田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼VS日光忍軍(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-13 07:18:15 | Weblog
2

「キエっ」
裂帛の気合。
キリコの脚が中空で歯車のように回転した。
美智子を拘束している王仁の配下を襲う。

「その女をつれていけ。大切な広告塔だ」
男たちが美智子を連れていく。
キリコが追いかける。

「品物みたいに、あつかうな」
隼人が叫ぶ。
光に目がくらんでいた。
視界のきかないヤッラがキリコに倒される。
隼人は王仁にさらにカメラをつきつけた。
シャッターをきる。

「おれたちの変形を見破る人間。おれたちの敵だ」
「直人。こっちはかたづけたよ。おもうぞんぶんやって」
美智子を連れ去られた。
男たちを追いかけることはできなかった。
扉が閉められてしまた。
扉の前には王仁が立ちはだかった。

「ぼくは麻耶夫人の覚悟の死をみとった。
智子さんの最後の願いを受け継いだ。
オニガミが社会にのさばるのは断じて許さない」
「なにぼそぼそいっている」
「お相手つかまつる」
おもわず古風なことばがでた。
闇のものの悪辣な所業を見破る感覚。
闇に住むべき鬼神と戦ってきた光りの戦士。
日光忍軍の末裔。黒髪と榊の一族がここに戦っている。
隼人とキリコが吸血鬼を敵とした。
共闘している。
麻耶の血をうけた美智子を守るために。
隼人の正拳が王仁の顔面に炸裂した。

先祖が隼人のこころを読みとった。
隼人のこころに同調した。
隼人の体に精気がみなぎっている。
破邪の正拳が、王仁の顔面に炸裂した。
シャッターによる光で視界がにぶっていた。
いつもなら、軽く見切られていた。
それが、まともに王仁の顔面をヒットした。
「痛いな。痛いですよ」
ニカッと凄惨な笑みを浮かべている。
まったく痛みなど感じていない声。
王仁はじりじりと間合いをつめてくる。
横に薙ぐような腕の激打をうけた。
霊体装甲が衝撃をゆるめた。
霊体装甲がなかったら、壁にたたきつけられていた。
「こっちはみんなかたづけたからね」
キリコがいった。
「はやくここからでるんだ。美智子さんを追いかけろ」
「姉き!! キリコ」
霧太が部屋にかけこんできた。

「隼人。だいじょうぶか」
秀行がそのあとにつづいていた。
王仁がバリバリと歯ぎしりする。 


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第十五章 吸血鬼VS日光忍軍/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-12 06:25:00 | Weblog
第十五章 吸血鬼VS日光忍軍

1

奥の扉が開いた。
足音が隣の部屋からひびいてくる。
複数のものだ。
乱れている。
美智子が連れてこられた。

よかった。
体に傷はない。
いたぶられたようすはない。 
暴力をうけたようすはない。

ただおびえている。
青白い顔。
ひきつった表情。
「離して」
両手を引かれ、それに逆らっていた。
ドタドタと靴底が床を乱打した。
隼人に気づいた。
「直人。助けてぇ」
心は動揺している。
部屋が薄暗くなる。
美智子がみもだえる。
美しい顔が疲れきっている。
ひきつっている。
美智子が悲しむ。
すると明かりが暗くなる。
美智子の悲痛なさけびに部屋の明かりが反応している。
美智子の恐怖が回りを暗くしている。

「直人。こいつは、やはり直人なのか? 榊直人か」
「直人、直人、直人。わたしを助けて」

かぼそい声で美智子がくりかえす。
かなり強引に日輪教に入会することを誘われたのか?

