三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【三菱一号館美術館でルドン・グランブーケ鑑賞】

2018年05月27日 10時19分58秒 | Weblog



ルドンという画家のことは、わたしは作家・故埴谷雄高さんの
文章の一節でだけ記憶していた。
「ルドン風の幻の花」というように記述された言葉の断片記憶。
それも政治評論的発表文のなかのものだったと思う。
いまと違って、そういう評論的発表も書籍でされていた時代。
いまから半世紀も前に断片的に触れた作家の文章の一文節に
あるひっかかりを感じ続けるというのは、昭和中期の人間の
ひとつの傾向でもあるのかも知れませんね(笑)。
戦前共産党の活動家であり、獄中で「転向」したとされ、
戦後、むしろ共産党中央と「反代々木」的姿勢で対峙してきた埴谷雄高氏。
戦後はずっと作家として代表作「死霊」を書き続けていた。
名付けて「形而上文学」。
ルドンという名前はそういう埴谷雄高さんのフィルターを通したカタチで
いわば青春期からの残滓のような部分で反応した。
極東アジアの島国の北辺都市で青春期を迎えた少年には、
こう書かれたルドンという名前にはるかな想像を巡らすしかなかった。
埴谷雄高という孤高の思想家があえて名を挙げる画家というのは、
どんな存在であるのかと、ずっとこころに掛かっていた。
個人的には埴谷雄高的形而上世界とルドン美術が連関づけられていた。
今回、東京丸の内に明治期に建てられた洋風ビル建築
「三菱一号館」が2010年に創建当時の姿で再建され美術館になっている、
その展覧会として「ルドン―秘密の花園」が開かれていた。
会期末ギリギリにはなったけれど、そういう興味から見てきた次第。

ルドンという画家はある時期まで「黒の時代」といわれひたすらモノクロで
顕微鏡的な、科学発展に内面的に反応したような細密描写的世界。
そういう画家が、ある時期から色彩豊かな「幻の花」を描き始める。
この「グランブーケ」はそういう突然変異の境界に位置するそうです。
19世紀後葉のフランスの貴族層が、この画家を招聘して
自分の城館の装飾画として16枚の連作を描かせたなかの特異的作品。
今回の展示ではほかの15枚の作品も、所蔵するオルセー美術館から
借り出してきて展示されているのですが、
この「グランブーケ」だけは、三菱一号館美術館が所蔵しているそうです。
美術館長さんがビデオでこの「グランブーケ」との2008年の出会いを
印象的に語っていましたが、その時間的経緯からすると最初から
この三菱一号館美術館の目玉として考えて購入したことが想像できる。
で、ほかの15点とは別れて、このグランブーケだけが
三菱一号館美術館に買い取られた。
この点にどうも、やや疑問を感じさせられるのはわたしだけでしょうか?
同時にほかの15点と同時に展示されて見せられると、
たしかにこのグランブーケがやや異質な感じで、またひときわ映えるけれど、
やはりルドンさんの制作意図として、ほかの15点との連作として
ひとつながりのものとして描いたに違いないと思うのです。
どういった経緯でこういう分断に至ったのか、疑問を持った。

その点はややひっかかりを持ったのですが、
作品自体は、埴谷雄高さんの「ルドン風幻の花」という修辞がまさに至当と
強い印象を与えてくれたと思います。
写真はこのグランブーケだけが撮影許諾されていたので撮ったもの。
ただし、混雑していて下の方に人物のアタマが写ったので
その部分だけやむなくカットしています。ご了解ください。
コメント
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