田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

スリットから現れたのは/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-13 03:56:53 | Weblog
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「昔は、人のいない場所に異次元スリットが開いたのにね」
玲加との携帯を切るとミイマがいった。
土蜘蛛は百地組のクノイチと紅子に追い立てられ全滅した。
不思議なことに倒れると青い煙となって消えてしまう。
後には嘔吐をもよおす臭気がのこった。
「大江山とか、京都の鞍馬山。鹿沼の古峯神社。鬼やテングはそういうところへ異界からスリットをとおってやってきた。それが都会の繁華街のビルにスリットが出来るとはね、おどろきよ。都会に妖気が満ちているわけね」
ミイマは奥の壁に向かって朗々と般若心経を唱えはじめた。
翔子もなにがなんだかわからないが、ミイマに和した。
壁が震えている。
キーンと金属音をたてはじめた。
翔子と純が街できいた音だ。
ふたりをこのビルに導いた音だ。
なにが起きるのだろう。
こんなことをしていて、純をとりもどすことができるの? 
壁にはラップ音がひびく。
トントンと打音がする。
音に合わせて壁に亀裂が走る。
ぐぐっと上下にスリットは広がる。
スリットから流れ出る暗黒の渦。
異界の妖気がそのスリットから吹き寄せてくる。
ラップ音が速くなる。
そして、異界の眠りから覚めたものがうごめきでた。
赤く輝く双眸。
まさに、憎悪と怨念を秘めた両眼。
鬼のものだ。
吸血鬼のものだ。
怨念のために鬼と化したものの目だ。
この世に恨みのあるものの顔だ。
スリットから純の気が漏れてくる。
純だ。
純だ。
純の気が感じられる。
喜びの戦慄が翔子の全身を震わせた。
「純!!!」
翔子はスリットにかけこもうとした。
百子に止められた。
純が生きている。
純がいきている証明ともなる気がさらに強くなる。
ミイマの読経が高らかにひびく。
純が転げでた。
ジーンズの少女を片手で抱えている。
日名子だ。
「純!!! 日名子センパイ」
翔子が純の背後に迫った鬼に腕を斬りおとす。
鬼が咆哮する。
部屋全体が震えた。
「キツイ女子だ」
斬り落とされた腕をひろいあげた。
切断面にぴったりとつける。
みるまに皮膚が再生した。
薄い紅色の切り口もきえていく。
そして形体も……。北面の武士。
「やはりあなたでしたか。信行さま」

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