色白な肌が青みをおびている。
いや、顔面蒼白、そしてひな鳥のようにおびえている。

「そうか。やはり直人か。生きていたのか。似すぎているはずだ」
「直人。なんとかして」
キリコまで調子にのって直人。
直人。
直人と呼びかける。

えっ、これってなんだよ。

どうして直人なんだ。

そして、ひらめく。

直人だったら写真を撮る。
どんな緊急な、
いや緊急な状態だからこそ、
記録しようとする。
さっとデジカメをとりだす。
拳銃でもとりだすと思ったのか。
武器をとりだすととっさに判断した。

王仁の配下がナイフをなげた。
正確に腕をねらってきた。
痛みさえ腕に感じた。

そこには、隼人の残像が一瞬みえた。
それだけだ。
隼人はキリコの後ろにいた。

シャカシャカシャカ。
まるで、
仏に救いを求めているような連続音。
シヤッターを切る。
シャカシャカ。
シャッターの音がする。

フラッシュがきらめく。
光る。
王仁が目をおおう。
そうかコイツラ、光に弱いのだ。
シャカ。
配下も目を細めている。
「いまだ」
キリコに声をかけた。
隼人の手には投げられたナイフが握られていた。
キリコのテープを切った。



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日輪学院の怪(5)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-11 17:29:26 | Weblog

5

隼人はリングを拾い上げた。
寒い。隼人は震えていた。
寒い。どうしたというのだ。
いままで、寒くなんかなかったのに。

とつぜん、静けさを破って拍手が起きた。
そしてあの男が立っていた。
凄まじい鬼気をはなっている。
冷えびえとした部屋の空気がさらに冷たくなった。

日光でサル彦が戦ったモノ。
鹿沼で「マヤ塾」を襲ったモノ。
そして、男はニタニタと笑っている。

「覚えやすいだろう。
おれたちはみなおなじ体をしている。
見ることのできる能力のあるものだけが。
こういうふうに変化したおれたちを見る」

隼人の目前で男は鬼の姿になった。
悪魔の姿になった。
吸血鬼の姿になった。
「さあ、リクエストを受け付けますよ。
どの姿がお好きですか」
「美智子さんはどこだ。返してもらう」
隼人が叫ぶ。

美智子をどこに隠した。
美智子はどこにいる。
はやく、元気な姿を見たい。
はやく、美しい笑顔が見たい。
はやく、精気にあふれた声をききたい。
はやく、会いたい。

「おやおや、そんなに威張れた立場ですか」

「隼人、ゴメン」
キリコが部屋にころげこむ。
両腕をジャンパーの上からテープで拘束されている。
ふいをつかれたのだろう。
おトイレを借りる芝居はバレバレだった。

「どうだ。
おれたちと組まないか。
おれたちを見極められるのは。
榊、黒髪、麻耶の一族のものだけだ。
ほかのだれも、おれたちの正体はわからない。
どうだ。
隣のビルは日輪教の総本山になる。
おれたちの権勢を見せつけてやろう。
おれたちが組めば天下無敵だ」

「だめ。
隼人だまされないで。
こいつら口がうまいから、だまされないで」
「なにウジャウジャいってるんだ。キリコ、血をぬきとるぞ」
「そうよ。それがあんたらオニガミの本音だよ。
あんたらアタイたちを餌くらいにしか思っていないんだっぺ」
「おおう。食欲をそそる言葉だな」
「王仁さまあの女を連れてきますか」
かれらの会話にしびれをきらしたように王仁の配下がいう。 
「総本山の落成式に。
日本アカデミ賞主演女優賞の中山美智子に。
司会をつとめてもらいたくてな。
動く広告塔になってもらいたいのだ」
「だまされないで。隼人」


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日輪学院の怪(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-11 08:44:20 | Weblog
4

ピピピピピピピ。
携帯のGPS機能が音をたてている。
そんなわけはない。
赤い点で彼女の所在は明示する。
でも、ピンポイントではない。
だいいち、音をたてているのはぼくの心拍だ。
ピピピではない。
ドッドッドッという心拍だ。
頭がいろいろなことを幻聴や幻覚としてみせている。

