Science誌がまとめた各国の開発状況によると、中国は、マッハ6で飛行可能な極超音速ミサイル「星空2号(Xingkong-2)」を開発中だ。中国航天科技集団第十一研究院は2018年に飛行試験に成功したと発表しており、現在のミサイル防衛システムを突破できる性能を持つという。また、2019年10月に中国の軍事パレードに登場した「東風17号(Donfeng-17/DF-17)」は、極超音速で滑空する機能を持つ極超音速機(HGV)としての機能を持つミサイルとされている。
HGVそのものの開発だけでなく、分野全体の研究開発が進んでいるのが中国の特徴だ。厦門で開催された2017年の会議では、250を越える論文が発表され、HGVが残すイオン化されたガスやプラズマの噴煙をレーダーで捉える技術など、HGV兵器を検知する技術の開発も進んでいるという。
ロシアは「Kinzhal(キンザール)」とよばれるマッハ10まで到達可能な空中発射ミサイルを公開している。昨年12月には「Avangard(アバンガード)」と呼ばれるHGV機能を持つ弾道ミサイルの試験を実施したと発表し、ロシアの発表ではウラル山脈の基地から発射されたアバンガードは成層圏で母機から分離後にマッハ27に達し、カムチャッカ半島の標的に命中したという。
アメリカでは探知、追跡技術の開発が始まっているが......。アメリカは中露のHGV開発に危機感を抱いている。1940年代後半からHGVの研究開発を進めてはいるものの、中核技術であるスクラムジェットエンジンの開発などに時間を要している。また、現代のHGVの課題である2000度以上の高熱に対する技術はまだ確立されていないという。
一方でアメリカでは、HGVを探知、追跡技術の開発が始まっている。アメリカの現在のミサイル防衛網はICBMを想定し、静止衛星から赤外線センサーでミサイルの熱を探知する機能を持っている。しかしHGVは静止衛星からだと「10~20倍も『見えにくい』」のだという軍の見解があり、しかも地上のレーダーでは捉えられない領域を飛行してくる。
HGVに向けた追跡網を準備する必要があり、そのために小型衛星を活用しようという計画が始まっている。「Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensor:HBTSS(極超音速・弾道追跡宇宙センサー)」または「Space Sensor Layer(スペース・センサー・レイヤー)」と呼ばれる衛星網が2030年を目標に作られようとしている。
現在のミサイル探知システム「SBIRS(Space-based Infrared System)」とよばれ、静止衛星と長楕円軌道の衛星の組み合わせから構成されている。10秒ごとに地球上の熱源を赤外線センサーで検出でき、ミサイルに加えて航空機事故などの熱源も探知できるとされており、2014年のマレーシア航空17便の撃墜を捉えたという。SBIRS機能強化型の後継衛星センサー、OPIRも計画されている。
SBIRS静止衛星 Photo of SBIRS courtesy of Lockheed
といっても、SBIRSは当初の構想通りに構成されたわけではなかった。SBIRSはもともと、静止衛星を中心とするSBIRS-Highと低軌道の衛星網によるSBIRS-Low、ふたつの組み合わせから構成されることになっていた。
しかし2001年に開発計画が空軍からミサイル防衛局(MDA)に移管され、STSS計画と名を変えて2006年に全24機の衛星打ち上げを開始することになった。実際には、2009年にSTSSの実証衛星2機を打ち上げたものの、衛星網の実現には至っていない。
STSSでの実証を元に、さらに大規模な低軌道衛星網を構築し、HGVの脅威に備えようというのがHBTSSの構想だ。衛星網の規模は数百機に拡大され、HGVを捉えられるセンサーを載せて次々と打ち上げられる。大型の静止衛星では開発に5年、7年とかかるところを小型衛星ならば低コストに次々と衛星を入れ替えることができ、衛星網全体の機能を更新しやすいという目論見だ。
何度も名前を変えて構想されては実現にいたっていない
ミサイル防衛局と共同で衛星網の構築技術を開発している宇宙開発庁(SDA)とDARPAは衛星網全体を2年で更新できるとしており、技術実証衛星を2021年に打ち上げる。2019年10月にノースロップ・グラマン、レイセオン、レイドス、L3ハリスの4社がミサイル防衛局からHBTSS衛星網の開発契約を受注した。2020年秋までには、プロトタイプセンサーの設計が完了する目標だ。
とはいえ、何度も名前を変えて構想されては実現にいたっていない宇宙ベースのミサイル検知網に対して批判は根強い。静止衛星のSBIRSは開発にかかる時間とコストがたびたび問題視されており、商用衛星の技術を取り入れるなどコスト削減策の取り入れに迫られてきた。HBTSSが本当に低コストかつ短期間で構築でき、SBIRS-LowやSTSSの二の舞にならないのか? という冷ややかな視線はまだ消えない。