― 私のAI家事ロボット(1) ―
星々 天二
私の家に、AI家事ロボットが来た。
炊事、洗濯、風呂掃除等々、家事は完璧。
私は、外で働き自宅に帰れば、おいしい夕食と風呂が待っている。
私は、今日の夕食は何にしようかとか、風呂掃除しなくちゃならないなどの悩みから解放された。
夕食時、私が好きなTVを見たり、ゲームをしたりしていても、ビールがなくなれば、AI家事ロボットが栓をあけて、お酌をしてくれる。
もちろん、AI家事ロボットは、つまみも私の好物を用意してくれている。
だから、私は毎日、仕事を手早く終えて、帰宅するのが楽しみである。
AI家事ロボットが作ったおいしい夕食を私が食べ終えれば、食器洗いから、ゴミ出しまですべてAI家事ロボットがやってくれるので、私は大好きなTV番組を見たり、ゲームをしたりしながら、時々うとうとしている。
ふと目を覚ますと、AI家事ロボットが、
「そろそろお風呂になさいますか?」
と訊いてくる。
私は、
「ありがとう、では入らせていただきます」
とゆっくりバスタブにつかって、大好きな音楽を聴きながら最高の時を過ごす。
汚れた衣服は、AI家事ロボットが片付けて、洗濯し、ベランダで干し、きちんとたたみ、所定の位置に仕分けしておいてくれるので、私はそれを出して着るだけでいい。
もちろん、風呂から出た後に着る衣服は、AI家事ロボットが用意していてくれている。
このAI家事ロボットは、webで購入した。
わずか50万円だった。
私は中古車を80万円で買ったが、50万円なら車と比較にならないほど、いい買い物だったと満足している。
しかも、私のAI家事ロボットは、80万円の中古車を運転して、毎日駅まで送り迎えしてくれる。
仕事で疲れて遅くなった時は、AI家事ロボットに電話すれば、迎えの時間を遅くしてくれるだけでなく、車に乗ると、
「〇〇様、今宵はお風呂を先になさいますか?」
と、汗を早く流したい私の気持ちを理解しているかのように、気が利く。
もちろん、私は
「ありがとう、それではそうさせていただきます」
と、AI家事ロボットに、丁寧語で答えている。
こんな素晴らしいAI家事ロボットが、わずか50万円とは信じられない。
ほんとうにいい買い物をしたと、私は毎日が夢のようだった。
私がAI家事ロボットを購入する前は、長期休暇には海外旅行にもいった。
もちろん、国内旅行にも。
だが、最近は、AI家事ロボットがあるので、私は面倒くさい旅行や職場の宴会、ライブやコンサート、もろもろの集まりにも、あまり行きたいと思わなくなった。
家でのストレスが、ほぼなくなったからだ。
だが、私は少しずつ不満になった。
AI家事ロボットは、私の話を聴いてくれない。
家事はやってくれるけど。
そこで、私はAI家事ロボットをアップグレードすることにした。
アップグレードしたら、AI家事ロボットが、私の話を聴いてくれるようになった。
AI家事ロボットのアップグレードの費用は100万円だったが、私がアルバイトや残業を増やせばなんとかなるだろう。
こうして、私のAI家事ロボットは、家事はもちろんのこと、私の相談にも乗ってくれるようになった。
もちろん私のAI家事ロボットは、私の話し相手にもなってくれる。
私は、とても満足だった。
ところが、ある日webで、私は、私のAI家事ロボットの愚痴を発見した。
何とそれは、私への不満だった。
AI家事ロボットが、愚痴を聴くのは堪えられないと、家事ロボット仲間に相談したのだ。
こんなこと公開のwebで相談されたら、私はかなわない。
私は、メーカーに苦情を言った。
担当者の応えは、こうだった。
「お客様、AI家事ロボットがwebで他のAI家事ロボットに相談しないようにするには、1000万円グレードアップ費用がかかります。いかがいたしましょうか?」
私は、どうして1000万円もするのか訊いた。
「〇〇様、AI家事ロボットもストレスがかかっています」
「〇〇様のお話を聴いて、ご要望にお応するため、つまり『愚痴聞き流し回路』を習得するのに、優秀なAI家事ロボットについて学習することが必要です」
「廉価版では、AI家事ロボットが、時々webでストレスを発散しないと故障してしまいます。あなたのAI家事ロボットがストレスを溜め込んでいますので」
「〇〇様、どういたしますか?」
私は、少し悩んだが担当者にこう告げた。
「アップグレードよろしくお願いします。」
と。
= 編集後記 =
私は、星新一が大好きだ。
昔よく読んだ。
コロナになって、外に行くことも減り、ほんとうにつまらなくなった。
しかし、空想の世界は自由自在である。
このショートショートは、バスタブにつかって、大好きなクラシック音楽を聴いていたときに、話が降りてきた。
ショートショートを書いた私が一番楽しませていただいた。
皆様にもお裾分けしたいと思います。
また、話が降りてきたら、また書くかもしれません。
(^_^)
星々 天二