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文学や史跡で登場するマチを旅しながら、折々、紹介することを心がけています。

黒岩重吾著『紅蓮の女王』

2014年09月22日 18時11分36秒 | 書評
 推古大王、誕生までの炊屋姫を描く.炊屋姫は敏達大王の妃から皇后に.敏達の死後に用明・崇峻と豪族の政治バランスのなかかで、王位を継承する必然性をたどることになる.

   

 キーマンは蘇我馬子.すぐれた政治家として、王権の背後に外戚としての地位を確立する過程が、ある意味、すさまじい.
 政治家の資質について尾崎茂樹は巻末の対談のなかで、つぎのように評する.
 「馬子は相当な政治家だったという、見方をとっていますね」と、著者に問う.そのうえで「炊屋姫の女の情念を巧みに利用して、強敵の物部氏を滅ぼし、さらには蘇我氏を大王家にとってかわる地位にまで押し上げることをねらっている」と、位置づける.

 他方で炊屋姫について、「自分に横恋慕する穴穂部皇子を避けるうちに、三輪君逆に傾斜してゆき、愛欲の世界に炎を燃やす」と、整理する(いずれも217p).

蘇我氏の仏教理解.著者は、以下のようにまとめる.「馬子にとって仏教は、自分を救ってくれる守護神であったのだ」とする、理解が第一.そのうえで「救い」の内容を、以下に整理する.
 「仏教は大陸文化の華であり、大王家の権威を薄め、蘇我氏の権力を強める偉大な武器でもあった」(60p).

女帝となった炊屋姫について書かぬのは、<ヒト>をこえて<権威>となったからであるという.
 「(黒岩)彼女が女としての情念を燃やしたのは、そこまで」「以後は、馬子の傀儡として完全に祭祀的な存在に祭りあげられる」(217p).

 でわ、女性の情念.敏達没後の空閨となった30才台前半の女性の情念.それは三輪君逆との逢瀬ということに、なるのであるが.
(中公文庫 1981年).
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豆腐 専門店

2014年04月13日 11時13分28秒 | 書評
 豆腐.
 量販店の豆腐と、専門店の手造り豆腐.違いが大きすぎないか.

 差異.
 差異の代表は規格.豆腐の組成というか、キメの粗密.価格も100円そこそこの量販店と、手造り豆腐なら300円近くするの、違い.
 色は量販店の豆腐は、きわめて白く、手造り豆腐店のそれはいささか微妙な褐色.

 味.
 もちろん異なる.その違いを言うより、老舗の<おでん屋>さんでは、量販店から仕入れているとは思えない逸品.

 『文藝春秋』4月号に、つぎの談話が掲載されている.
 
 <東北地方のある豆腐メーカーの社長が語る>
 「豆腐一丁の原価はだいたい二十~二十二円です.人件費などを入れて卸値はだいたい四十円前後.スーパーはそれをだいたい倍掛けか、少なくとも三割くらいの粗利で・・・・・」.
 (亀井洋志著「イオンは地方の救世主なのか」 2014年).

 読んでいると、日本人の味覚にも大きな影響を及ぼしそう.
 影響が、味覚でとどまると良い、が.

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野口悠紀雄著『続「超」整理法・時間編』

2014年04月07日 03時51分35秒 | 書評
 野口悠紀雄著『続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法』 (中公新書 1997年)

 この領域の本をよむとき、自らを制するために書かれたか、他との競争を制するためのものかを考え、せいぜい前者にかぎると考えている.

 時間の使い方.多くの人が課題にしている.いろいろあるが、「終章 他人の時間を大事にしよう」がおすすめ.
 ほぼ、ここを読むと、著者の主張点を解するような気がする.

 「手帳に折りたたみ式スケジュール表」「中断シンドローム」「会議から文書へ」「マジカルナムバー・オブ・セブン」.
 新用語がならぶ.電話がくると思考停止、もとに戻すまでに時間を要する.それが『中断シンドローム」.
 人間、七項目しか覚えられない.かくて七曜日の習慣.
 なるほど、なるほど.著書を通じた提案のうち、いくつ取り組んでいる、か.そこの検証が読んでいて、楽しい.

