
さて、「鎌田紀彦と愉快な北海道の作り手たち」シリーズの最終見学地。
新住協の北海道最古参メンバーといえる三五工務店さんの
「フラッグシップ」モデルハウスであります。
2回にわたって見てきた住宅は、いわゆる「意匠性」という興味軸よりも
住宅性能、室内環境コントロールを追求するタイプ。
それはそれで、別にあり得ることなのですが、
ではそもそも住宅は、皮膚感覚センサー的生物を入れておくだけの装置なのか、
っていう根源的な問いかけも導き出されてくる。
住宅は、なによりも「暮らしのイレモノ」であり、
そこにはいろいろな興味や生き方を持った生身の人間の暮らしがある。
そうしたひとびとに提供する価値感には、やはり「こころ豊かに暮らす」要素も
もっとも根源的な部分として存在するのだと思うのです。
ひとの「癒やし」は、きわめて複合的な要素を持っているのだと。
その家に暮らす人にとって、その場所での暮らしが
楽しく愛着を持って営まれていくように考え、作って行く営為も、
住む側から作り手に求められる根源的な要求でしょう。
そうしたとき住まいという空間は、どのような形、表現を持ちうるのか、
そういったことへの感受性は、作り手に常に突きつけられているのだと思います。
本誌Replanが、あえて鎌田紀彦先生に東北版の次号から
「Q1.0住宅デザイン論」執筆をお願いしている興味テーマでもあります。
住宅性能を誰よりも考えてきた先生だからこそ、
デザインの重要性を、いちばんリスペクトされていると確信しているのです。

一方で、最近の住宅デザインの主流的なものは、ミニマリズム。
定義するとすれば、
「建築・美術・音楽などの分野で1960年代に登場した,
装飾的要素を最小限に切り詰めた簡素な形式。」というもの。
シンプルモダン、「シンプルこそが素晴らしい」という価値観。
現代は物質文明に毒されてモノが多すぎる、情報が多すぎる。
だから物を捨ててシンプルに生きよう。とでもいえる流れ。
建築家ミース・ファン・デル・ローエは
「Less is more.」(より少ないことは、より豊かなこと)
と言う言葉を残していて、以降の建築に大きな影響を与えていると言われます。
シンプルでミニマルに、簡素で無駄がない、という価値感でしょう。
ある意味では、日本的な侘び寂び(わびさび)にも通じていて
そういったデザイン論と、住宅性能重視ということは、2重写しにもなる。
しかし、果たしてそうなのだろうか?
それがすべての「解」なのだろうかという疑問も強く湧いてくる。
このモデルハウスが3番目の見学施設だったというのは
今回の見学会のテーマから考えても正鵠を穿っていたように感じました。
壁厚みは350mmという重厚な断熱性能を確保し、
木製の窓サッシも4重ガラス入りと性能重視だけれど、
大きく開放的な開口部、暮らしの演出としての素材の吟味、
土間や吹き抜けといった空間装置の面白さなど、
そこで感受できる環境から「いごこちの良さ」を引き出す努力が見えてくる。
住宅建築という手段を通して、ひとのシアワセを探求するデザイン。
そういった本質も垣間見えてきた住宅見学でした。