ブクログより
今回の大筋のテーマは「骨董・古いもの」そこにジャズや料理やコーヒーなどの細かいテーマがいろんな人に絡みながら出てくる。
主人公は私と同年代と思われる女性で、ふとしたきっかけで手に入れた骨董の茶碗がもとで、最後は骨董品を置く喫茶店を開くまでに至る。
主人公の更年期、旦那さんの糖尿病の闘病の様子、これは作者自身の体験だと思われるが、すごくリアルで参考になったし、身につまされるというか・・・
主人公の友達のジャズシンガーが語るジャズの世界もまた深くて、読んでいて思わずジャズが聴きたくなってCDを探したけれど、KENNY・Gくらいしかない、だってあまり普段聞かないもの、まずこの作品の中に出てくるジャズをひと通り聞いてみよう。
曲名だけは聞いたことがあるジャズの入門と言った曲ばかり。
そして下の圧巻は敗戦によって、北朝鮮から引き揚げてきた人たちの物語、作中では主人公が当事者に聞きに行くと言うことになっているが、実際作者が聞き記したほぼ実話、だと言うことだ。話の内容もさることながら、そういう話に行き着く物語の流れがすごい。実話を元にしているといっても、そこに枝葉をつけて、ふくらませてと壮大な物語に仕上がっている。
宮本輝の作品に出てくる人物は、概ね常識的で、分別があり、滋味あふれた善人なのであるが、今回の作品にはそれが顕著で、たとえば中年の親父が自分の娘ほど年の離れた奥さんをもらって子供まで作っても、いやらしくなく、なんかさわやかなのだ。
主人公なんかも、「もっと欲を出しなさいよ」なんて読みながらつぶやいたぐらい・・・
あとがきによると、ここ数年来、作者の周りでは善き人たちのつながりによって生じたと思われる幸福や幸運の連鎖が起こっていたのだそうで、そうした中で生まれた物語らしい。そういう連鎖の中にいられるというのもまた幸福なことだなぁ。
年末からお正月にかけて大好きな作家さんの本を読めたこと、特に年末、掃除をしながらおせちを作りながら、ちょっと休憩と言って、ほんの5分か10分、ページをめくる、それは私にとって大層幸せなことでした。
水のかたち 上・下 / 宮本輝
★★★★★
今年のおせち。