 中心街をあるき、立ち寄った古書店で3冊100円のうちの一書.著者にはまことに気の毒なことをするが、悪くない買い物.
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宮崎義一著『複合不況―ポスト・バブルの処方箋を求めてー』

2014年03月23日 09時15分01秒 | 書評
1987年.
 この前後に金融自由化、不動産投資、株価高騰、ドル買い円売りがすすむ.
 経済循環のなかで、「バブル」がいわれる時期である.

 日米複合不況
 米国発、日本波及.経済知識が乏しいと、なかなか難解.金融の取引用語に理解がないと、文章の推移になかなか吐いてはゆけない.
 が、レーガノミクスや中曽根首相が「ロン・ヤス」と意気投合していた背景と、それがなにをもたらしたかは、よくわかる.

 為替差損.
 金融政策とマネーサプライが問題となる.「円売りドル買い」の日銀政策が、「ドル買い円売り」に転じたーと、する.
 国語的には似たような用字ながら、語順のちがいが円高移行を抑止しようとする国際金融のなかでの、円の<立ち位置>を背後に示しているらしいので、事は難解.

 著名な学者による、よく読まれた著作.
 誰が読み、誰が急いで読んだ.手にした著作は第2刷目.
 実態経済の場に身を置く者には、必見であったはず.

 国際経済のウネリのなかで、人為的操作の限界と危うさを読み取りつつ、アメリカとの関係のありようを考えさせてくれた.
 しかし、それは著書の真意にちかづくもので、あるのか.また、遠のくのか.読者の一員としては判断しがたかった、が. (中公新書 1992年)
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宮子 あずさ著『看護婦が見つめた人間が死ぬということ』

2014年03月09日 05時10分11秒 | 書評
 宮子 あずさ著『看護婦が見つめた人間が死ぬということ』

 全20章.
 さまざまな臨終、臨終へいたる症例が示されている.職業人として「死」を見つめる.

 臨終に立ち会う職業.
 その職業柄、残された家族にむきあう姿勢、対応が冒頭に述べられている.「さぞ事務的に仕事をしているように見えていることであろうかとおもいつつも、それ以上のことはできないのです」(2p).

 多くの症例をみつめていると.
 職業柄、「のぞましい死に方」、「かかりたくはない病気」ということがあるらしい.前者は「ピンピンコロリ」で、後者は「肺がんと膵臓がん」とのこと.

 多くの症例から見えてきたこと.
 うまく死ぬことは心がけていても<ダメ>で、激しい疼痛は人格をも変えてしまうということらしい.

 本書は著者30歳時点での著作.
 全20章を通じて、見えてくるものはなにか.それぞれの症例でとりあげられているケースは、人間模様のいかなる局面を示すものなのか.

 比較文化.
 臨終にのぞむ患者の「個」のほかに、患者をとりまく「家族」の対応が記載されている.かつて、家族に看取られる、子が親を見送る.他人よりも血縁が見送る.
 そこに、微妙な変化が生じていること.それが行間ににじみ出ている.
 <勘当された兄弟の亡骸を、兄弟がひきとりにこないため、無縁仏であつかわれる>.

 無縁仏
 以前にもあった.ただ、それは<行旅死亡人>など路上の死者で、診療所の病床から発する者ではなかった、と記憶する・

 単独生活
 現在、単身居住が増えている.緊急に病院にはこばれたとき、その私財・私物の保護などに看護職はどう向き合っているのか.
 そうした点も、気になるところであった.

 本書は1998年04月、講談社文庫として発刊されることになる.ここでは、海竜社 1996年発行で書評を書いておく.

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金龍静著『蓮如』

2014年03月02日 03時57分20秒 | 書評
 伝承と記録.
本願寺の宗主 蓮如について研究書、啓発書が多いなか、文献史学、厳密な史料考証のうえに「実像」(2p)を示す.

とりわけ真宗教団内で伝えられている<上人像>に、ときには意味合い与えていっそう明確にすることをめざし、他方で評価を変更する必要のある点については、<伝承の意味合い>を説明する試みと、受け止めたが.
(吉川弘文館 歴史文化ライブラリー 1998年)
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深谷克己著『大系日本の歴史 士農工商の世』

2014年02月22日 10時33分21秒 | 書評
 深谷克己著『大系日本の歴史 士農工商の世』

 大系日本の歴史.
 江戸時代は、「天下一統」「士農工商の世」「江戸と大坂」「近代の予兆」「開国と維新」で、構成されているようだ.

