アルマ望遠鏡による観測で、この銀河に含まれる塵が放つ電波が検出されました。さらに研究チームは、同時に取得されたデータの中に酸素が放つ電波も発見しました。この電波は、もとは電離された酸素が放つ波長88マイクロメートルの赤外線ですが、宇宙膨張にともなって波長が伸び(赤方偏移)、波長830マイクロメートル(0.83ミリメートル)のサブミリ波となってアルマ望遠鏡に届いたものです。この赤方偏移から、A2744_YD4までの距離は約132億光年と計算されます 。これは、塵や酸素が検出された最遠方記録であった131億光年からさらに1億光年記録を更新する結果となりました 。
研究チームはこの観測結果を確かめるために、欧州南天天文台の大型光学赤外線望遠鏡VLTを用いて、A2744_YD4を観測しました。その結果、この銀河に含まれる水素が放ったと思われる光を検出することに成功しました。この光を詳細に調べて赤方偏移を計算したところ、アルマ望遠鏡と同じ結果が得られました。この銀河は、確かに132億光年先に存在しているのです。
観測された塵からの電波をもとにして、研究チームは、A2744_YD4に含まれる塵の総質量が太陽の600万倍であること、星の総質量が太陽の20億倍であることを導き出しました。またこの銀河では、1年間で太陽20個分に相当するガスが星になっていることも明らかになりました。これは、A2744_YD4における星の誕生が、私たちが住んでいる天の川銀河と比べておよそ10倍活発であることを示しています。
「これくらいの星形成の勢いは、遠方にある銀河としては珍しいものではありません。むしろ注目すべきは、このペースであれば非常に短い時間でA2744_YD4のなかに塵が蓄積していくということです。」と、共同研究者のリチャード・エリス氏(欧州南天天文台/ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)は語っています。
塵は、星の内部で作られた元素が星の死によってばら撒かれる過程で作られます。このため、星の誕生のペース(すなわち、星の死によって塵が作られるペース)と観測された塵の総量を比較することで、塵が蓄積するのに必要な時間を求めることができるのです。今回の観測結果から求められたその時間は、約2億年でした。つまり、A2744_YD4の中では、私たちが観測でとらえた時期(132億年前)よりもわずか2億年前、現在から134億年前に活発な星形成活動が始まったということを示しているのです。宇宙全体の歴史から見れば2億年というのはわずかな時間であるため、今回の成果は宇宙で最初の星や銀河の「スイッチが入った」時期に迫る大きな手がかりといえます。
ラポルテ氏は、次のように今回の成果の意義をまとめています。「銀河A2744_YD4は、単にアルマ望遠鏡で観測された最も遠い天体、ということにとどまりません。非常に大量の塵を検出できたことは、星の死によってまきちらされた塵による「汚染」がこの銀河の中ではすでに進んでいることを示しているのです。同様の観測を進めることで、宇宙初期の星の誕生をたどり、銀河における重元素増加の開始時期をさらに昔までさかのぼることができるでしょう。
また、 オーストラリア国立大学の天文学者らがこのほど、銀河系内でもビッグバン直後に誕生したと思われる約136億年前に誕生したとみられる恒星を発見している。地球と同じ銀河にあり、過去に撮影された星空の画像にもかすかに輝く姿が写っていた。地球からの距離は約6000光年と、天文学上の数字としては比較的近い方だ。
これまで観測史上最古とされていた132億年前の恒星からさらに4億年さかのぼり、宇宙誕生(ビッグバン)の後間もなく誕生した計算になる。
ケラー博士らは南天の星のデジタルマップを作成するプロジェクトの一環として、豪サイディング・スプリング天文台のスカイマッパー望遠鏡で約6000万個の星を観測。この中から古そうな星200個を選び出し、南米チリのラス・カンパナス天文台にあるマゼラン望遠鏡でさらに詳しく調べた。
星の古さを知るには、鉄の含有量が手掛かりになる。チームによれば、スカイマッパー望遠鏡では星が発する光を測定することによって、鉄をあまり含まない星、つまり古い星を見つけることができるという。
ケラー博士はCNNとのインタビューで「星はタイムカプセルのようなもの。この星も誕生当時の宇宙のサンプルを取り込んでいるはずだ」と話し、今後の観測が初期の宇宙の様子を詳細に把握する研究で役立つことに期待を示した。
同博士によると、宇宙の初期に誕生した星の大半はすでに大爆発を起こして死んでいったとみられ、今後同じような古さの星が見つかる可能性は低いという。