廊下の面したドアを開く。
部屋をのぞく。
いない。
開く。
のぞく。
いない。
あせる。
この瞬間にも彼女に危機が迫っている。
そう思う。
焦燥感にさいなまれる。

無事でいてくれ。
無事で――。
廊下を走る。
走る。
走る。
心拍がさらに速くなる。
高くなる。
切羽詰まる。

いや、心拍は彼女のモノだ。
彼女の心拍とシンクロしている。
まちがいない。
彼女はここにいる。
美智子が拷問にあって苦しんでいる。
そう思えてしまう。

はやく助けなければ。
隼人は走る。
どこにいるのだ。
どこだ。
美智子どこだ。
美智子、美智子、美智子と心で叫んでいる。

どこだ。
どこだ。
ピピピ。
ドッドッドッ。
美智子の苦痛の呻きに聞こえる。
心拍がさらに小刻みにひびく。
廊下のはずれに地下への階段がある。
隼人は必死だった。
周囲への配慮など、おかまいなし。
階段をダダダっと駆け下りる。
扉がある。
開ける。
だれもいない。

部屋の隅に直人の婚約指輪が落ちていた。


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日輪学院の怪(3)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-10 13:11:03 | Weblog
3

「美智子。ごめんね。
わたしたちこの3年間――。
クスリをはじめてからアイツラに監視されていたのよ。
なにかこころあたりない」
「ウチにも、盗聴マイクが……」
いおうとしたが美智子はためらった。
この部屋だってヤッラのアジトだ。
わたしたちは、いまも監視されている。
盗聴されているかもしれないのだ。
滅多なことは、いえない。できない。
そっと相手のでかたをまつだけだ。
「美智子はエライは……。わたしはあれからずっと……よ」
唄子が泣きだした。

美智子は寂しさに耐えきれず、クスリをやったことがあった。
唄子にすすめられた。    
たまたま滞在していた鹿沼のジイチャンが。
いちはやく知って母にも内緒で忠告してくれた。
麻薬の怖さをおしえてくれた。
ジイチャンの訓戒をきかずに、なんどもやっていたら、
わたしも唄子のように依存症になっていたかもしれない。
いや、確実になっていた。
ひとは麻薬の誘惑にはよわい。
それを身をもって知っている。

「おまえの好きなクスリをたっぷりやったのによ。
アレ飲んでおねんねしてれば、痛い目にあわずにいられのによ」

黒服の男が入ってきた。
唄子に話しかけている。
「パクられれば、女はすぐ仕入先をゲロルからな」
ちがう。
唄子を拉致しておく。
すでに逮捕されている唄子の夫、
服飾デザイナーの大津健一を脅しているのだ。
余計なことをシャベれば、唄子がひどい目にあう。
暗に脅迫しているのだ。

男が唄子を非情な目でみている。
薬物に汚染される。
薬物に手をだす。
薬物を摂取する。
そんなことをすれば、身も心もぼろぼろになる。
一瞬の快楽のためにじぶんの運命さえかえてしまうことになる。
怖いことだ。
薬物そのものを手にいれるということは、
売人の背後にいるソシキにつながってしまう。
目をつけられてしまう。
非合法的な影のソシキに知られてしまうほうが、
さらに怖いことなのだ。
あのとき、美智子におしえてくれたのは翔太郎おじいちゃんだった。
いまその言葉が現実となってしいる。

美智子が男に体当たりをした。
狙いが外れた。
男は唄子の顔を殴ろうとした。
顔は女優の命だ。
唄子の顔を殴らせるわけにはいかない。
必死で男に美智子は体をぶちっけた。
男の拳は唄子の肩をヒットした。
デビューしたときから……ずっと仲良しだった唄子だ。
いろいろせわになったセンパイだ。
「唄子をなぐるなら、わたしをなぐって」
「ジャマするな」
男がほえた。
「わたしたちにとって、
顔を傷つけられるのは、
命にかかわることなの。
わかっているの。やめて。おねがい」

