(敬老の日に)
電車のつり革のつかまり方で齢が分かるという。
若いときは指一本か二本でつり革に頼らない。
おじさんは深く握って体を預けたり、リングを外からつかんだり、手首を入れたり。
二、三日前のことである。
暑さにうだって冷房の効いた電車に乗り込んだ。たまたま優先席の前に立った。
肩のカメラバックが多少腰にきていた。
「座りますか?」と目の前の女性から声をかけられた。席を譲られたのだと気づくのに一瞬間があった。
「あっ、結構です」と断った私にうろたえがあった。
いつかこんな日が来るだろうと思っていたが、突然その日がきた。
よく電車で席を譲られて、不機嫌にかたくなに拒否するお年寄りがいる。
みっともないと思って見ていた。
私だったらにこやかにお礼を言って断るのに。
と思っていたが、にこやかに断れなかった。これが悔しい。
俺そんなにくたびれて見えたかな。まだ明るい電車の見えにくい窓ガラスに映る自分の姿を見た。
若くはないが小生意気さが残る枯れ切れないいつものおやじだ。
つり革につかまった時、両手で二本のつり革をつかんで少し体を預けたのがいけなかったのかな。
席を譲るか譲らないかは相手が感じて決めることだ。
今日は人生の記念日かな。
席を譲ろうとした女性は髪を後ろで束ねた小顔で妙齢の女性だった。
あの女性が第一号ならそれも良いか。ホームに降りた女性をしばし目で追った。