part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部
16
「この街もたそがれね。
もう薄闇の中。
いいとき翔太ちゃん帰ってきてくれたわね」
きゅうにしみじみとした口調で玉藻がいう。
「わたしなんか、いつガソリンかけられるか、
いつ寝首かかれるか、
棺にいても不安なのよ」
「そんなにひどいのか」
「ひとの世とおなじよ」
「外来種か? そうなんだろう。
日本古来の吸血鬼の世界だけではなくなったってことなのだろう」
玉藻が深い溜息をもらした。
どこの世界にも悩みはあるものだ。
お姫様を暗殺しようとするテロがあるとは……。
とんでもないところに越してきたものだ。
いや、ジイチャンはそれを承知だった。
それで、故郷のこのお化け屋敷を終の棲家と決めたのかもしれない。
龍之介はこっそりと部屋からぬけだした。
祖母が死んでから長いこと寂しそうだったのに。
すごく楽しそうだ。
ふたりだけにしてやろう。
こっそりと廊下にでる。
二階に上がった。
窓からみる。
庭には夜の帳がおりていた。
闇に濃淡がある。
濃い部分に人形のモノがうごめいる。
顔らしきものがみえた。
恨めしそうにこちらを見上げている。
17
文子は文机にむかってしいた。
やはり窓から闇の濃淡を眺めていた。
日記をひろげた。
マッサラな日記の一ページ。
春はあけぼの。
男は机龍之介。
そう書いてしまった。
それでも胸の高鳴りはおさまらない。
なんておかしな性(さが)なのかしら。
初めてみつめた男性を好きになる……なんて。
わたし困っちゃうな。
でも、今回の彼は同世代????? のイケメンだ。
うれしいな。
龍之介くん、好きです。
だぁーい、好きです。
前回の彼は太政大臣平清盛。
ああいやだったな。
あんな。
オジン。
皺くちゃな顔。
「机くん、好きよ」
そういってみて……さらにほほを染めた。

one bite please 一噛みして。おねがい。
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「この街もたそがれね。
もう薄闇の中。
いいとき翔太ちゃん帰ってきてくれたわね」
きゅうにしみじみとした口調で玉藻がいう。
「わたしなんか、いつガソリンかけられるか、
いつ寝首かかれるか、
棺にいても不安なのよ」
「そんなにひどいのか」
「ひとの世とおなじよ」
「外来種か? そうなんだろう。
日本古来の吸血鬼の世界だけではなくなったってことなのだろう」
玉藻が深い溜息をもらした。
どこの世界にも悩みはあるものだ。
お姫様を暗殺しようとするテロがあるとは……。
とんでもないところに越してきたものだ。
いや、ジイチャンはそれを承知だった。
それで、故郷のこのお化け屋敷を終の棲家と決めたのかもしれない。
龍之介はこっそりと部屋からぬけだした。
祖母が死んでから長いこと寂しそうだったのに。
すごく楽しそうだ。
ふたりだけにしてやろう。
こっそりと廊下にでる。
二階に上がった。
窓からみる。
庭には夜の帳がおりていた。
闇に濃淡がある。
濃い部分に人形のモノがうごめいる。
顔らしきものがみえた。
恨めしそうにこちらを見上げている。
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文子は文机にむかってしいた。
やはり窓から闇の濃淡を眺めていた。
日記をひろげた。
マッサラな日記の一ページ。
春はあけぼの。
男は机龍之介。
そう書いてしまった。
それでも胸の高鳴りはおさまらない。
なんておかしな性(さが)なのかしら。
初めてみつめた男性を好きになる……なんて。
わたし困っちゃうな。
でも、今回の彼は同世代????? のイケメンだ。
うれしいな。
龍之介くん、好きです。
だぁーい、好きです。
前回の彼は太政大臣平清盛。
ああいやだったな。
あんな。
オジン。
皺くちゃな顔。
「机くん、好きよ」
そういってみて……さらにほほを染めた。

one bite please 一噛みして。おねがい。