ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

インヴィジブル

2019-01-15 18:43:24 | 読書
ポール・オースター『インヴィジブル』





 カバーの写真は、よく見ると不思議だ。

 多重露光のように、いくつかの像が重なって見える。

 室内の鏡に映る像と、ガラス越しに見える室外の光景と、室内に置かれた物とが、一緒くたになっているのだ。

 どれが実像で、どれが虚像なのか。そんなふうに見える。


 小説も似たような構成。

 実像だと思って読んでいたら、シェード越しの室外だったり、鏡に映ったものだったり。

 そもそも、室内だと思っていた場所が、実は荒涼とした野原だった。そのくらい、足元がおぼつかない感覚を味わう。

 そんな仕掛けも含め、この本を読む時間は楽しい。


 勝手な感じ方だが、登場する人物が、いつもポール・オースター自身のように思えてしまう。

 悩み、戸惑い、決断する、そのすべてが著者が過去に経験してきたことだと。

 作り物ではない、そんな肌に密着する感覚に共感するのだろう。


 デザインは新潮社装幀室。(2019)