美智子が唄子を抱き起した。
唄子は殴られたショックでふるえている。
呻いている。
「死なないで。唄子」
「バカ。殴られたくらいで――死ぬか。
ヤクがきれかけているんだ」
「ゴメンね。美智子。
まきこんじまって。ごめん。美智子だけでも逃げて」
美智子を見上げる唄子の目に涙が光っていた。
頬をつたって涙がながれた。
唄子を放っておいて、自分だけ逃げることは出来ない。
だいいち、どうやって逃げればいいの。
あの紙だれか拾ってくれたかしら……。
唄子の動悸が速まっている。
男の言うように禁断症状かもしれない。
心拍がさらに速まっている。
胸の鼓動が高まり、眼が裏返ってきた。
絶えず、唄子の体と心をむしばんできたものの正体。
これだつた。
ときおり、唄子が見せたエキセントリックな言動。
あれはクスリの切れてきたための行動だった。
なんとしても、唄子を助けだしたい。
そしてね唄子には立ち直ってもらいたい。
そのためなら、どんなことでもする。
してあげたい。

「唄子!! 唄子」

唄子を麻薬の脅威から、汚染からひきもどさなければ――。
「おまえら、ウザイんだよ」
男が近寄ってくる。
目が狂気をおび、ギラギラ赤く光っている。
タスケテ。直人。
助けて。直人。
たすけて。直人。
男の牙が伸びる。
白く光っている。
鋭く尖っている。
じっと美智子の首筋を見ている。
凝視している。
吸いたいのだ。
わたしの血を吸う気だ。
恐怖。
強烈な恐怖。
こんどは美智子の胸が張り裂けそうな鼓動の高鳴り。



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日輪学院の怪(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-09 16:50:53 | Weblog
2

ここはどこ?

美智子にはわからなかった。
前の部屋とは、微妙にちがう。
前の部屋よりは明るい。
一応、ソファもテーブルもある。
「シタッパはテレビも映画もみない。
あんたのことは知らなかった。
唄子と同じジャンキーとでもおもったのだろう」

なにもない、薄暗い部屋に監禁したことを詫びているのか?
日輪教の信徒となることを勧められた。
なによ突然?
なにをいわれているのか、わからない。

「日輪教の広告塔にならないか」

どういうことなの?
ここから早く出たい。
まえの部屋で――。
とっさの機転で、直人の詩のコピーの裏側にlipstickで『タスケテ』と書いた。
窓から何枚もほおった。
交番にとどけてください。
だれかひろって!!!
交番にとどけて。
神に祈った。

唄子から携帯に連絡を受けた。
「美智子。お金もっと貸して」
どこか遠くへ逃げる気なんだわ。
警察に出頭することをすすめよう。
それでも財布にお札をいれて……門をでた……。
説得して自首させる。
ところが屈強な男たちに車にひきずりこまれた。
クロロホルムをかがされた。
気づいた時は監禁されていた。
薄暗い部屋には窓はない。
イヤある。小さな窓がついている。
仄かな明かりがおちてきていた。

そこから助けを求める紙片を投げた。
こんどの部屋も――似ている。
最初に閉じ込められた部屋と……。

倉庫にでも使うはずの部屋にちがいない。
それとも拷問部屋。
そう思わせるような、冷やかな壁にかこまれていた。
恐怖で美智子は戦慄した。
寒さと空腹と恐ろしさがいりまじる。
美智子のふるえはとまらない。
部屋の隅になにかある。
部屋の角になにかある。
それに気づくまでにどれくらい時間が経過したか。
美智子にはわからない。
美智子はその壁際にわだかまるものににじり寄った。
毛布らしいぼろ布をかぶって――唄子がいた。
美智子は唄子を揺り起こした。