 17世紀を記述.
 1600年代のほぼ100年が、本巻.
 著者単独記載で、本巻は思想史、民衆思想を専門にされる著者の執筆.それだけに構造的、概念規定がちりばめられた、読むに<歯ごたい>を感ずる.

 「琉球王国」
 精緻.しかしそれだけに、ここまで精密かと、感心する記載が視線をうばう.
 「(近世日本の国際関係)国家あるいはその国の商人と交流する異国」と「幕藩体 制の力が大きくその地の政治経済を規制している異域」(248p)との二つの関係、と指摘.

 「アイヌ諸部族の決起=シャクシャインの戦い」
 「(和人とアイヌ社会は)『異民族』間の交易関係から、いわば華夷の宗属関係への変化」(261p)
 「(戦い終焉)『民族国家』への可能性はここで倒れ、(略)アイヌは、文化的一体性を保持する非支配階級部族として存続することになる」(263p).

 
 「民間社会のゆくえ」
 いわば「むすび」の4ページである(346p~).歴史理論に相当する領域で、封建制の段階、
 「プリモダン(前近代)」と「アーリー問題(早期近代)」などなど.
 専門家でも、なかなか難解.む すびは、「偃武・海禁環境のもとでの日本型民間社会」と江戸幕府建設期とでもいうべき、百年としているようで、あるが.(小学館 1988年)
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竹内誠著『江戸と大坂』

2014年02月18日 02時41分47秒 | 書評
竹内誠著『江戸と大坂』 元禄から田沼期のほぼ一世紀.
 構成は「タテ軸とヨコ軸の二つを考える」(8p)とする.タテ軸は時系列にして、ヨコ軸は地域間の関係.



 「江戸城大奥」
 「元禄忠臣蔵」「元禄の文化」などなど、時代の推移を時々の題材を提示しながら、説明していく.
 しかも、それぞれに史学研究者の研究成果を柱に叙述しようとする姿勢が特徴点.
 「大奥」なら、朝廷に勤仕する公家の当主たる松尾相匡(すけまさ)の日記をもとに(16p)、右衛門督(うえもんのすけ)付きの梅津と称する女性の生涯をつうじて、秘門を開いてみせる.
 「忠臣蔵」なら赤穂市史総務部市史編さん室編の『忠臣蔵』第三巻(26p)に依拠するなど、丁寧でもある.

 ヨコ軸.
 ヨコ軸で、<上方>について位置づけする点がある.「近世社会は、都市が経済循環の結節点として不可欠な存在」(13p)と規定し、<上方>に「地理的意味だけでなく、そこに展開された独自の文化相を包含する」とする(12p).

 なかなか、おもしろい.
 読ませてくれる.そもそも史学者の著わす啓発書ながら、時代を「大奥」「忠臣蔵」から切り取って行こうとする点が、「読ませる」ことになるのかも.(大系 日本の歴史10 小学館 1988年).
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暉峻淑子著『豊かさへ もうひとつの道』

2014年02月01日 06時10分29秒 | 書評
暉峻淑子著『豊かさへ もうひとつの道』 岩波新書に、『豊かさとは何か』、『豊かさの条件』などの著書があり、広く知られている著者。
 本書は『豊かさ・・・』シリーズの一角に位置するのかと。

 「公共とはお上のこと」と信じさせられている日本人の考えに対して、ドイツでは「テーブルの周りに多様な意見を持つ人々が集まって、ある共通なテーマについて、さまざまな角度から討議しあう場所のこと」(ハンナ・アーレント 13p)と、国柄の違いを随所に示す。

 子どもは、「言葉によって感情や考えを深め、経験を整理して、人格を豊かにしていきます」(19p)。
 
 日本は一〇〇年遅れて近代国家になったために、(略)富国強兵策を、日本の支配者たちは緊急一大事だと考えただろうと思うのです(36p)。

 同じ人間でありながら、人間とは呼べないような、「あってはならない貧困」をなくそうとする福祉国家実現への道は、第二次世界大戦後、急速に、世界各国の共通政策になって行きました(78p)。

 時の宰相にも辛口。
 金融、財政、労働問題、社会保障、教育、国土交通などの、どの省の大臣になったことがなかったためか、政策に弱く、具体的な政策によって国民をひきつける力を持っていませんでした(94p)、とも書く。
 人は、「官僚に対する劣等感」とも言うが、それなりに配慮した言い方であるようにも見せつつ、「愛国心とか教育基本法や憲法の改定など、国粋主義的イデオロギーを掲げたのだとおもいます」とする(同頁)。
 海外でいわれる前に、国内でもこうした議論が、前政権時代にあった、か。

