今回は、めぐみさんの遺骨に関する蓮池氏の証言です。
・2002年にめぐみさんが死亡し、今遺骨を探しています。と言うのが北の報告だったですね。
・その時めぐみさんの夫も、めぐみさんのご両親に出した手紙の中で、めぐみさんが亡くなったのは1993年の3月と同じようなことを書いています。その時、自分が遺骨を保管していることをいっさい言っていなかった。
・ところが2年後になって、「あ、遺骨は私が持っていました」なんて、あまりに不自然ですよね。
・しかも当時の彼は、私たちと同じ処遇の拉致被害者だった訳で、組織の中では、組織の指示通り動かなければいけないという立場の人だった。組織の力を借りなければ、何もできない人なんです。
・そう言う人が、組織に黙って、どこにあるかも分からないお墓を探して、仲間を動員してお墓を掘り返し、遺体を火葬までした。しかも私たちが隣に住んでいる所で、遺骨を保管していた。彼が火葬したしたオボンサン火葬場は、その時はまだ建設されていなかった。
・作り話もここまでくると、本当におかしな話になっちゃう・・と言う状況です。めぐみさんの遺骨については、DNA鑑定だけでなく、こう言う経緯の状況だけでも否定できると言うことです。
・北朝鮮が日本へ出す人と、出さない人とを分けている基準は2つあると思う。一つは北朝鮮が認めたくないテロ事件に、間接的にでも関与している人。例えば大韓航空機爆破事件で実行犯だったキム・ヒョンヒに、日本語を教えたとされている田口八重子さん。
・それから、よど号事件ですよね。よど号事件のテロリスト、いわゆるハイジャッカー達を匿っているということ自体が、国際的な非難を受けている訳で、その人たちが拉致をした、しかも北朝鮮の指示によって拉致をしたということを世界中に知られたくないということから、こう言う人たちを表に出さないと言うこと。
ここでよど号事件のテロリストたちの話が出てくるとは、意外でした。末川博氏や小田実、寺尾五郎、土井たか子氏などの政治家や著名人が、北朝鮮を理想国家として賛美していた頃の話です。昭和45 ( 1970 ) 年に、「日本赤軍派」を名乗る過激派学生9人が、北朝鮮へ亡命しようと日本航空機 ( よど号 ) をハイジャックした事件です。
世界革命を夢想する愚かな学生たちは、北朝鮮に拉致されたのでなく自ら望んで亡命し、逆に北の指示を受け拉致実行犯の仲間入りをしています。彼らは自分が拉致した日本人女性や、北が拉致した日本人女性と結婚し子供を作っています。自らの職業を「革命家」と自称する彼らの家族の中に、特定失踪者に含まれている人がいるのかどうか、「ねこ庭」では分かりませんが、蓮池氏の証言によって複雑な状況があることは推測できました。
蓮池氏も愚かな学生9人のテロリストについては、これ以上喋りません。
・つまり喋ってもらいたくないことを知っている人を、出したくないと言うのが一つです。もう一つは、北は我々を日本へ帰したくないものですから、日本政府の人に会った時、日本へ帰りたくない、家族とは平壌で会いたいと言わせようとした。
・子供たちがいて、人質に取っていれば、何でも言うことを聞くだろうという人たち・・。どうもこの人は、日本政府の人に会わせると、日本へ帰りたいとその場で言ってしまう人と、おそらくそこで線引きをした。
・出せない人たちは、「居るけど出せません」と言えない訳ですよね。ですから、亡くなったと言うことで処理をした。奴らはびくびくしながらも、子供を人質に取られているから大丈夫だろうという線引きをして、帰してくれたのが5人だったというのが私の考えです。
「私たちの人生は過酷だった。」「しかし残されたのぞみさんたちは、もっと辛い毎日を送っています。」「私たちだけが帰って・・申し訳ないと言う気持ちがあります。」
「ねこ庭」の過去記事で取り上げたインタビューの動画で、声を詰まらせて涙ぐむ氏の姿がありました。このようにして当時の状況を詳しく説明されますと、北の工作員かと氏を疑った自分を反省したくなります。親たちが生きている間にと、拉致問題を優先させる思いに偽りはないのでは、と言う気がしてきました。