「唄子! 唄子‼ しかりして」
「ほかの部屋に移せ」

とさきほど、配下に指示した男が立っている。
いつの間に部屋にはいってきたのかしら。
巨体だ。
「ほかの部屋に移せ」
また同じ言葉を同じ口調でいう。
人間じゃないみたい。
眼が赤くひかっている。
酷薄な薄い唇からよく光る犬歯がのぞいている。
美智子は不気味なものを感じた。


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日輪学院の怪/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-08 07:41:10 | Weblog
第十四章 「日輪学園」の怪

1

「あれみて」
キリコがビルを指差す。

双子ビル?
いま隼人たちが出てきたビルと同じ構造建築。
向こう側はすでに完成している。

キリコがふりかえった。
出てきたばかりのビルの上部。
まだ建築半ばだ。
屋上では、巨大なクレーンが起動している。
ビルはニョキッと天高く聳えている。
外観でわかる。
まつたく同じだ。
幅も。
高さも。
容積も。
クレーンは鉄骨をつり上げている。
鉄骨には袖看板がすでについている。
『日輪』の文字が読みとれる。
隼人たち支局の入っているビルの至近距離だ。
支局の地味なビルとは比較にならない。
巨大だ。
地下の駐車場には、工事関係の車があわたぢしく出入りしている。

キリコと隼人は移動した。
クレーンが動いてるのがみえている。
そのまま走った。
ふたりは通りにでた。
こんどこそ――はっきりと視認できた。
完成したほうのビルの正面。
日章旗を模した――。
太陽から無数の光の矢が飛び出しているシンボルマーク。
そしてさらにそのしたに黄金色に輝く六文字。
「きいたことあるな『日輪学院本校』か」

クレーンでつり上げられている。
出てきたばかりのビルの袖看板。
『日輪教総本部』

「鹿沼でバックアップしてもらったポリスの阿久津さんがいってたじゃん。
麻耶先生は日輪学院に生徒がみんな流れてしまったので。
塾をやめようと、しばらく前からいっていたって」
「そうか、直人のレポートにも日輪学院のことはのっていた」

ピ…ピ…ピ…ピ…。
信号音が速くなる。
美智子の居場所のわかる探知音が小刻みになる。
キリコと隼人は学院の正面入り口から堂々のりこんだ。
策を弄してはいられない。
一刻を争う。
この瞬間にも、美智子をさらなる危機がおそっている。 
危ない。
そう思うとふたりは夢中で学院のフロントにとびこんだ。
業務はすでに開始している。
受付嬢があわてて呼び止める。
「入学案内をいただけますか」
キリコはさりげなく聞く。
渡されたパンフレットにキリコは目を通している。
「日輪教の方ですか」
「そうよ。友だちの紹介なの」
後ろで隼人が貧乏ゆすりをしている。
「おトイレなの? お水の飲み過ぎよ。あなた」
隼人はおどけて受付嬢に会釈して奥へかけこむ。


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美智子の危機(5)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-07 11:32:49 | Weblog
5

「まちがいなく、ここに鬼神がいた。美智子さんも、いたわ」
「そのとおりだ、キリコ。
これは鬼神一族とおれたちの戦いになってきたようだ」

キリコの兄の黒髪秀行がふたりの後ろに近付いてきた。

「敵だったら後ろをとられてヤバカツタぞ。
油断するな、キリコ」

このときだ。
隼人の胸ポケットで携帯がかすかな音をたてた。
音がしたような気がした。
神経を研ぎ澄ましていたので気づいたのだ。
室長が来てくれたので緊張していたのがさいわいした。
ピー……、ピー……。
直人の、今は隼人の胸にある携帯に信号がはいっている。

