田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

トワイライト/インクの匂い 麻屋与志夫

2010-01-15 10:40:42 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部

10

携帯がチャクメロを奏でた。
「ジイチャン……? 玉川堂で墨かったから。それに大文字の般若心経のお手本サービスだって」
 墨があれほど高価なものとは……とおもいだしていると、低めた声がつたわってきた。
「龍、お吸(おきゅう)さんのおでましらしい。外でハンターがほえている」
 文子が枕草子を暗唱しているのを後に、龍之介は巴波をとびだした。走れば10分とはかからない。

11

「机くん、どうしたのかしら」
 暗唱をやめて文子が龍之介を目で追いかけた。
「文子センパイは机さんに気があるんですか」
それまで会話に参加できないでいた二人が同時に同じことをいった。
「由果と繭そんなこときくなよ。まあ、あれだけのイケメンだからな」
それもしかたないだろう。というような顔を植木がした。
「わたしは、鷹ちゃんみたいに、ゴツゴツした風貌がたのもしいわ」
「バァーカ。知美にほめられたってうれしくないし」
「どうして映らなかったのかな」
 奥本がまた首をかしげた。たしかに人影があった。それがまったくなにも映っていない。
「植木さんもみましたよね」
「みただけではない。ゴロまいていたんだ。下野のヤッラいつからあんなにつよくなったのだ。机がこなければおれひとりではヤバかった」



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栃木芙蓉高校文芸部  麻屋与志夫

2010-01-15 04:51:13 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い

9

「ああ、鷹ちゃんとは幼なじみなの」
知美がバンチョウ、番長と気安く、下級生なのに呼び掛けるので不審におもっていた。
そんな龍之介に知美が説明する。
勘のいいひとだ。
そしてよくしゃべる。
「文子さん、すごいのよ。おどろいちゃった。去年(こぞ)の蝙蝠(かはほり)まで暗唱してるのよ」
「なんだい……そのコゾノカワホリって? おれにもわかるように解説たのむ」
「ああ、鷹ちゃんごめん。枕草子の28段のおわりの文なの。扇子の古いよびかたなのよ。扇子がひらいたところが蝙蝠(こうもり)に似ているから……カハホリはこれも古名ね。コウモリのことよ。去年の扇子を懐かしくおもいだすというところなの」
「過ぎし方恋しきもの……」
文子が澄んだ声で暗唱する。

奥本はきいていない。
さきほどからぼそぼそカシオのデジカメのモニターをみながらつぶやいている。
「どうした。新聞部」
「なにも、なにも映っていない。おかしいよ。たしかに撮ったのに」
やはりなぁ。
映らないか。
伝説はほんとうだった。
あいつらは、北関東の伝説(れぢぇんど)の吸血鬼なのだ。
いままでぼくが相手にしてきた都会の吸血鬼とはどこかちがっていた。
吸血鬼ほんらいの能力をそのまま温存している。
都会のアイツラは進化しているから鏡にだって姿が映り、人と変わりがない。
なかなか正体を見極められない。
そのてんここの吸血鬼は素朴なのかもしれない。
じぶんたちの能力を隠そうとはしない。
そのぶん兇暴かもしれないぞ。
と龍之介はこころをひきしめた。

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