田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

トワイライト/インクの匂い  麻屋与志夫

2010-01-17 09:08:34 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い  栃木芙蓉高校文芸部

16

「この街もたそがれね。
もう薄闇の中。
いいとき翔太ちゃん帰ってきてくれたわね」
きゅうにしみじみとした口調で玉藻がいう。
「わたしなんか、いつガソリンかけられるか、
いつ寝首かかれるか、
棺にいても不安なのよ」
「そんなにひどいのか」
「ひとの世とおなじよ」
「外来種か? そうなんだろう。
日本古来の吸血鬼の世界だけではなくなったってことなのだろう」
玉藻が深い溜息をもらした。
どこの世界にも悩みはあるものだ。
お姫様を暗殺しようとするテロがあるとは……。
とんでもないところに越してきたものだ。
いや、ジイチャンはそれを承知だった。
それで、故郷のこのお化け屋敷を終の棲家と決めたのかもしれない。
龍之介はこっそりと部屋からぬけだした。

祖母が死んでから長いこと寂しそうだったのに。
すごく楽しそうだ。

ふたりだけにしてやろう。

こっそりと廊下にでる。
二階に上がった。
窓からみる。
庭には夜の帳がおりていた。
闇に濃淡がある。
濃い部分に人形のモノがうごめいる。
顔らしきものがみえた。
恨めしそうにこちらを見上げている。

17

文子は文机にむかってしいた。
やはり窓から闇の濃淡を眺めていた。
日記をひろげた。
マッサラな日記の一ページ。

春はあけぼの。
男は机龍之介。

そう書いてしまった。
それでも胸の高鳴りはおさまらない。
なんておかしな性(さが)なのかしら。
初めてみつめた男性を好きになる……なんて。
わたし困っちゃうな。
でも、今回の彼は同世代????? のイケメンだ。
うれしいな。
龍之介くん、好きです。
だぁーい、好きです。
前回の彼は太政大臣平清盛。
ああいやだったな。
あんな。
オジン。
皺くちゃな顔。
「机くん、好きよ」
そういってみて……さらにほほを染めた。


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トワイライト/インクの匂い 麻屋与志夫

2010-01-17 01:21:19 | Weblog
part1 トワイライト/インクに匂い  栃木芙蓉高校文芸部

15

「龍之介さんお帰り」 
襖の向こう側から声がした。
するすると襖が内側から開かれる。
襖の陰にはだれもいない。
穏業をして庭を横切った。
玄関を開けた。
妖々と悪意の渦巻く廊下を忍び足でやっとたどりついた祖父の部屋なのに。
怪異はここにもあった。
が、女性の声で迎えられるとは――。
二十四畳ほどの部屋の中央に囲炉裏がきられている。
祖父のよこに白い透明感を四囲に漂わせて若い女性がすわっていた。
「翔太ジイチャン! 
お吸さんのおでましだなんて!!
おどかさないでくださいよ!!!
ぼくはてっきり」
「そうよ。そのお九です」
ゴールデンリトリバーのハンターは彼女の隣でのどを鳴らしている。
尻尾をおおきく左右に振ってあまえている。
どうしてなんだ。
初対面の人になれるような犬ではないはずなのに。
「よくぶじにココまでたどりついたな。
外には夜になると血をすわれた村人の霊魂が浮遊するのだ」
「そうね。さすが翔太チャンの孫だけのことあるわ」
「ぼくはてっきり吸血鬼がでたのかと……おもって走ってきたのに」
「改めて紹介する。おまえのおばあちゃんになったかもしれない九尾玉藻さんだ」
「ゲッ。だったらやっぱ、吸血鬼」
「そう呼ぶひともいるな」
「よろしくね。龍チャン」
それってなれなれし過ぎる。
そういって、抗議しようとおもったがよした。
ふたりは旧知の間柄というより、
たしかに年の差はありすぎるが、
恋人同士の楽しさで酒をくみかわしている。
祖父のそばにいるといつもとんでもないことが起きる。
でも、コレってbig surprise だ。
「龍ちゃん。年の差なんて外見で判断しないの」
ぼくの考えていることがストレートにわかってしまうのか。
「そうよ。なんでもわかるんだから。
綺麗な女生徒とあっていたでしょう。
翔太ちゃんに似てもてるのね。
もてるんだ。
それに年の差だけど、わたしのほうが……」
「そうなんだ。龍之介。
玉ちゃんはおれがあったときでもすでに、
千年を遥に閲する吸血鬼の姫君だった」
「あのとき結婚していたら、
龍ちゃんみたいな孫がいたのにね。
惜しいことしたわ」
なんだか……話がどんどんファンタジーしてきた。
「ぼく、さきに寝ます」
「なにをいう。ほら酒をつきあえ」
「未成年に酒のませていいのかな」
「なにかたいことかんがえている」



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