◎黄泉比良坂の坂本は世界の根源
伊弉冊命は、黄泉醜女に加え、八種の雷神と千五百の黄泉軍も加勢して跡を追わせた。伊弉諾命は、十拳剣を抜いて、後手に振りながら逃げ、なるべく戦わない姿勢を見せつつ退却を続けた。
黄泉比良坂の坂本は世界の根源。ここで伊弉諾命は、三個の桃の実を取って投げたところ、黄泉軍は初めて壊走したのだった。
伊弉諾命は、桃の実の功績に感じ、桃の実に対し、意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)という名を与え、また世界人民が苦難の時になったら助けるように命じた。
実に現代は黄泉比良坂の、善悪正邪治乱興廃の別かれる大峠の上り口である。
最後に伊弉冊命が自ら追ってきた。これぞ神軍と魔軍との戦いの分水嶺。
伊弉冊命は、黄泉比良坂に千引岩(ちびきいわ)を立てて、正神国と邪神国との交通を完全に分断し、毎日千人の命を取ってやると言い放った。これにより、従来の正邪混交の時代は終了し、この世の人民は立て分けられる。
伊弉諾命は、それに対抗し、一日に千五百(ちいお)の産屋(うぶや)を立てると宣言した。
千五百(ちいお)産屋(うぶや)とは、大神に対する赤誠の精神を持つグループのこと。彼らが中心となって、物質肉体優先の世界観を排し、霊的文明の導入を図る。とは言ってもそれは、いわゆる霊主体従主義思想・イデオロギーの伝播ということでなく、個々人がすべて神を知る体験を有するのだから人間の一側面が霊であることが当たり前に思う人間たちでの出来事であることに注意が要る。