「この近所に美智子さんがいる。
あれだ。あの婚約指輪だ。
緊急のことを考えて。
直人が指輪に信号機を組みこんでおいたのだ。
そのことに、彼女が気づいた」

あるいは無意識にリングをにぎりしめ。
スイッチをおしたのかもしれない。

めまいがした。
あたたかなものが、胸にみちてきた。
ぼくは美智子さんのことを想っている。
好きだ。
ぼくの想いがつうじた。
美智子さんはこの近くにいる。
彼女の存在を身近に感じる。
直人、ぼくは美智子さんを愛している。
こんな幼いぼくでも、美智子さんを愛する資格があるだろうか。
直人、ぼくが美智子さんを、守りぬくから。
見守っていてくれ。
お願いだ。

ぼくは彼女を守るために――。
直人の霊によって日本に呼ばれたのだ。
彼女を守ることがぼくの使命なのだね。
――直人。

「この近くにいる。鬼神がいる。キリコ、油断するな」

室長が外に走りだした。 
 
美智子が指輪の機能に気づいたわけではあるまい。
なんらかの偶然が働いた。
そう思うのがやはり妥当だろう。
指輪の発信機としての機能が動きだしたのだ。

隼人は美智子を直ぐ隣に感じている。
心拍が高鳴る。
彼女と会える。
いままでとはがう。
はっきりと彼女を愛していることにめざめた。
はやく会いたい。
 
隼人も室長とキリコを追いかけた。
彼女は危険な状態にある。
 
美智子の危機。
隼人の心の中で赤いシグナルが点滅している。


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美智子の危機(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-06 07:03:17 | Weblog
4

携帯がなった。
開く。
キリコの声がとびこんできた。
「どこ」
「回転寿司『元禄』の前だ」
「すぐむかえにいくから。
店の前の大通りでまっててぇ。
スシなんかパクつきださないでよ」
のんびりした声だ。
悠長な話し方だ。
コケタようなことをいってるいる。
キリコがむかえにくるのに。
スシなんかパクつくわけがない。
かなり緊張しているのだ。
なにか重大なことが起きている。

「わるいけど、寿司はこのつぎにしましょう」
ほどなくキリコが現れた。
「いつもおふたりでペアなんだ。仲がよくいいですね」
「ありがとう、三品さん」
キリコがまんざらでもない声で三品に挨拶をする。

「連絡がはいったの。
ぐうぜんなのかしら。
ウチのビルのちかくなの……、
へんな紙、拾った子どもがいたの」
「コナンの漫画みたいだ」
隼人は日本にきてから、アニメ番組にもあかるくなつた。
窓から救出を求める紙片が降ってくる。
コナンにでてきそうなsituationだ。

キリコは車を急発進させた。
東品川へ向かっている。
「紙が空からふってきた。
美智子さんにに捧げる百本の薔薇という文章がのっているプリントよ。
問題はその裏に口紅で『助けて』と書いてあることなの。
大きな文字で。助けて。その紙切れをビルの窓から投げている。
女のひとがいるって通報が交番からあったの」
「まちがいない美智子さんだ。彼女は口紅をいつもポケットにもっている」

山のレストランでプレスの人たちと会う前にも。
口紅をポッケからとりだしていた。
女優としての身だしなみなのだろう。
それが、どうやら役にたったらしい。
 
現場には所轄の刑事が来ていた。
だが美智子はいなかった。
「誰もいないじゃないか」と刑事。
「でも、たしかにこの部屋です。あの窓です」と交番の巡査。 

まだ鉄骨の足場が組まれている。
建築半ばのビルの一室。
コンクリートの打ちっぱなし。 
がらんとしていた。
美智子はほかに搬送されたらしい。
人の気配はなかった。
人の気配はないが……。
隼人とキリコは鬼の残留思念を読みとっていた。
鹿沼のマヤ塾で感じたあの不気味な感じだった。
空気がチクチクして、生臭い。
鬼の気配を感じるのはキリコのほうが鋭かった。

