田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

血の臭う街/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-06 09:07:29 | Weblog
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秋の夜の、さわやかな冷気が肌にここちよい街。
秋の月を、みあげて恋を語る季節。
 それなのに、街には血の匂いがまだこもっていた。
 季節はすでに寒々とした寒気に支配されていた。
 そして街は新宿、歌舞伎町。
 凶刃をふるった若者は逮捕された。逃亡した者もいた。
「あのままここにいれば、なんにんかの命は助けられた」
「まだ殺気がみなぎっている」
 翔子が純を見あげている。
 ふたりは歌舞伎町にもどってきていた。
 ふたりのいくところ、いつも血の臭いがしている。

 そして、日本の夜の街では――。
 凶刃をかざしてひとを刺殺しようとする者が――。
 確実にふえている。
 神戸で女友だちをかばって「逃げろ」と叫んだ高校生がいた。
 刺殺された。ふたりはまだそれはしらない。

「わたしと純……デートできる日がくるといいわね」
「いまでも、こうしてふたりだけだ」
「でも血の渦の中にいるみたいシ」
「ぼくらは闇と真っ向勝負をする世界にいる。邪悪なものと戦う運命なのだから」
「わかっている。わかっている。でもすこしはロマンチックなデートしたいシ」
 翔子と純。ふたりはいつしか手をつなぎ血臭の街を歩いている。
 のんびりとそぞろ歩きをたのしんでいるわけではない。
「昭和には、世界は二人のためにある。……なんて歌い上げられていたが、いまは暗い時代なんだ」
「だからこそ、愛が必要なのよ」
「だろうな……」
 ふつうの家庭ならもう眠っている頃だが、ここは新宿歌舞伎町、夜のない街だ。
 すれ違う人々の顔には不安の影がある。
 不安におののきながらも、刺激をもとめてさまよっている。
 刺されて、次々と倒れた人々。まだ翔子の脳裡に焼き付いている。
「やはりミイマの元彼Fのやっていることなのかしら」
「どういう関係だったか、ミイマには訊けない。古傷をつつくようで、聞けないよな」
「ミイマのことだ。万葉のころだったろうからロマンチックな恋だったのでしょうね」
 ロマンチックという言葉にこだわる翔子だった。

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