政府が殺傷能力のある武器の輸出を巡り、一定の条件を満たせば可能との新たな見解を示した。これらの武器の輸出は、国際紛争を助長しかねないとして禁じてきた経緯がある。平和国家の道を歩んできた憲法の理念に立ち返り、武器輸出の制限は継続すべきだ。新たな政府見解は二十三日、自民、公明両党が再開した防衛装備移転三原則と運用指針の見直しに向けた実務者協議で提示された。自公間で大筋一致した内容を追認するものだ。新たな見解は、安全保障上の協力関係にある国に防衛装備品を移転する際、現行の運用指針が定めている救難、輸送、警戒、監視、掃海の五類型に該当すれば、任務や自己防衛のために必要な武器を搭載することができるとした。機関銃を搭載した掃海艇や巡視船を想定している。政府はこれまで五類型について殺傷武器の輸出を制限する根拠としてきた。「直接人を殺傷することを目的とする装備移転は想定されない」との国会答弁もある。原則や指針の解釈を、政権の都合で勝手に変更していいのか。政府は英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を含め、国際共同開発する装備品の第三国輸出を解禁したいとの考えも示した。
しかし、戦闘機は殺傷兵器そのものであり、自国防衛目的の開発ならともかく、その輸出が憲法の理念に合致するとは思えない。与党協議では紛争当事国への武器輸出解禁も議題に上がる。ロシアの侵攻を受けるウクライナに武器を提供する米国は日本に弾薬輸出を期待しており、武器輸出が徐々に拡大しないか憂慮する。政府は中国の軍事的台頭に脅かされる東南アジア諸国に安全保障面で支援する方針だが、武器を提供すれば中国を挑発し、地域の緊張を高めないか。民主主義が定着していない国では内戦や軍事政権による弾圧に、日本から輸出された武器が使われる恐れもある。政府と与党だけの密室協議で従来の政府見解を次々と覆していくのは、敵基地攻撃能力の保有容認や防衛予算「倍増」など安保政策を大転換した昨年末の国家安保戦略改定と同じ手法だ。国際平和を維持するためには、武器の輸出はどこまで認めていいのか。国会や国民的な幅広い議論を経て、平和国家にふさわしい道を探るべきである。