〇博多から片道3時間くらいかけて初めてここまで来たキイロイトリですが、目的は
グラントワ(島根芸術文化センター)の中の、島根県立石見美術館の「めがねと旅する美術展」である。
青森、東京と巡回して秋に島根の益田に来たという展覧会だ。なにせ東京の会期には出かけられず、青森までは遠かったので。次の静岡も遠いし。島根も相当遠くはあるが、他の場所よりはまだ近い方(爆)ということで。
美術作品展示はともかく「見ること」「視覚」のトリックにこだわったテーマで集められている。
個人的にはこの手のラインナップだと、源氏物語屏風と洛中洛外図から始まって、歌川派とか司馬江漢とか吉田初三郎とか山口晃とか今和次郎とか生頼範義とか元田久治なんか、どっちかというとそれぞれの各個人展だけで行ってしまう勢いである。しかし、そういうのから現代のトリックアートぽいのまで、諸作家のものをあれこれ一気に集めているので、なんだかいつまでもそこに居てしまって、ひたすら見とれてしまう。音声ガイドはないけど、一つ一つ見るたびにじっと考えてしまうので、通るのに時間がかかるのだ。
迫力で圧倒されたのは不染鐵の富士山と伊豆の絵。鳥の、神の視点、というか。
…これが福岡市博物館なんかだったら人で混雑してきっと落ち着いてみられなかったんじゃないかな。ここまで来て、静かに、ゆっくりと時間をかけて、心ゆくまで見ていられるのって幸せだ。よかった。
今回はともかく、会場内の一角で、塚原重義監督の短編アニメーション「押絵ト旅スル男」をループ上映しているというのを聞いて、来ちゃったのですよ。(やっぱりそれか。)
この美術展は絵画や彫刻だけでなく工芸や映像作品に至るまで様々なジャンルが含まれていて、このアニメも展示作品の1つでもあるし、基調プロローグみたいな感じでもある。大きい画面で見られます。
今回は音声ガイドを使うのではないが、この音と映像の動きある作品で、また見入ってしまって。視覚というより聴覚的刺激の方になるが、覗きからくりの歌とリズムの刻まれる間に、老人(坂本頼光さん)と弟(梶裕貴さん)と兄(細谷佳正さん)の声がずっと流れていて、展示室にも音が伝わってくるし、なんとなく立ち去りがたくなってしまう(爆)。
そりゃ見てしまいますよ。原作と比べてアニメは「東京」に設定していて。震災前と震災後という言い方に、いかに大震災が人々の心に傷を残したかをも思うにつけても、今の現代に通じるシナリオなんだなと。江戸川乱歩の短編で話は知っていても、話が話だけに、最後のところは象徴的な意味があるのかどうか。細谷さんちょっと病んでる感じなのもいけますなあ(怖いw)。でも「人でなしの恋」とか、目に見えないものを感じ取るだの、視覚の欲望に囚われるだの、その手のテーマは自分には無縁ではなく(><)わかる気がする。所詮うつし世は夢、夜の夢こそまこと、と先生のおっしゃるとおり。確かに、この美術展全体のトリッキーなトーンをよく表しているアニメのようだ。
展示室には実際に使われていた「覗きからくり」機もあったりして、アニメを見た後だとちょっと背筋をざわざわさせながら会場内を往復する。第二会場の体験的な展示自体もだまし絵ぽくておかしかったのと、同時に併催で浮世絵展と20世紀ファッションデザイン画展もあったので、予想以上に長時間いて楽しめてしまった。
今回の展示図録とイラストカードに、まず目的だったアニメDVDをgetしてきましたカツオ人間とキイロイトリたち。
図録にアニメ作品の解説と監督インタビューも載っている。
個人的にふと思った、老人キャラデザインは天本英世さん系だよな、と。(水際立った美青年、てことで)
BGM:Take It To The Sky / Earth Wind & Fire (「Faces」)
多面なfacesの女の子像もいたっけ。図録を読み返しながら改めて、不思議な展覧会だったと思い出す。
先月の横浜のモネの展示会で見た、鈴木理策の写真にもここで再会した。こうやってまた新しい作家を知り次の楽しみが増える。桑原弘明のミニチュアスコープとか、今和泉孝行の中村市地図とかも面白かったので、今度はその展示会があったら行ってみたい。(20181029)