2007年3月末の大阪市の青少年会館条例廃止から、とうとう3年目を迎えた。去年の暮れあたりから、大阪市の行政当局サイドは、市内各地区(以後「地区」と略)にある人権文化センターともと青少年会館(もと青館)、高齢者施設などを統合した「仮称・市民交流センター」の設置を検討しつつある。というか、それを次年度以降導入する前提で、すでに動き始めている節が濃厚である。
これに対して、私も「ほんとうにそれでいいのか?」という思いがあって、すでにある雑誌に原稿を書いたし、私の仲間からも、もと青館で活動中の保護者のサークルなどを取材した上で、同じ雑誌に疑問を投げ掛ける原稿が出ている。さらに、各地区の住民や現在のもと青館等の利用者の間からも、「こんな統廃合の進め方はおかしい」等の抗議の声が出始めているし、前にもこのブログで書いたように、利用者の間で署名運動も開始されている。
いま、人権文化センターにしても、もと青館にしても、高齢者施設についても、そこで活動中の人々がいて、子どもや若者、保護者や高齢者その他の地元の人々にとって無くてはならない居場所になっている、そんな施設を、いったい、どういう理由で行政当局は統廃合しようというのであろうか。また、その理由や構想などについて、行政当局側は今までに一度でもきちんと説明の機会をもったのであろうか。あるいは逆に、今、その施設を利用している地元の人々が、今後、どのような形で地区内施設の存続等を求めているのか、行政当局は話を聞く機会をもったのであろうか。前に青館条例を廃止するときにやったように、先に行政当局側で廃止方針を決め、その結果だけを伝えるような、かたちだけの説明会をして、そのあとに市議会に条例廃止案を出す。そんなひどい対応だけは、今回に限っては絶対にやめてほしいと私は思う。
さらに、行政当局が少なくとも今、各地区の人権文化センターにせよ、もと青館にせよ、地元住民だけが利用者だという前提で動いているとすれば、それは大きな間違いではないのだろうか。少なくとも私は、例えば複数の研究会や学習会の開催といったかたちで、定期的に大阪市内のある人権文化センターを利用している。それこそ、今の人権文化センターやもと青館については、地元住民だけでなく、広く大阪市内に在住・在勤・在学の人々や、さらには大阪市内に事務所を置く企業や民間団体が利用しているケースもあるだろう。まだまだ利用状況は少ないかもしれないが、すでに人権文化センターやもと青館は、市内の幅広い層の人々に利用される「市民利用施設」としての顔を持ち始めているのではないのか。そのことを、行政当局は一度でも確認したことがあるのだろうか。だとすれば、先に述べた説明会などは、各地区の住民に対して行うだけでなく、幅広く市民が参加できるようなかたちで行わなければならないだろう。
あるいは、まだ青少年会館条例があり、各種事業が存続していた頃には、夏休みのプール利用や館まつり、各種の学習会やイベントなどを通じて地区内外の子どもや若者、保護者の交流があっただろう。また、利用率や参加者数がどうかという課題はあるにせよ、今でも人権文化センターで開催されているさまざまな講座・学習会などには、地区内外からいろんな立場の人々が参加しているのではないだろうか。そういった地区外からの利用者についても、行政当局は各施設の統廃合計画について、きちんとした説明を行う必要があるのではないだろうか。
一方、このような実情から考えると、もと青館や人権文化センターなどの地区内施設を、いまだにそこは地元住民「だけ」が利用していると考えている方が、私としては、「状況認識が古い」ように思う。もしもそういう理解で行政当局が動いていたり、あるいは、大阪市議会や大阪市の各種審議会・委員会等でもそういう前提で議論が動いているのだとすれば、私の側からは、「いったい、いつの時代の各施設の状況を前提に動いているのか?」と言いたくなってしまう。
それこそ例えば、大阪市内のもと青館だって、90年代のおわりに地区内青少年の育成だけを対象とした社会教育施設から、一般的に広く市内青少年の育成事業を行う社会教育施設へと、条例改正をしたはずである。また、だからこそ大阪市は、例えば不登校や非行傾向等、「課題のある青少年」を支援するための相談・居場所づくり事業(いわゆる「ほっとスペース事業」)のような「一般的な青少年施策」の取り組みを、以前の青少年会館を拠点として行ってきたのである。歴史的な経過をたどれば各地区に設置された施設であっても、その施設を有効活用するかたちで展開されてきた諸事業はすでに「一般施策」であり、「条例」でもそのように位置付けてきたのではないのか。同じことはおそらく、今の人権文化センターにだってあてはまるのではないのだろうか。