ここで司会者が、非常に重要な質問をしました。それは私の疑問でもありました。
「蓮池さんはですね。ずっと、例えば横田めぐみさんとのこと、例えばどこで暮らしていたとか、ほとんど話してこられなかったと、思うんですよね。」
「ここにきて、話をされているように、見えます。どんな思いからですか。」
・いや私はめぐみさんについては、もう10年くらい経ちますが、いろいろな所でお話をしています。
・ただ私たちが色々言うのを控えめにしていたのは、次に帰る人たちに悪い影響、つまり、帰ると何でもバラしてしまう、やはり帰してはいけないと、北に思わせないために、しばらく日本政府を信じて解決するのを待っていたと言うことです。
・ところが様子を見ていると、そんな話ではないと、北にはどんどんプレッシャーをかけていかない限り動かせないと、最近考えるようになりました。北が解決済みと言っていることを打ち壊すのは、我々しかいないのではないかと、そう言う意識が最近ますます強くなりました。
・北朝鮮に対して、日本から出せるものは限られています。国際的には国連の安保理制裁もあるのですから、無理なものは出す必要はないと思います。
・で、今やれることはこうで、将来やれることはこうだと、それを拉致被害者を帰すという条件のもとで出すよと言う主張。それとやはり将来に対して、日本政府なり我々国民なりが、明確な姿勢を北朝鮮に示すべきと思うんですよね。
・と言うのは、期限を守らなかったら、これからは北の求めるような日朝関係というものは無いという姿勢。こういうことに北が反応してくる限り、解決するのであって、こういうものを北が無視した場合、北は拉致被害者を帰す気がないと判断せざるを得ない。
・期限という意味は、本来そういうところにあると思う。ですから、使いたくない言葉ですが、飴と鞭・・この両面で行くしかないというのが、私の考えです。
以上で、氏の意見の全てを紹介いたしました。北の機嫌を損なわないようにと、際限のない譲歩をする意見ではありません。親世代の高齢化という期限を過ぎたら、未来永劫日朝関係の正常化は無いという、常識的、現実的な意見です。氏の意見が、松原、磯崎両氏と違うのはここです。
北が期限を守らなかったら、未来永劫北との関係はないという断言は、拉致被害者の一人だった氏だから言える言葉かもしれません。決断の背後には、「いざとなれば、拉致被害者と帰りを待つ家族を断念する。」という強い覚悟があります。現実的で残酷な意見は、北朝鮮の非情さを体験した蓮池氏が口にしても、松原氏と磯崎氏には言えない言葉です。
しかし現実的、残酷な決断が、国のリーダーに求められる政治ではないのかと、そんな気がします。多数の国民の安全と幸福を守るために、少数の犠牲はやむおえない、それが「民主主義社会の基本だ」と世界の政治家は考えているのではないでしょうか。
テロリストが航空機をハイジャックしたり、人質を取って建物に籠ったりした時、他国の政治家は容赦なく強行突入をさせます、双方に死者が出ても、将来の危険を除去するため妥協はしないという姿勢です。
「人の命は、地球より重い」と言い、超法規的措置でテロリストの要求を呑み、3億円を持たせ、獄中の殺人犯を国外逃亡させた福田首相の姿勢が、戦後日本の政治家の典型のような気がします。人質の命を救った人道的決断に見えますが、一方では将来の危険に目を背けた判断とも言えます。
こうした観点から見ると、蓮池氏の意見が国際社会の常識、松原氏と磯崎氏の意見が日本の常識と、そんな区分ができる気もします。世界の常識が何でも良いとは言えませんので、いずれが日本にとって妥当な決断なのか、「ねこ庭」ではまだ結論を出し兼ねています。
「ねこ庭」を訪問された方々は、どのように受け取られるのでしょう。
結論を急がず次回は、四人目の専門家 「 4. ワン・ソンテク氏の意見 」を紹介いたします。