できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

休校中の子どもたちの声に耳を傾けてください ~セーブ・ザ・チルドレンの報告書公表に寄せて~

2020-05-05 20:59:04 | 受験・学校

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが5月3日付けで、次のタイトルの報告書を出しました。

「子どもたちの声、気持ちをきかせてください! 2020年春緊急子どもアンケート 全体版報告書」

この報告書は、今年3月の一斉休校時に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの呼びかけに応じて寄せられた子どもたちのアンケートの結果をまとめたもの。1422件の有効回答をまとめて、識者コメントなどもつけたかたちで全体版報告書をまとめました。私もコメントを求められたので、短いですが、ひとこと書かせていただきます。

もちろん、一民間団体の呼びかけで集められる範囲には限界がありますが…。それでも、3月の一斉休校時に子どもたちが何を感じ、何を悩み、何に困っていたのか。その一端は、この報告書のなかから浮かび上がってくると思います。

詳しいことは上記の報告書及びセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのホームページ(ブログ)の紹介記事で確認してください。

それにしても、3月の全国一斉休校のときもそうですし、この4月以降のあらためての緊急事態宣言以後の休校もそうですが・・・。

おとなたちは、この約3ヶ月近く、常に自分たちの都合と不安感ばかりが先走って、子どものことを無視するかたちで施策を動かそうとしてきてはいなかったか。

たとえば、今もなお「学校に一日も早く学校に通えるようになって、友だちに会いたい、教職員と話をしたいと思っているような、そんな子どもたちの声を聴くことはこの間、各地でしてきたのだろうか? 「どうして家にずっといなくちゃいけないの?」という疑問を持っている子どもたちに対して、なぜ休校措置が必要なのか、外出自粛が大事なのか、そういう説明をていねいにしたおとながどれだけいるのだろうか? 入学式や卒業式を延期したり、取りやめにしたところでは、子どもたちになぜそうするのか、ていねいに学校側や行政側から説明したのだろうか?

あるいは、政治家や行政施策を考える人たちは、自分たちのやりたいことに都合のいい子どもの声ばかりを聴いて、自分たちに都合のいい施策ばかりを考えていないのか?

たとえばネット配信のでの授業実施も、そういう方法をとっても「別に困らない」子どもの側ばかりを向いて実施しようとしているのではないのか? 今の時点でもなお、まだ新年度の教科書が届いていないとか、自分の学級担任が誰なのか、顔も見たことがないとか、クラスのなかまが誰なのかわからないとか、そういう子どもたちのことには、学校として、あるいは教育行政としてどこまでの対応をしようとしているのか?

学校給食がなくなって食事に困っている子どもと家庭もすでに各地に増えているのかもしれないし、また、学童保育はすでに長期にわたる子どもと家庭への支援で、相当にスタッフたちが疲弊しているのではないかと思ったりもします。家庭内での子どもの虐待の発生についても、さまざまな懸念があるところです。そういう生活困難な状況にある子どもと家庭に対して、いったい政治家や行政施策を考える人々は、どこまでの支援を準備できたのだろうか?

さらに、たとえ学校が再開されたとしても、分散登校などのかたちでいわゆる「三密を避ける」かたちで当面、運営せざるをえないでしょうし…。また、たとえ学校が再開されたとしても、また感染拡大が起きそうになったら、しばらく休校再開とせざるをえなくなる。

そんな状況にもかかわらず、「9月入学」の是非とか、学習指導要領の内容や時間数の消化にこだわって夏休みや土日を無くそうとか、「あさって」の方向ばかりむいた施策を考えようとしている首長ほか一部の政治家と、それに追従する人々もいる。

私としては「そんなことよりも、今年学べなかったことは来年以降、さまざまな学習機会で学べるようにすればいいだけでしょ? 高校・大学や社会教育・生涯学習の場など、あらゆる機会を通じて、学び直しニーズ、学び足りないニーズを全面的に支えられるような体制を整えましょうよ」としか言いようがない。

「いったい、あなたがたはどっちに向いて施策を考えているのか? それこそ15歳や18歳で人生が決まらずに、生涯にわたって学習機会を整備していこうと考えて『生涯学習体系への移行』といってきた、この約30年の教育改革はなんだったのか? あなたがたはいまだに15歳や18歳で人間の学びのすべてが決まる社会をつくろうとしているのか?」と、「9月入学制」等々にこだわっている政治家等には一言、この際、言っておきたいです。

そして、これだけ困難な現状のなかでも、目の前の子どもに何ができるかを真剣に考え、模索し続けている現場教職員がいる。ストレスとジレンマを抱えながらも、日々、子どもの暮らしを支えている学童保育や保育所などのスタッフもいる。市区町村や都道府県レベルで、何か子どもと家庭に対して有効な施策は打てないかと悩み続けている行政職員もいる。そういった人々に協力したい研究者や専門職、地域の人々もいる。なぜ、こうしたおとなたちの力を、いま、目の前の子どもたちの抱えている悩みの前に結集していこうとしないのか。

ここで本来、政治家のするべきことは、テレビを通じての「対策やってます」アピールでもなく、ましてや「9月入学制」とか「学習指導要領の内容や時間数の消化」とかにこだわることではなくて、いま、おとなたちのもっている力を結集して、子どもたちの抱えている諸課題をひとつひとつ、ていねいに解決すべきことなのではないかと思う。

その力を結集するヒントは、全部、あのセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが集めてくれた報告書のなかにあるし、また、日々、目の前の子どもたちとのかかわりのなかにある。私はそう信じています。

今の時点で、私の立場から言えることは、これだけです。でも、これが今の正直な気持ちです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする