8
京浜東北を品川で降りた。山手線に乗り換えて渋谷を目指した。
大崎をすぎたあたりでGGは気づいた。
「やけに乗客がすくないな。退社ラッシュはとうに過ぎているからといって、これは異常だ」
「ねえ!! 五反田で止まらなかったよ」
と翔子が憑かれたようにいう。怪奇なことが起きている。
翔子だけだ。GGのことばに反応したのは。
いやちがう。翔子も口パクをしているだけかもしれない。
翔子がいま確かに口にしたらしい言葉もとおのいてしまう。
なにかおかしい。
揺らいでいる。ゆれている。
ズレテいる。地滑りがおきている。
ねじれている。逆円錐形のトルネードが発生した。
失楽園だ。堕天使だ。地獄に巻き込まれる。
現実にゆらぎ、ずれ、ねじれがはじまっている。
疲れている。刑事の質問に応答した。初動捜査に協力させられた。
疲れている。爆発さわぎ。
後になって判明した。副総理のお嬢さん日名子の拉致?
誘拐?
それとも失踪? ……についてまるで訊問のような会話がつづいた。
警察でも、実体がとらえられないで困っていた。
この事件の『何のために』という動機がわかっていないみたいだ。
おれにだってわからない。
1、何人が(犯人)
2、何人と共に(共犯者)
3、何時に(犯行日時)
4、何処で(場所)
5、何人に対して(被害者)
6、何故に(動機)
7、どうして(犯行手段)
8、何をしたか(結果)
刑事から受けた犯罪捜査の『八何の原則』が脳裡に浮かんだ。
3と4と5と7。
しかわかっていないではないか。
それだって、曖昧、不分明なところがある。
われわれ被害者の側にも、被害をうけた理由がわからないのだ。
単なる『愉快犯』であるはずがない。
目黒でも止まらない。
恵比寿でも。
いきなり渋谷の道玄坂をのぼっていた。
むかし『恋文横丁』ここにありき。
なんだか、頭が、怪しくなっている。
道玄坂の階段。坂だから階段なんて連想は怪しい。
それなら怪談くらいにしたら。道玄坂に階段はない。
これは怪談だ。なにか怪しいことが突発している。
いや――怪しくなっているのは――おれの頭だ。
濃霧の中を歩いているようだ。
妖霧の中にいるような感覚に支配されている……。
「あなた」なんだよ。急にあらたまって。
「あなた……。むかしふたりで通った『ライオン』ですよ」
そんなバカな。ミイマと会ったのは故郷鹿沼だった。
名曲喫茶『ライオン』でデートした覚えはない。
やはりおれは頭が怪しくなっている。
「あなた……」
「GG――」
GGGGGGGGGGGGGGGG。目覚ましみたいだ。
「いま何時だ、いや、ここはどこだ」
「やっと気づいたのね」
「GG。どうしたの? 悪い夢をみていたみたい」
と翔子が心配している。
あどけなく頭を傾げている。
傾斜しているのは、おれの足もとだ。
意識がはっきりとしてきた。
おおお……、とおれは、言葉がすぐにはでない。
おれはまちがった想念にとりこまれていた。
おおお。は――数字変換では666なのだ。悪魔の数字だ。
まちがった想念の行きつく先は……。
おれは、リバイヤサンの顕現に、ヨハネの黙示録の巨大怪獣の出現に立ち会っているのか。世の天変地異、巨大なる反作用が起きることに直面しているのか。注。詳細は「サタンの思想」を検索してください――作者。
連続して、起きるという悪魔の所業のあと二つは、偽教団を使って、真実の教えを説かんとする救世の法を迫害すること。そして、人々の心に不信感を広げて、各地に戦争を起こすこと。
T国との領土問題。検事の不正行為。……悪魔の胎動だ!!!
不信感が広がっている。それをマスコミが煽る。
おれは坂の上にたっていた。
坂の上の雲でなく、坂の上のおれ、だぁ!!!