 エッセイと講演の記録から作られるはずの本、手をくわえたために「ほとんどあたらしく書きおろしたものになりました」と、する(かもめ出版 2008年)。
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御厨貴著『日本の近代 3 明治国家の完成』

2014年01月30日 08時51分03秒 | 書評
御厨貴著『日本の近代 3 明治国家の完成』。明治23年から15年。議会開設から日露戦争までが対象。

 20世紀。
 実は時代としての20世紀開幕を最初に取り上げる。世紀移行の局面を雑誌の表現で、垣間見る。脱亜入欧をめざして、30年。世紀の移行と20世紀をインテリは、いかに解するか。そこから、本書ははじまる。

 統治ゲーム。
 国会開設。しかし、宰相は天皇が任命し、内閣は天皇を補弼する。
 帝国憲法の下では、議会にささえられていない。そうした憲法のもとにあって、藩閥内閣は議会との議論に未熟であるうえ、内閣と議会の間に支持関係がないから、開会した議会は迷走する。そこのところを<統治ゲーム>と位置づける。

 明治天皇。
 そこのところに『明治天皇記』を駆使して、内閣と議会とのあいだに、天皇の存在感が示される。
 あるときは、いくつかのシナリオを示して宰相にえらばせ、元老の制を駆使して、調整役を果たす。
 明治天皇。なかなか理論家にして、事態の整理の明確さが示されている。

 明治国家の完成。
 到達点は帝国憲法、国会開設ながら、それは形。憲法と内閣・議会がかみあい、安定の時期をむかえるのは意外にも、5年間その職にあった桂太郎内閣。日露開戦にいたる時期に「完成」期をむかえると、するかのようである。

 帝国議会から日露戦争。そこを「明治国家の完成」とするうちに、制度の発生と安定して機能する面を読み解く。本書の意図であろう。(中央公論新社 2001年)。
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林玲子著『日本の近世5 商人の活動』

2013年12月23日 07時05分37秒 | 書評
林玲子著『日本の近世5 商人の活動』 シリーズ「日本の近世」、第5冊目は、「商人の活動」。
 木綿・醤油、三井・白木屋・大坂屋などの商人を軸に、江戸及びその近郊の庶民を顧客とする流通の広がり、流通が庶民と産地を結節してきた経過を示す。

 「遥かなり綿の道」「新旧商人の交代」「中央市場のメカニズム」「近世の商法」「ノレンの内側で」「商人と武士」「近代につながる新興商人」。

 「新旧商人の交代」。
 戦国から近世への移行期に、大名家が戦時を勝ち、城下建設に領主的特需をささえた商人があった。
 戦時に与えられた特権は、平時にうつり生活の向上に即して「大名貸」にのめりこむうち、「債務不履行」に巻き込まれ、没落の汚名をかぶる。
 時期は元禄・享保期ということになるのかもしれないが、延宝期(1673~)の時期で、すでに庶民に普及し始めた絹織物を手掛け、大名取引から市中取引に転じていく商人に視点を転ずる。

 「近代につながる新興商人」。
 綿もさりながら、江戸周辺の醤油を取り上げ、原料・蔵・樽を揃え、安定した供給をめざしつつ、西国から独自の商圏を江戸に組み立てた必然性を示す。

 冒頭に「近世の商人像」、末尾に「庶民層に新しい世界を開いた商品流通」。この抄訳が本書の意図を、端的に示す。
 北は青森から鹿児島まで、ほぼ均質な和紙、筆法、記載の伝統的様式、資料所在のありように、江戸時代が広範に展開する「流通」を通じ、庶民も、地域もむすばれる社会を展望する。そのうえで、「流通」を担う商人の時機をみる確実性、果敢にして遠路をいとわぬ行動、遠隔地間につちかわれた信用に注目する。

 いま期せずして、「遠路をいとわぬ」と書いたが、そこに江戸ー大坂間、伊勢商人や近江商人が背負いをベースに、江戸支店を軸にした商いに出張員商法に示される「陸路」に特化しているように思う。
 対極に日本海交易があり、「海路」輸送が存在したが、それは取引量の狭さを意識してのこと、か。(中央公論新社 1992年)
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瀬戸内寂聴著『老いを照らす』

