田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

浮かび漂う霊/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-07 07:01:55 | Weblog
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いつもの夜とちがう。
テレビでは死傷者85名と発表していた。死者は8名。
重傷者がいるからまだ増えるらしい。
歌舞伎町には人があふれている。
だがいつもの活気はとりもどしていない。
歌舞伎町スクエアに集まるダーティゾーンに生息する外国人たちも冴えない顔をしている。刺殺魔がふりまいた恐怖を媒体として悪意が渦をまいている。
「怖い世の中になったわね」
けっして怖がっていない声で翔子が純にはなしかける。
純とふたりなのでうれしそうだ。
「純といれば怖いものなし。わたしたちのコンビは無敵よ」
「そうでもないと思う。この世の中ぼくらの知らないところに、なにが潜んでいるかわからない」
「わたしは純といっしょだったらいつでも死ねるよ」
「それはぼくもおなじだ。翔子から連絡もらったとき、うれしかった。これからは翔子のそばにずっといっしょにいたい」
「うれしい」
「どこにもいかない。翔子のそばにいる。そうおもうと胸があつくなった」
「うれしいシ」
悪意の渦がリアルになった。
悪意の渦が……とは修辞の上でのこと、
言葉でそう表現していただけなのに――見えた。
「ね――」
「あっ」
ふたりで声をだした。
ふたりで言葉がつまった。
「見えた」
「見たのか」
またふたりして絶句した。
渦が白くすけて実体化した。
いくつもの渦が中空に浮いていた。漂っていた。
「シャボン玉みたい」
ても、その浮かび漂っている渦はシャボン玉みたいなロマンチックなものではなかった。
渦はヒトの顔にみえた。
新しくは今日ここで刺殺されたひとたちだ。
古くはこの街に呑みこまれ青春の夢をいだいたまま死んでいった、
成仏できないでいる若者たちの魂なのだろう。
「かわいそう……」
「どうして、いままで感じるだけで見えなかったのだ」
「わたしたちは、あまりハッピーになってはいけないのよ。わたしたちが幸せを感じるとあのひとたちを刺激する。あまり幸せになれないで死んでいったひとたちに嫉妬されるのだと翔子テキには思う」

翔子は両手をあわせた。

おびただしい渦が集まってきた。
ブアンとふるえている。
ビーと振動している。
「これよ。この波動だわ。なにか邪悪な念波がどこからか放射されている」
渦はにごってきた。
渦には兇暴な行動を誘発するような、
ひとをナイフで傷つけたいような思いの粒子でできていた。
『刺せ。あいつらを刺し殺せ!! やれ!!!』
翔子はみみをおおった。
純が走りだした。
念波の発信源をたどっている。
純はどこからこの悪意が発信されているのか――わかったのだ。
 
 
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