しかも、今もなお、こども青少年局の事業として大阪市では実施されている「ほっとスペース事業」は、一部は他の場所に移されたとはいうものの、引き続きもと青館を活動場所として実施しているケースがある。今後、この事業を大阪市としてどう維持するのかはわからないが(事業発足時の運営協議会の委員長として、私は、何らかの形での事業の存続、もしくは類似事業への発展的な拡大を願うのみ)、過去の青少年会館事業が取り組んできたこと及びその施設等のハード面のなかには、今後も大阪市にとって維持すべきものが多々含まれているのではないのか。そういった従来の事業などの中身の精査ということを、はたして行政当局はどこまでやっているのだろうか? もしも「やっていない」としたら、私としては、「まずは従来の事業などの中身を精査して、何が今後も存続すべきもので、何がもういらないのか、そこを明らかにする段階から、行政部局内の検討をやりなおしてほしい」と言うしかない。
このように、もと青館や人権文化センターなどが、もともとは地区内施設として設置されたとしても、そこで展開される諸事業などをより幅広い市民の利用に供するよう実施してきた経過や、あるいは、一般的な施策へと位置づけを変更してきた経過などは、今の「仮称・市民利用センター」構想を検討するにあたって、どの程度考慮されているのであろうか。もしも大阪市の行政当局や、あるいは大阪市議会、大阪市の各種審議会・委員会などで、こうした歴史的経過をふまえない議論が行われているとしたら、私としては「せめて、そのことくらいふまえた検討にしてほしい」と言わざるをえない。また、この何年かの一般的な施策への移行や、幅広い市民利用を促すための取り組みなどの経過を無視して、いまだに「地区内施設だ」という前提で行政当局や市議会、各種審議会・委員会などが議論をしていれば、「その認識こそ古い」と言わざるをえないのである。
だから、私としては最低でも今の時点では、「利用者の声を聴く」ことと、「これまでの事業や取組みについての歴史的な経過をふまえる」こと。この2つくらいは、人権文化センター・もと青館などの地区内施設の統廃合に関して、行政当局や市議会、各種審議会・委員会などでの検討において、やるべきだろうと思う。
ついでにいうと、このことは大阪市内の地区内施設の問題だけでなく、他の自治体のそれにもあてはまる。昨日のアクセス解析を見ていると、このブログに、例えば茨木市の青少年センターの存続問題に関心のある方がアクセスしてこられたようだが、同じことは茨木市のケースにおいてもいえるだろう。
そして、大阪市内や茨木市にかかわらず、どこでもそうなのだが、今ある施策や施設がなくなってからあと、「あの取り組みがあったほうがよかった」などということを言っても、もう遅い。だとしたら、たとえ少人数の取り組みではじめたとしても、まずは、行政当局や市議会、各種の審議会や委員会などに対して、反対するべきときに徹底して反対の意見表明をして、自分たちの態度を示し、きちんとスジを通しておくこと。それが今はいちばん大事だと思う。
さらに、自分たちにとって今あるその施設や施策がほんとうに大事なものなら、たとえひとりであっても、「これはなくさないで」という意見表明だけなら、とりあえず、できるものである。例えば、区役所や市役所の市民の意見を聞く窓口に、そういう手紙を出したり、直接出向いたり、メールを送ったりすればいいのだから。あるいは、こうやってブログなどを通じて、反対意見を述べることだってできるのだから。
ついでにいうと、私にとっての「人権教育(学習)」というのは、こういうときに、自分の意見をきちんと述べる力を育てたり、「何か、動いてみよう」という意欲を励ましたりする営みではないのかと思う。また、子どもの学校教育に関していえば、こういうときのための学力形成が「人権教育(学習)」が重要であり、その土台としての生活習慣の形成とか、「いっしょに動こう」という仲間づくり(集団づくり)が必要なのだろうと思う。さらに、社会教育・生涯学習の領域においても、成人学習において、こうした住民生活の向上と行政施策とのかかわりについて考える機会を設けたり、そこで自分たちのあり方をふりかえり、何かアクションを起こすことへとつながる学習を行ったりすることが必要なのではないかと思う。それこそ教育学の各領域で、例えば「主権者の育成」や「シティズンシップ教育の重要性」、あるいは「現代社会の諸課題に取り組む社会教育・生涯学習の充実」などと言ってきた人々は、今こそ、大阪市内の各地区に出入りして、地区内施設統廃合に疑問を感じている地元住民とともに動けばどうか、といいたい。「そこに、あなたたちの研究課題があるじゃないか?」と思うのである。
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