2013年12月19日 08時22分45秒 | 書評
瀬戸内寂聴著『老いを照らす』 出版記念の講演を出版したもののようだ。
 「老いと向き合う」「祈りの力」「老いのかたち」「世情に抗する」の四章で、構成。

「老いと向き合う」には、
 「新しいことに挑戦すること、おしゃれや恋をわすれないこと」(46p)。
「祈りの力」のむすび。
 死は恐ろしくないと、言いたいか。「向こう岸へ着いたら、ご主人、恋人、ご両親、ご友人たち、もうみなさんが岸辺で待っていてくれて」(154p)。「倶会一処」ということらしい。
「老いのかたち」は
 釈迦の入滅直前の語が引用される(194p)。

「世情に抗する」で、二か所。
「世のため人のため、長い間働いた人たちに、国が報いるというのが介護保険制度の趣旨。それを民間任せにしていては、不正や悪用がはびこるのはあたりまえでしょう」(199p)。
「働けなくなった老人を、壊れた機械を捨てるようにうち捨てるのは、商業主義と利己主義に毒された社会の病の表れだと思います」(200p)。
 
文明の発達が、教育が悪いと、筆者は述べる。
釈迦の智慧を「命をたいせつにする」「見えないものも尊重する」と、解釈。わかりよいのかも。 出版記念の講演を出版したもののようだ。
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前田正名編『興業意見』

2013年12月03日 05時13分08秒 | 書評
  前田正名編『興業意見』。1884年の時点でまとめられた、明治政府の勧業政策を体系化した試み。

 国力増強、輸出外貨獲得、強兵の前に富国の道を示す。

 ために農工商を一体的に関連づける理念のもと、農村伝統工業を秩序化し、品質向上をめざしつつ、金融支援で農民の資金力を高めて<投げ売り>を防ぎ、生産者を利する価格形成の必要性を提示。

 1877年の西南戦争。薩長政権内の秩序化を果たした一方、多額の戦費調達で生じたインフレ状態を、性急なデフレ政策で<ツジツマ>を合わせようとした。

 そこを緻密な統計で推移を追うと、明治13年、14年の農村疲弊があきらかとなり、北海道移住などで<不満・不平士族>の移転を強行したが、本書では「望ましい状況にはない」と、する。

 政局の安定、戦後処理、農村伝統工業の疲弊。前田らは薩長政権の内部にあって、<勧業>という名の<本格的民政>を体系化して明示することをめざしたのでは、ないだろうか。

 英、仏、米。そこに肩をならべる道を、選択。<国内産業の強化>で国際社会に伍してゆくことをめざすので、あるが。

 本書には1884年8月刊の「未定稿」と同12月公刊の「定稿」があったこと、著名である。その理由につて、解題では、3点をあげる。

 1)国力増強の構想を、国内伝統産業の強化より国外技術の依存と移転で達成する施策が選ばれた、2)政権の中枢にあった松方施策を否定するものであった、3)資金支援の興業銀行構想はあまりに資金が必要で当時の財政規模では対応不能であった。そういうことであったと、読む。

 編者が農商務省大書記官時代の労作。
 「未定稿」と「定稿」の間の差。そこには人脈、時代観、経営構想の違いが向き合っているのであるが。(『興業意見・所見 前田正名』 明治大正農政経済名著集1 農山漁村文化協会 1978年)。
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藤井譲治編『近世の日本 支配のしくみ』

2013年11月27日 07時30分38秒 | 書評
 藤井譲治編『近世の日本 支配のしくみ』。幕藩体制前期の支配原理を示す。

 一に組織原理、二に法体系、三に藩制原理と支配、四に町方支配、五に村落支配、六に武士の生活、七に武士の思想、つまり武士道。

 法体系は「誓紙と無記名法度の間」に、将軍家と諸侯の臣下過程の推移を読み解く。
 藩制原理と支配は岡山・池田家の家臣団形成を通じて詳述される。

 武士の生活。多くは江戸後期の著述にまかされてきた、とする。 その点を本書では、紀伊徳川家で家老職にあった三浦為時筆『御用留帳』『留帳』のと、その侍医職にあった石橋生庵筆『家乗(いえじょう)』から、記載。

 それぞれ、このシリーズの特徴ともいうべき、<総論ではなく各論を通じて、時代の一端を説明>を体現していると、みる。(中央公論社 1991年)
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