田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純を助ける。父の帰還/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-25 02:02:34 | Weblog
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翔子は顔から血の気が失せた。
背筋が粟立ち、寒気がした。
純がふらふらと歩いている。
後ろ姿だった。鬼切丸をさげている。
何度か、歩道から車道に下りてしまう。
車が警笛を鳴らして通過する。

「酔つてるの?」
「いや、意識がない。憑依されてる」

歩道すれすれにくるまが進む。
追い越した。
翔子は助手席側からとびだした。
純を抱きとめた。
そのまま後部座席につれこんだ。
「純。純。しっかりして。わたしよ。翔子よ」
純の体が、さきほどの翔子のように冷たい。
震えている。
「純――」
「頬にパンチだ」
父の声がしている。
翔子はそれどころではない。
純といっしょに震えだした。

時間が止まってしまったようだ。
父の声だけがきこえる。
「翔子。うろたえるな。耳もとで呼びかけるんだ。もっと大声で、純を呼べ」
車は戸山高校の前を通過した。
高田馬場の駅前を西早稲田に向かう。
「純、純!!! 純」
翔子は必死で呼びかけた。

「あっ。おれだ。これから帰る。氷を用意しといてくれ」

「あなた。お帰りなさい」
母が静かに父に挨拶する。
この冷静さは、どこからくるの。
おじいちゃんはただうなずいている。
毎日帰ってくる勝則を迎える顔だ。
サムライだ。武士の家庭だ。
 Good old days、の日本の武士階級の家のシグサがこんなところにのこっていた。
翔子は祖父と母の振る舞いをみた。
静謐な立ち居振る舞いをみて冷静になった。

純を布団に寝せた。
アイスノンのバンドで頭を冷やした。

「氷なんていうようじゃ、おれも古いな」
「そうですよ、いまはこんなベンリなものがあります」

母が父をみてシトヤカニ応えている。

「おとうさん。勝則ただいまもどりました」
畳の部屋のためか、父が両手をついて帰還の挨拶している。

「わあ、ラストサムライの世界だ」
翔子が小声ではしゃぐ。
純がムクッと起きあがる。
「ここは、あっ、先生」
翔子が喜びのあまりその場にへたりこんだ。



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