったのです。
敗戦後の日本には労働階級など居ても、少数の異端者でした。共産党を受け入れやすい土壌はありませんでした。氏の意見は、多くの誤解の上で述べられていますが、しばらく耳を傾ける価値はあります。
「そして核兵器に対する、日本政府の曖昧な態度は、日本共産党にとって国民感情を結集させる、格好の材料となったはずだった。」「このように、主観的にも客観的にも、好材料が揃っていたにもかかわらず、日本共産党の得票率は、戦後を通して10%を大きく超えることはなかった。」「最も高かったのが、昭和47 ( 1972 ) 年の10.9%で、直近の昭和61 ( 1986 ) 年の、衆議院選挙では、8.8%に落ち込んでいる。」
褒めることはしませんが、批判の材料は細かく調査しています。氏が日本に、決して、無関心でないことだけがよく分かります。
「しかも、たったこれだけの票を得るために、日本共産党は日本の共産主義を、民族主義と関連付けて、反米感情に訴えた。」「それだけでなく、ソ連、中国の両共産党とは、別個の独立した政党であることを強調したのである。」
「また日本共産党は、中ソ両国の覇権主義を批判し、一時期両党との公式な関係を絶つことも、辞さなかった。」
氏の著書を読むまで、私は日本共産党が、中ソいずれの共産党の影響下にあるのだろうと、考えていました。
「日本共産党は、国内での支持層開拓のため、ソ連・中国の独裁政治を、声高に非難し、西ヨーロッパの社会民主主義・平和主義路線を採った。共産主義の統一ドクトリンを犠牲にして、ようやく日本共産党は、10%の得票率を得ることができたのである。」
そんなことをしていたのかと、やっと私は日本共産党の世界的孤立状態を理解しました。
「しかし、中国とソ連を非難したことで、共産主義の制度的欠陥をさらに国民に印象づけることになった。」
氏に説明されるまでもなく、日本共産党の愚かさが分かります。共産主義のソ連や中国を批判し、欠点を上げていけば賢い国民は気がつきます。
「詐欺師が、詐欺師を貶しているようなものだ。」と、共産党を支持する気持が無くなります。敗戦直後に政治家や学者たちが、「日本は、間違った戦争をした。」「軍国主義者が暴走し、国民を犠牲にした。」と、盛んに喋るのを聞いた時と同じ気持になります。
鬼畜米英、聖戦遂行、不滅の日本と、国民を煽っていたのが同じ人間たちと知ってていますから、国民は冷めていたのです。手のひらを返すようなことを、平気で言う人間の話を本気にしてはならないと、国民はあの時以来生きた勉強をしたのだと思います。
ブレジンスキー氏がいくら分析して見せても、私の記憶にある当時の大人たちの方が、ずっとリアリストだったと思います。指導者たちが節操をなくしても、一般国民は、「自分の国を愛し、大切にする心」を、簡単には捨てなかったのです。軍人に騙されて戦争したのでなく、自分の家族や故郷を守るため本気で敵と戦ったのですから、庶民は変節しませんでした。ただ口をつぐみ、政治家や学者や新聞への批判をしなかっただけです。
氏が間違っていると指摘するのは、日本人の本質への無理解です。中国人の文化や伝統や誇りは理解していても、小国日本には興味がないのです。博学ですが、白人特有の傲慢さがこうしたところに現れています。
「マルクス主義によれば、共産主義はその発祥の地でこそ、政治的成功を収めるはずだった。」「マルクス主義革命の成就する機が熟しているのは、西欧であると、理論は予見していたはずだった。」
「社会主義社会は、最初に西欧で建設されるべきであった。西欧こそ、典型的な資本主義工業社会であり、必然的に矛盾をきたし、崩壊していくサンプルになるはずだった。」
「西欧での失敗だけでなく、アメリカと日本での共産党の失敗は、共産主義を信じる者には、イデオロギー的に気になっていることだろう。」「これは、共産主義が、時代遅れになっていることを、認めることになるからである。」
氏は日本共産党の、日本での失敗を起点として、世界の国々の共産党の低迷を分析します。そこは煩雑なだけですから、省略します。しかし氏のおかけで、もう一つ重要なことを知りました。別途調べていたら、宮本顕治氏に行き当たりました。
戦後の日本共産党で一番の権力者は、宮本顕治氏ですが、この人物は党内で、あのレーニンやスターリンと同じスタイルで、君臨していたのです。殺人は一人しかしていませんが、幹部の降格、除名、追放を意のままに行い、死の寸前まで、権力の座を離しませんでした。私生活は贅沢で高級品を好み、美食家でした。
息子たちに言います。こんな共産党が今も、大きな顔で政界にいる事実を肝に銘じておきなさい。他党を正義顔して攻撃していますが、彼らの言うことなすことは、他党と大同小異です。殺人が絡んでいるだけ、もっと悪いのかもしれません。せっかく、ブレジンスキー氏に教えられたのですから、これ以上騙されてはいけません。