ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 日本が軍事大国になる日 』 - 27 ( インドネシア軍の内情 - 2 )

2022-03-07 21:00:22 | 徒然の記

  ジャカルタ日本人学校の校長だった石井光信氏と、江畑氏の視点は違いますが、交差する部分もあります。それはのちに述べるとして、ここでは江畑氏の説明を優先します。

 「長年にわたって、インドネシアに厳然たる勢力を築いてきたスハルト・ファミリーにとって、」「後継者が誰になるのかが、大きな問題であろう。」「だがそれは、世界にとっても関心事である。」

 「この国が、石油をはじめとする豊富な天然資源を有しているからだけでなく、」「マラッカ、スンダ、ロンボクという、太平洋とインド洋を結ぶ、」「2大国際海峡を有しているからである。」

 「そのためもしインドネシアが、これらの国際海峡の安全航行に関する問題の処理を誤ったら、」「世界の海運国の軍事介入を招く、危険性がある。」

 軍事的な面からも、インドネシアが重要な位置にある国だと、そんな見方をしたことがありませんでした。インドネシアにとって日本はODA資金援助を含め、最大の支援国だと聞いています。独裁者の国に巨額の援助をする政府を、自民党らしい利権政治と冷ややかに眺めてきました。

 氏の説明を読み、政府も外務省も東南アジアの政治の要諦を抑え、国益のため動いている事実を知りました。軍事が関係すると、戦後の日本ではマスコミと学者と野党が騒ぎますから、政府は国民に説明をしないのではないか、と思います。余計な金をばらまいていると、中国への巨額のODA援助も苦々しく見ていますが、もしかすると、似たような深慮遠謀があるのかもしれません。しかし政府が説明しないのですから、自民党政府と外務省を誤解したままになります。

 「だが、そうした大規模国際紛争の発生を考える前に、」「インドネシアはマレーシアと共に、もっと小規模で限定的な問題に対処する必要が言われている。」「それが、海賊と密輸の取り締まりである。」

 南アフリカのソマリア沖で海賊が出没し、航行する船舶を襲撃すると言う事件は知っていましたが、東南アジアで頻発しているとは考えていませんでした。参考までに、平成21年5月の首相官邸ホームページにあった内容を、要約して紹介します。

  ・防衛省・自衛隊は、平成21年3月から護衛艦2隻をアデン湾へ派遣し、日本関係船舶の護衛を始めた。

  ・護衛艦は、5 月19日現在、18回の護衛を行い、61隻の船舶を護衛した。

  ・護衛艦による活動に加え、海上自衛隊の航空機による、上空からの監視活動の準備を進めている。

 官邸のホームページで説明しているのは、21世紀の事件ですが、江畑氏が語っているのは、20世紀の海賊の話です。東南アジアの方が、先に出没していたと言うのですから、驚かされます。いずれも日本に関係する重大な事件です。

 スペースがなくなりつつありますので、海賊と密輸の事件については次回といたします。日本との比較で言いますと、日本近海では、北朝鮮に中国・韓国が絡む密輸事件がありますが、海賊行為は聞いたことがありません。

 当たり前のことと思っていますが、もしかすると海上保安庁と自衛隊に、国民は感謝しなくてならないのかもしれません。政府とマスコミが報道しないのですから、致し方なしですが、やはり日本の現状は世界の常識からずれている気がします。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『 日本が軍事大国になる日 』 - 26 ( インドネシア軍の内情 )

2022-03-07 12:51:22 | 徒然の記

 インドネシアについては、2年前に石井光信氏著の『ジャカルタ日本人学校の日々』(  平成7年刊 近代文藝社 )を読んでいますから、少しは知っています。

 江畑氏の著書が平成6年の出版ですから、ちょうど同じ頃のインドネシアです。

 「インドネシアには、ジャカルタ、バンドン、スラバヤ、メダンの4つの都市に日本人学校がありますが、ジャカルタの学校が一番大きく、リーダー的位置にあります。学校には初等、中等のクラスがあり、日本で言いますと、小学校、中学校にあたります。」

 「生徒たちは大型のスクールバスで送迎され、30路線で33台のバスが、913名の生徒を運んでいます。運営しているのは、PTAのバス委員会だそうです。」

 これがその時の書評の一部です。著者の石井氏は、ジャカルタの日本人学校の校長で、「日本人のテフロン化現象」という言葉を教えてくれました。親たちが、現地の子供と個人的に接触し、親しくなることを喜ばないため、せっかくインドネシアで暮らしながら、生徒たちがその国の人と隔離された日々を送っていると、嘆いていました。

