氏は際どい議論を避け、誰もが知っている話に終始していると、私にはそう思えてなりません。
102ページで、氏は政府が憲法を改正せず、解釈ですり抜けて来たため、どのような問題が生じたかを、生徒と共に考え、4つの問題点に整理します。
1. 自衛隊が憲法違反であることを、ほとんどの国民が知っている。
「そのため国民の多数は、国民を守ってくれる自衛隊を、公然と尊敬することをしていないから、隊員の士気が低下すると言う問題がある。侵略された時、本当に守ってくれるのかと言う、心配がある。」
2. 相手の国を攻撃するだけの武力は、持たないことになっている。
「したがって主として、核攻撃に対しては、アメリカ軍に頼ることになる。アメリカ軍が、本当に守ってくれるのかと言う問題と、それで本当の独立国と言えるのか、と言う問題が出てくる。」
3. 国際貢献について、PKO ( 国連平和維持活動 ) には踏み出したが、PKF ( 国連平和維持軍 ) には参加できない。
「したがって、日本は外国から非難されると言う問題が出てくる。」
4. 無理な解釈をしているため、法律が不備になっている。
「現実的な侵略に対し、有効な行動が取れるのかと言う問題がある。さらに自衛隊へのコントロールが不十分で、暴走する恐れが残っている。」
以上4つの問題点は、どれも「日本国憲法」の悪法たる核心を捉えています。しかし教師である氏が、政府、マスコミ、野党、日教組へと、余計な忖度をしているため、解決の足しになりません。
憲法への取り組み姿勢が、最初からおよび腰で、間違ったアプローチをしていますから、核心へ迫っても、先へ踏み込む勇気がありません。こうなって来ますと、氏は教師というより、風見鶏の政治家に近い気配を感じさせます。
先ずもって、 「1. 自衛隊が憲法違反であることを、ほとんどの国民が知っている。」と言う、この認識からして間違いです。自衛隊が憲法違反なのでなく、自衛隊を違法にする憲法が、おかしいのです。この前提を述べる勇気がないのですから、あとは全て言葉の遊びになってしまいます。
「憲法違反の自衛隊だから、国民が敬意を払わない。」と言うのは、看過できない事実です。外国が侵略して来た時、本当に守ってくれるだろうかと、そんな心配をするのなら、おかしな憲法を変えようと、氏はなぜ生徒に提案しないのでしょう。自衛隊などと言うから、ボーイスカウトの少年救助隊みたいな響きですが、現実には、隊員は軍の兵士であり、領土と国民を守るため、日々命がけの厳しい訓練に励んでいます。
他国を見れば分かりますが、国民は軍人に敬意を払っています。憲法違反の軍隊など、日本以外にはありません。隊員の士気が低下するのは当然でしょう。問題提起してことが終わったとする、氏の姿勢は、厳しい言い方になりますが、反日・左翼の野党と同じレベルです。
2.、3.、4. 番目の問題は、日本の危機を示す、緊急の課題ですが、切迫感がどこにもありません。「アメリカに守ってもらって、果たして独立国と言えるのか」と、疑問を呈していますが、「独立国と言えない」と、述べる勇気、と言うより、氏の思考には、最初から国際社会への認識が欠落しています。
国際社会で孤立している日本を、生徒に説明せず、与えられた「悪法」を是認した上で、日本の防衛問題を考えるところが、そもそもの間違いなのに、読者が気づかないとでも思っているのでしょうか。
PKFに参加できない自衛隊が、外国から非難され、国防に関する法律が不備だらけだと、そこまで生徒に検討させたのなら、教師として正論を言うべきでしょう。
「自衛隊がおかしいのでなく、憲法がおかしいのです。」「今はいろいろな障害がありますが、皆が大人になる時までには、」「憲法を改正しましょう。」「これが、日本を再生する道です。」
自分が教師だったとしたら、教室で、そのように言えるかと考えますと、ためらいはあります。しかし私なら、少なくとも、こんな虚しい著作を、得意げになって出版することはしません。
ほんの一部の紹介しかできませんでしたが、次回は、書評の総まとめをし、終わろうと思います。私の偏見も混じると思いますので、興味のない方はスルーしてください。