おれは、ライオンのまえで固まっていた。
ライオンの窓のシェイドが赤、みどりに光っていた。
注 『八何の原則』については島田一男『捜査本部』を参考にしました。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
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京浜東北を品川で降りた。山手線に乗り換えて渋谷を目指した。
大崎をすぎたあたりでGGは気づいた。
「やけに乗客がすくないな。退社ラッシュはとうに過ぎているからといって、これは異常だ」
「ねえ!! 五反田で止まらなかったよ」
と翔子が憑かれたようにいう。怪奇なことが起きている。
翔子だけだ。GGのことばに反応したのは。
いやちがう。翔子も口パクをしているだけかもしれない。
翔子がいま確かに口にしたらしい言葉もとおのいてしまう。
なにかおかしい。
揺らいでいる。ゆれている。
ズレテいる。地滑りがおきている。
ねじれている。逆円錐形のトルネードが発生した。
失楽園だ。堕天使だ。地獄に巻き込まれる。
現実にゆらぎ、ずれ、ねじれがはじまっている。
疲れている。刑事の質問に応答した。初動捜査に協力させられた。
疲れている。爆発さわぎ。
後になって判明した。副総理のお嬢さん日名子の拉致?
誘拐?
それとも失踪? ……についてまるで訊問のような会話がつづいた。
警察でも、実体がとらえられないで困っていた。
この事件の『何のために』という動機がわかっていないみたいだ。
おれにだってわからない。
1、何人が(犯人)
2、何人と共に(共犯者)
3、何時に(犯行日時)
4、何処で(場所)
5、何人に対して(被害者)
6、何故に(動機)
7、どうして(犯行手段)
8、何をしたか(結果)
刑事から受けた犯罪捜査の『八何の原則』が脳裡に浮かんだ。
3と4と5と7。
しかわかっていないではないか。
それだって、曖昧、不分明なところがある。
われわれ被害者の側にも、被害をうけた理由がわからないのだ。
単なる『愉快犯』であるはずがない。
目黒でも止まらない。
恵比寿でも。
いきなり渋谷の道玄坂をのぼっていた。
むかし『恋文横丁』ここにありき。
なんだか、頭が、怪しくなっている。
道玄坂の階段。坂だから階段なんて連想は怪しい。
それなら怪談くらいにしたら。道玄坂に階段はない。
これは怪談だ。なにか怪しいことが突発している。
いや――怪しくなっているのは――おれの頭だ。
濃霧の中を歩いているようだ。
妖霧の中にいるような感覚に支配されている……。
「あなた」なんだよ。急にあらたまって。
「あなた……。むかしふたりで通った『ライオン』ですよ」
そんなバカな。ミイマと会ったのは故郷鹿沼だった。
名曲喫茶『ライオン』でデートした覚えはない。
やはりおれは頭が怪しくなっている。
「あなた……」
「GG――」
GGGGGGGGGGGGGGGG。目覚ましみたいだ。
「いま何時だ、いや、ここはどこだ」
「やっと気づいたのね」
「GG。どうしたの? 悪い夢をみていたみたい」
と翔子が心配している。
あどけなく頭を傾げている。
傾斜しているのは、おれの足もとだ。
意識がはっきりとしてきた。
おおお……、とおれは、言葉がすぐにはでない。
おれはまちがった想念にとりこまれていた。
おおお。は――数字変換では666なのだ。悪魔の数字だ。
まちがった想念の行きつく先は……。
おれは、リバイヤサンの顕現に、ヨハネの黙示録の巨大怪獣の出現に立ち会っているのか。世の天変地異、巨大なる反作用が起きることに直面しているのか。注。詳細は「サタンの思想」を検索してください――作者。
連続して、起きるという悪魔の所業のあと二つは、偽教団を使って、真実の教えを説かんとする救世の法を迫害すること。そして、人々の心に不信感を広げて、各地に戦争を起こすこと。
T国との領土問題。検事の不正行為。……悪魔の胎動だ!!!
不信感が広がっている。それをマスコミが煽る。
おれは坂の上にたっていた。
坂の上の雲でなく、坂の上のおれ、だぁ!!!
おれは、ライオンのまえで固まっていた。
ライオンの窓のシェイドが赤、みどりに光っていた。
注 『八何の原則』については島田一男『捜査本部』を参考にしました。
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