ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 日本が軍事大国になる日 』 - 29 ( タイ軍の内情 )

2022-03-09 18:41:12 | 徒然の記

 167ページ、タイ軍に関する氏の説明を紹介します。

 「タイの国土は、51万4千平方キロで、ここに約 5千800万の人口がいる。」と言われてもピンときませんので、日本との比較をしてみます。

 「日本の国土は、37万8千平方キロで、ここに約 1億2千万の人口 」ですから、こうすればなんとなく分かります。

 「その戦略地理的位置は、インドシナ半島のみならず、」「東南アジア地域の中心にあるという、極めて重要なものである。」「このためか、タイはこの地域で唯一外国勢力の支配を受けない、」「独立国家を、奇跡的に維持してきた。」

 冷戦時代には、インドシナ半島での共産主義国と資本主義国との間の、バッファーゾーンとしての役割を果たしてきたと言います。それだけに国境での軍事衝突や、他国による侵入に数多く悩まされてきた国です。

 〈マレーシア軍の内情〉のところで、タイとの関係が良くない理由として、江畑氏が次のように説明していました。

 「マレーシアが抱える反政府組織・イスラム原理主義者を、タイが支援しているため、関係が悪化したままである。」

 氏の言葉を正確に言いますと、タイがマレーシアの反政府組織・イスラム原理主義者を支援しているのでなく、紛争に関わりたくないため、国内に逃げてくる彼らを放任していたということになるようです。この点を理解して、氏の説明を続けます。

 「タイの軍部は過去20年間にわたり、国境地域での防衛と、」「国内での権力闘争に、明け暮れてきた。」「その中心は25万2千人の兵力中、19万を占める陸軍である。」

 下記にタイ軍の構成を、アセアン諸国と比較します。人数だけをみますと、インドネシア軍やマレーシア軍と遜色がありませんが、氏の評価は高くありません。

  タ  イ  軍    陸軍 19万5千人  海軍  5万人        空軍 1万2千人

  インドネシア軍    陸軍 21万5千人  海軍  4万4千人  空軍 1万2千人

  シンガポール軍    陸軍   4万5千人  海軍   5千人  空軍   6千人

  マレーシア軍     陸軍 10万5千人  海軍 1万5千人  空軍 1万2千人

  フィリピン軍     陸軍 7万2千人  海軍 2万3千人  空軍 1万5千人

  ベトナム軍      陸軍 110万人     海軍 3万6千人  空軍 2万人

 「チャチャイ政権下での急速な経済発展は、いわゆる中間層の成長を促し、」「その彼らと、タイ政府を動かしてきた陸軍との軋轢が増大していった。」「軍部の強大な利権と、それに伴う贈収賄の腐敗体質は、」「兵器調達だけでなく、国のあらゆる分野に及んだ。」「10%の手数料を収めなければ、何も仕事が進まないという状況まで現出した。」

 フィリピン軍もそうでしたが、政府と一体になった軍が腐敗すると、国民生活の向上がなくなります。贈収賄は文化であると言ったのは、韓国の政治家でしたが、国民も一緒になりその文化に浸っている国が、他にもあるようです。

 日本との比較で言いますと、先日の千葉日報の記事では、経済安保法制準備室長の藤井敏彦氏が、タクシーチケットの利用方法がおかしかったという理由で、更迭されています。記者との関係にも不明瞭な点があったと言います。

 高級な店での飲食代をみてもらったとか、なんとなく予想がつきますが、それでもタイやフィリピンの国ぐるみの腐敗とは、比較にならない気がします。 

 江畑氏の説明を、箇条書きで紹介します。

  ・1991 ( 平成 3 ) 年 、多くの市民の支持を受け、腐敗したチャチャイ政権転覆のクーデターが発生した。

  ・1992 ( 平成 4 ) 年 、利権を貪ってきた軍部が成立した新政権と対立し、ついには市民との流血の衝突となった。

  ・軍部の強硬手段が裏目となり、民間暫定政権が設立し、軍部の幹部将校のパージを実行した。

  ・チュアン政権は、軍部に力を与えていた多くの法律を破棄し、タイの民主化に努力している。

 「軍部による政治支配の終わりが達成されない限り、タイの経済発展に限界があることはハッキリしている。」

 こう言って氏は、投資額成長率が低下している事実を示します。

  ・1990 ( 平成 2 ) 年   対前期比 23%

  ・1991 ( 平成 3 ) 年   対前期比 15%

  ・1992 ( 平成 4 ) 年   対前期比 3.5% に低下

 氏はこの原因をタイのインフラ整備の遅れと、政治腐敗による社会の不安定さにあると指摘します。

 「バンコクの交通事情一つをとってみても、急速な経済発展に比べて、」「あまりにインフラが欠如しており、成長率が維持できるのかという疑問がある。」「同時に軍部の賄賂腐敗体質が、本当に払拭されるかという疑問がある。」

 タイの兵器調達先は、世界11ヶ国に分散していますが、安全保障のためのリスク分散というより、賄賂一つでどのような兵器でも調達するという、軍部の体質が大きいと説明します。今後もその体質が改善できない理由を、次のように語ります。

 「タイは他の東南アジア諸国に比べると、なお多くの国境問題を抱えていて、」「いつ武力衝突が再発するか、わからない状況にある。」「これが軍部、特に陸軍の役割と発言力の強さを、今後も保証する要因となるだろう。」

 「タイはこの地域で唯一、外国勢力の支配を受けない独立国家を維持してきた。」と言われても、内情を知りますと見習うものがありません。

 国境線については、カンボジアとの間に803キロ、ラオスとの間に1750キロ、ミャンマーとの間には1800キロ、さらにマレーシアとの間には506キロがあります。領海宣言は12カイリですが、タイは200カイリの経済専管水域を主張し、関係国との領海問題も抱えています。

 氏の説明は、ここで終わりますが、日本と比較するまでもなく、前途多難な国です。次回はカンボジアになります。

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