 生徒たちはスクールバスで、家と学校を行き来するだけで、インドネシアという国は、窓の外を流れる風景でしかありません。現地の人々と接触しない生徒たちの状況を評して、氏は「テフロン化現象」と言いました。

 今回江畑氏が軍事評論家の目を通して、別のインドネシアを説明してくれますが、どんな発見があるのだろうと、期待と不安が混じります。

 「インドネシアも、急速な経済成長を謳歌している国の一つである。」「1986 ( 昭和61 ) 年以来、毎年6%以上のGDPの伸びを記録し、」「4年間で、製品輸出額は倍増した。」

 「シンガポールの沖合いに浮かぶ島で、経済共同開発事業をスタートさせ、」「シンガポールの半分という、労働力の安さを武器に、」「さらに、今後の経済発展を確かなものにしようとしている。」

 学校という現場から見たインドネシアと、軍事・経済面から眺めるインドネシアは、やはり別の姿をしていました。そしてどちらのインドネシアも、インドネシアであり、興味深い姿を見せてくれます。

 「ただ世界不況の波は、この多くの島からなる国にも確実に押し寄せ、」「1992 ( 平成4 ) 年前半から、外国の投資額が減少し始めた。」「これにはインドネシアの技術力不足と、常に不足する発電能力など、インフラの未整備も大きく影響している。」

 インドネシアが世界有数の産油国であることも、氏の説明で知りました。現在のままでは、やがて石油輸入国になると予測されるため、大急ぎで石油と天然ガスの調査開発を進めているのだそうです。

 従って周辺国との領海問題が深刻さを増し、対立が生じています。南シナ海の島々の名前をあげ、氏が詳しく説明していますが、「ねこ庭」を訪問される方々には、インドネシアと衝突している国の名前だけを紹介します。

 ベトナム、マレーシア、中国の3国で、たびたび生じる軍事衝突に関し、1981 ( 昭和56 ) 年3月ジュスフ国防相が、議会で次のように語ったと言います。

 「インドネシア国軍は南シナ海において、海上戦闘に直面する可能性を排除できない。」

 この時からインドネシアは、海軍と空軍兵力を重視した、近代化計画を進めています。氏の著書から、他国との比較でインドネシア軍の構成を紹介します。氏の解説によりますと、フィリピン軍とベトナム軍の装備は弱体化しているので、インドネシア軍が名実ともにASEANのトップではないのでしょうか。

  インドネシア軍    陸軍 21万5千人  海軍  4万4千人  空軍 1万2千人

  シンガポール軍    陸軍   4万5千人  海軍   5千人  空軍   6千人

  マレーシア軍     陸軍 10万5千人  海軍 1万5千人  空軍 1万2千人

  フィリピン軍     陸軍 7万2千人  海軍 2万3千人  空軍 1万5千人

  ベトナム軍      陸軍 110万人     海軍 3万6千人  空軍 2万人

 けれどもインドネシアも、フィリピンやベトナムと同様、国内の反政府勢力との治安問題を抱えています。

 「インドネシアで、陸軍が軍の中心であることは間違いないが、」「そしてなおこの軍は、国内治安任務を主体としている。」

 外国勢力から支援を受け、武装化した過激な反政府組織が社会の安定を妨げ、国民の暮らしを落ち着かせません。政治と宗教と民族の違いが、紛争の因になっているので、殺したり殺されたりした年月が重なると、簡単に和解できなくなります。

 それだけに私は、「アイヌ新法」を成立させた自民党政府の安易さに、疑問を持ちます。歴史的に見ても、先住民でない彼らを先住民と定義し、特別な保護措置を取ると言うのですから、運用の仕方一つで北海道内にアイヌ自治地区が生まれます。

 マレーシアやフィリピンのように、違った民族でも一つにまとまる制度的知恵があると言うのならまだしも、「差別された怒りがある」と言う人々を、腫れ物にでも触るように金銭で補償しようとしています。日本を、フィリピンやベトナム、インドネシアのような治安の悪い国にしてはいけないのですから、安倍内閣の時に成立した法律ですが、私は今でも疑問を抱いています。

 話が横道へ逸れましたので、氏の著書へ戻ります。

 「インドネシアの国内治安問題は、まだ存在しているが、」「基本的には、反政府勢力は弱体化している。」

 理由の一番はやはりソ連の崩壊で、支援を受けられなくなった共産ゲリラの力が弱まったことです。それでも、宗教と民族の違いからくる武装集団は残っています。もしかするとインドネシアは、マレーシアやシンガポールから、民族共生社会を作る知恵を学ばなければならない、のではないでしょうか。

 スペースがなくなりましたので、続きは次回といたします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする