田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

栃木芙蓉高校文芸部  麻屋与志夫

2010-01-13 09:00:10 | Weblog
part1 トワイライト/インクに匂い

6

男は濃密な黒いフレアにつつまれている。
おれがこの街にきてからずっと感じていた闇が男の周りにある。
あんなに晴れていたのに陽はいつのまにかかげっていた。
いや、かげってしまったのではない。
日没? の時刻なのだ。
東京とちがい、山が迫ってきているので日没の時間がはやいのだ。
龍之介はみぶるいした。
空には紫色の雲が浮かび夜の闇がそこまできている。
植木にはみえていない。
喧嘩あいては、学ランの袖をまくっている。
腕の筋肉がごつごつともりあがってきた。
まるで皮下組織を妖蛆でも這っているようだ。

そして鉤爪が!!!!! やはり――のびてきた。

植木にはなにもみえていない。
龍之介はカバンにひそませた特殊警棒をすばやくとりだした。
銀の警棒は一振りすると三段階にのびて、小刀くらいの長さになった。
タァッと裂帛の気合。
甲源一刀流音なしの剣の技だった。
黄昏の薄闇のなかで銀光がきらめいた。
カチカチと舗道におちたのは長い鉤爪だった。
「なんだ、コリャ! 鬼村!! きさま硬派の男がネイルサロンにかよっているのかよ。ボインノのイカススケでもコマス気か」
さすがにこんどは番長にもみえた。
「なんだ。きさまらみんな鬼村と同じかよ」
だが鉤爪にはみえていない。
視界は闇にとざされた。
ふたりはとりかこまれた。
「なんだよ。この霧は」
植木にはこの闇が霧としかみえない。
闇の中で龍之介の警棒が銀色の光の尾をひいてきらめく。
包囲網はじわじわそれでも縮まってくる。
薄闇の中で敵のかげが害意をこめてせまってくる。
シャカシャカシャカ。
ストロボがきらめいた。
「これはすごいスクープ写真だ」
「奥本。にげろ」
「どうしてだよ。龍くん」



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