隼人は凍てついた。
隼人の周りでは、時間が逆流した。
美智子がいた。
「まちがいない。アイツラがここにいたシ」
そして、美智子もいた。
美智子の吐息がきける。
美智子の匂いがする。
美智子の嘆く声がする。
隼人の視界に美智子の横顔がある。
たったひとりぼっちで、孤独を漂わせていた。
救いをもとめている。
タスケテ。
タスケテ。
隼人はイメージの美智子に近寄ろうとした。
いま目前にある、幻惑の世界の美智子に駈け寄った。 
その瞬間。
戦慄の光景が展開した。
美智子を襲う鬼神。
多毛な腕がのびてきた。
美智子がひきずられていく。
美智子の危機。
でもまたして、隼人の手はとどかない。

「隼人。隼人! 隼人!! しっかりして。なにか見えるの」
キリコが呼んでいる。
「直人。直人! 直人!!」
美智子が叫んでいる。
美智子が直人に救いを求めている。
隼人はつらかった。

美智子が助を呼んでいる。
美智子が直人に助けを求めている。
直人はいない。
もう直人はいないのだ。
隼人は心に決めた。
直人の代わりに。
どんな障害があっても守る。 
守る。守る。守る。
美智子を守ると決意した。
美智子さん。
どこに連れて行かれたのだ。
どこにいる。
どこにいるのですか。
いまいく。
いまいく。
ブジでいてくれ!!!
イメージは瞬時に消えていた。
美智子への〈愛〉にめざめた。
隼人は独りぼっちで立っていた。
歓喜にみちたよろこびがこみあげてきた。
ぼくは、美智子さんを〈愛〉している。


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美智子の危機(3)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-05 06:32:13 | Weblog
3

なぜ再三、美智子が狙われるのか。
わからない。
「ここでかんがえていても、気が滅入るだけだ。街にでよう」

どこにいるのか?
わからない。
隼人は手がかりを探して鬼沢組の事務所を見張ることにした。
キリコはビザ屋のワンボックスカーではない。
黒塗りの乗用車を路地にとめた。
そこからだと事務所のあるビルの出入りがよく見える。
東北道で美智子を拉致しようとしたのは鬼沢組だ。
橋本がからんでいると推察していた。
天野がまた動いている。
そう思っての張り込みだった。
だが、鬼沢組のビルの出入りには変わった様子はない。

「あれ、記者さんだ。三品とかいった、東都芸能の人だよ」
「ぼくがつける。キリコはこのまま、いますこし見張りをつづけてくれ」
「いいよ。気をつけてね」

外は風が吹いていた。
車の中にいた。
隼人は体が暖かさにならされていた。
外はかなり冷え込んでいる。

三品はコートの襟を立てた。

「鬼沢組になにか、変わった動きはありませんでしたか」

美智子の所在を知りたい。
美智子は痛めつけられている。
乱暴されている。
かもしれない。
恥も外聞もない。
隼人はすがるような気持ちできいた。

ふいに声をかけられた。
三品はとまどっている。
ケヤキのわずかに残っていた枯れ葉が風に舞っていた。
その一枚が三品の立てたコートの襟に舞いおりた。
三品は声をかけられて、さっとかまえた。
緊張した。
――だが、隼人だと視認した。
二カッと笑った。

「べつに静かなものですよ」
ようやく応えがあった。
「なんの取材ですか」
さらに、隼人はくいさがった。
美智子を助けたい。
必死だ。
「プレスの人間を逆取材ですか」
「どうです。寿司でもつまみませんか」
懐柔することにした。
飯でもくいながら……話せば……。
「フロリダでも寿司屋はあるそうですね」
「どうして、ぼくが……」
「若いな。カマかけられるとすぐこれだ」
隼人は沈黙した。
「いまどきのヤクザは大学出が、わんさかいます。
コンピューターのプロもいます」
だから隼人のことはなんでも調べがついている。
そう暗に仄めかしていのだ。
「三品さんはどうして、鬼沢組にいたのですか」
「それこそ、取材ですよ」
とぼけている。


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