田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

宇都宮/夕日の中の理沙子(2) 麻屋与志夫

2009-02-18 20:13:51 | Weblog
第八章 恐怖指数の拡大

1

ワークシェアで家計が苦しくなった。

「退塾します」

といったときの母親の目に光った涙を忘れない。

国民総中流意識の崩壊を目の前で見た。

家を建てローンで返済している。

車を買ってローンで返済している。

子どもたちは塾に通わせて。

大学進学を望んでいる。

そうした中流家庭をおそっている恐怖。

その夢から覚めた。 

真面目に働けばバラ色の夢が実現できる。

その夢が消えた。 

人間の苦しみを常食としているVがいる。

「そういうみかたもできるだろう」

肯定するようにミヤが翔太の顔をながめながらいう。

「翔太は覚醒者というだけではない。

サイキックでもあるんだ」

「わかりますか? だったら教えてください。

宇都宮の未来を透視してもなにもみえないのです」

翔太の部屋でふたりはなかよく酒をのみだしていた。

銘柄は「霧降り」と栃木県の地酒だ。

「酒での失敗には日本人はもっと寛容だった。

でもこの男は吸われている。

われわれ吸血鬼は同時活性化したのだ。

あるいは日本にいたときに吸われていたのかもしれない」

ミヤは興味深そうにまだテレビをみながら飲んでいる。

「人の苦しみはVには甘露。

その精気の味はこたえられないのでしょうね」

「血をすって殺すより、21世紀的だとかんがえている。

若者はそれを生ぬるいと批判するがね。

わたしたち古い世代のものは。

やっと陰陽師や勝道上人の。

封印が風化して。

陰府(地中あるいは夜の世界)から解き放たれた。

自由にうごきまわれるようになったのだ。

こんどこそ、人間と共存できることをのぞんでいる」

「若者は、こんどこそ人間を征服すると……」

「そう意気込んでいるのだ」

「だから宇都宮の未来がまだはっきりしないのかもしれませんね」

吸血鬼とのインタビューはまだはじまったばかりだ。

翔太はミヤをすごく身近にかんじる。

でもミヤは何歳くらいなのだろうか。

それをきくのは失礼だろうなと……。

「奈良、平安どころではない」

翔太にはそんな昔のことは想像できなかった。

「ここは、宇宙の都。

それで宇都宮。

天国の薔薇園を追われたおれたちが初めて踏んだ地球の大地だった。

そのときからの記憶がわたしにはある」




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ああ、快感。