田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

パパラッチを探せ  麻屋与志夫

2010-01-22 07:34:43 | Weblog
part2 パパラッチを探せ  栃木芙蓉高校文芸部(小説)

7

首筋を噛まれた川田は血を流してのたうっている。
だれもその苦しむ声に反応しない。
だれもその痛みにもだえる狂態に。
無関心だ。

苦鳴をあげ血を流している男など、そこにはいない。
そんなモノはじめからそこにいない。
シカトされている。
龍之介は吉沢を下館にむかっておしとばした。
プラスチックの棚を投げつけた。

逃げるとみせて。
下館のスキの間合いにとびこんだ。
警棒をたたきこんだ。
ピストルをもった小手にたたきこんだ。
床のピストルを部屋のすみにけった。

目が薄闇になれてきた。
一瞬だが。
コンクリートの壁にはられた。
ウオール―ペイパーが目にはいった。
品のない極彩色の紙はところどころ。
剥げおちていた。
壁紙のエゲツナサからみて、風俗店のあとなのだろう。

「なにくだらんことかんがえている」
コイツは唇だけでなくひとのこころも読める。

龍之介はだらりと警棒を下げた。
「さそいにのるな」
下館の警告のほうがおそかった。
トレンチコートの群れが動いた。
黒のコートの裾がはためく。
腕がのびてくる。
手には鉤爪があらわれている。

その爪が龍之介の目をねらっている。
龍之介は目をとじた。
そういう剣法であった。
敵の実態を気配で感じる。
一瞬の動きは、静止しているもおなじだ。
そこにうちこむ。
手ごたえはない。
コートのはためきに邪魔された。
感覚が誤作動した。
龍之介ははじめて恐怖をおぼえた。
敵がおおすぎる。
いままでも吸血鬼とは戦ったことがある。
でもこいつらはどこかちがう。
無表情な顔。
長く光る鉤爪。
じりじりと壁際に追い詰められた。
「どうした、もうそんなところか」
「まだだ。まだこれからだ」

「いつまで吼えてんけ。こっちから行くかんね」
吉沢が驀進してくる。
よけた。
そのまま吉沢は壁に激突する。
「アブナイ」
瞬時には理解できなかった。

女のいない部屋に女の声がした。

絶対に不利な戦況に立たされた龍之介。
幻の声でもきいたのか。

冷や汗がどっとふきだした。

「幻ではなくってよ。
そんなんことないわよ。
わたしはここにいる」

バーンとシャッターの潜り扉が破られた。



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