新型コロナの感染拡大が続く中、岸田総理大臣は医療団体との会合で、感染者数が減少傾向に転じても病床使用率の上昇は続くと指摘し、感染が疑われる救急患者などの病床を確保した医療機関に対し、1床当たり450万円の支援金を支給するなどの対策を講じる方針を明らかにしました。
この中で岸田総理大臣は「医療提供体制のさらなる強化や、予防、発見、早期治療の流れの一層の強化に取り組み、国民の命、健康を守り抜く強い覚悟を持って臨んでいきたい」と述べ、医療体制を強化するための新たな対策を明らかにしました。
それによりますと、感染者数が減少傾向に転じても病床使用率はしばらく上昇が続くとして、病状が落ち着いた患者や感染が疑われる救急患者を受け入れるための病床を新たに確保した医療機関に対し、1床当たり450万円の支援金を支給するとしています。
また、まん延防止等重点措置が適用されている地域では、電話などで診察を行った場合に診療報酬に特例的に上乗せする額を、現在の1人当たり2500円から5000円に倍増するほか、高齢者施設で感染した軽症の患者が医療機関ではなく、施設内で療養した場合に支給している施設への補助金を、現在の1人当たり最大15万円から30万円に引き上げるなどとしています。
会合のあと日本医師会の中川会長は記者団に対し「岸田総理大臣の医療を守ろうという決意が受け止められた」と述べました。
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岸信夫防衛相は16日の衆院予算委員会分科会で、政府が保有を検討する敵基地攻撃能力を巡り、自衛隊機が他国領空に入って軍事拠点を爆撃し、ミサイル発射を阻止する手段を持つことを「排除しない」と明言した。政府はこれまで、憲法に基づく専守防衛の考え方を踏まえ、海外での武力行使に極めて慎重な姿勢を示してきた。専門家は、安全保障環境の悪化を理由に打撃力の強化を含めた任務の範囲が「なし崩し」で拡大することに懸念を示す。(川田篤志)
◆武力行使への装備導入も検討か
立憲民主党の長妻昭氏が、自衛権発動の要件を満たせば「相手国の領空内にわが国の戦闘機が入って爆弾を落とすことも選択肢として排除しないか」と質問したのに答えた。
岸氏は、武力行使の目的で自衛隊を他国領域に送る「海外派兵」は憲法上許されないとする一方、「攻撃を防ぐ場合にやむを得ない必要最小限度の措置で、基地をたたくことは自衛の範囲内に含まれる」と従来の政府見解を説明。年末に予定する国家安全保障戦略などの改定にあたり、他国領域で武力行使できる敵基地攻撃の装備導入も検討課題になるとの認識を示した。大陸間弾道ミサイルや攻撃型空母など「攻撃的兵器」の保有は否定した。
松野博一官房長官は16日の記者会見で、岸氏の答弁について「憲法と国際法の範囲内で、日米の基本的な役割分担を維持する前提の下、あらゆる選択肢を排除しないとの趣旨だ」と説明。他国領域内の武力行使でも、憲法が禁じる海外派兵や国際法違反の先制攻撃には該当せず、日本防衛のための打撃力を主に米軍に委ねることに変わりないと強調した。
◆専守防衛を逸脱 軍事大国化の懸念
政府は、武力行使を伴う自衛隊の海外活動に関して、これまでも例外的に認められる場合があると説明。しかし、イランとオマーンに挟まれて公海がわずかな「ホルムズ海峡での機雷掃海」以外は念頭にないなどと、極めて限定的に解釈してきた。
敵基地攻撃能力の保有に伴い、海外への派遣を前提とした防衛戦略が策定されれば、「他国に脅威を与えるような軍事大国とならない」という防衛政策の基本理念の根幹にかかわる。
元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は本紙の取材に、2015年の安全保障関連法の成立で集団的自衛権の行使が可能となり、自衛隊が海外で活動する制約がなくなったと指摘。「敵基地攻撃能力を持ち、打撃力の一部を担う以上、日米の役割分担が変わらないことはあり得ない。非常になし崩し的で、政府は専守防衛と言い続けているが、論理的に持たなくなっている」と話した。
警察庁に直轄の「サイバー特別捜査隊」などを新設する警察法改正案が国会提出された。国際捜査の連携強化が狙いだが、中央集権的な警察を否定した戦後の警察行政の大転換でもある。懸念を残さぬよう徹底的な審議が必要だ。
改正案では、生活安全局や警備局などのサイバー犯罪部門を「サイバー警察局」に集約。さらに捜索や逮捕などの権限を持つ二百人規模のサイバー特別捜査隊を設ける。警察庁が直接、逮捕などの権限を持つことは戦後初めてだ。
国境を越えたサイバー犯罪は増え続けている。昨年十月、徳島県の公立病院はシステムのデータを暗号化するランサムウエアの攻撃を受けて電子カルテが閲覧できなくなり、国際的なハッカー集団が金銭を要求する脅迫文を送り付けた。こうした事件の背後に国家の影が透ける例も少なくない。
欧米では捜査の国際協力が進んでいるが、日本では都道府県警が捜査主体のため、国際的な情報交換などに手間取ることがあるという。改正案はその克服が狙いだ。
ただ、改正案は戦後の警察行政の土台を揺るがす内容でもある。戦前の内務省を頂点とした中央集権的な警察組織による人権侵害の反省に立ち、犯罪捜査は戦後、都道府県警の役割とし、警察庁は指揮や監督に徹してきたからだ。
法案には数々の疑問も生じている。警察庁の指揮の下、二〇一三年には都道府県警に「サイバー攻撃特別捜査隊」が設けられたが、その態勢の何が不十分で、なぜ警察庁の直轄部隊が必要なのか。
捜査対象についても「国や地方公共団体の重要な情報の管理」や「国民生活及び経済活動の基盤」に重大な支障が生じる場合、「対処に高度な技術を要する」ケースなどが挙げられているが、拡大解釈の余地は残る。
海外では、捜査機関が攻撃側のコンピューターにウイルスを仕掛ける手法も使われている。日本では、どんな捜査手法なら裁判所の令状が必要となるのだろうか。
捜査の苦情は国家公安委員会に申し出できるとされるが、サイバー捜査は分かりにくい上に、同委員会のチェック機能が適切に働くのか否かも不透明だ。公安警察の活動がブラックボックス化している現状も懸念に拍車を掛ける。
政府は国会審議を通じて、こうした数々の疑問に答え、国民の懸念払拭(ふっしょく)に努めなければならない。