蝉時雨
ベンチに忘る
帽子かな
せみしぐれ se mi shi gu re
べんちにわする be n chi ni wa su ru
ぼうしかな bo u shi ka na
友人と大宮の氷川神社を訪れた。
氷川神社は、全国の氷川神社の総本社である。
すさのおのみこと、いなだひめのみこと、おおなむちのみことが祭神である。
東北本線のさいたま新都心駅付近から、延々2kmに及ぶ参道を歩いてみたかったからである。
写真のようにケヤキに覆われた参道は、とても涼しかった。
訪れた日は、気温が34度くらいはあったと思う。
しかし、駅を出て、旧中山道から分かれる参道に入ると、ケヤキに日差しがさえぎられるのと根元近くに蓄えた水分の蒸発により、天然のクーラーであった。
それが、2km約30分も続く。
真夏なので水分補給も頻繁に行わなければならない。
それもあって、友達とベンチに座って休憩をとることにした。
このときまでかぶっていた帽子は、ケヤキがかわりになるので、ベンチの上に置いて友と2人で話に夢中になってしまった。
帽子を忘れたのに気づいたのは、そこから15分ほど歩いて、氷川神社の拝殿で帽子をとって参拝しようとした時であった。
私
「たぶん、もうないよ。大丈夫」
友
「戻ってみればベンチの上にきっとのっているよ」
私
「せっかくここまで来たのだから、ゆっくり参拝して、大宮公園もゆっくり見ていこう」
ということで、ゆっくり参拝して素晴らしい森林と池のマッチする境内をゆっくりと散策した。
もちろん、大宮公園では、ゆっくりとアイスクリームもいただいて、話に花が咲いた。
昼も近づいたので、駅近くで食事をとろうということになり、参道を戻った。
道々、
私
「多分ないよ」
友
「絶対ある。ベンチの上にのっているよ!」
と友は、励ましてくれるが、私はあきらめていた。
15分ほどして、最初休んだベンチの近くに来ると、ベンチで男性が1人休憩していた。
その男性の隣にさっき、蝉時雨の涼しさに心地よくなり、ころっと忘れてきた帽子がちょこんとのっているではないか。
友の言うとおりであった。
私は、帽子があったことも嬉しかったが、友が心配してくれベンチに一緒に戻ってくれたことがさらに嬉しかった。
その時の光景がふと今日になって浮かんできたので、俳句にした。
7月の末から台湾の台北(タイペイ)を訪れたとき、現地のガイドさんがこう話していた。
「私は、日本に留学していたときなくなった携帯電話が全て戻ってきました。」
「しかし、台湾では全て出てきませんでした」
と。
このガイドさんは、私たちに注意を促すように親切に言ってくれたのであるが、このガイドさんの言葉を私自身が大宮の氷川神社で体験することになった。
台北は、素晴らしかった。
MRT(地下鉄)の駅には、乗降した全ての駅にホームドアーがついていた。
人権、人権とお題目でいうのではなく、実際にホームドアーをつけて、人々の安全を最優先に考えている。
本当の民主国家だと思った。
ホームで降りれば、日本と違いエスカレーターの右側に順に並んで整然と、秩序正しく改札口へ向かう。
また、ビルの高さが502.9mある台北101からの眺望は最高であった。
たまたま、台風一過であったから空気がきれいなこともあったのだろう。
しかし、いつもは地べたにはいつくばって生きている自分たちを鳥の目になって見ると、こうも視点がかわるものなのかと思った。
できれば、2時間近くを費やして、ぼーっと台北の街を見ていたかった。
山並み、川、海、空港、ビル、寺など、自然と文化が渾然一体となった台北の美しい街を眺めることができたのは、とても幸せだった。
もちろん、本物の中華料理はおいしくて安い。
小籠包、臭豆腐など堪能した。
大人4人で、日本円で5000円を少し超える程度である。
胃袋まで超満足した。
また、是非台北を訪れたいと思った。
大宮の氷川神社のように。