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フェンス

2017年07月16日 | 映画

2010年にブロードウェイで上演された舞台劇を、デンゼル・ワシントンが映画化。デンゼルとヴィオラ・デイヴィスをはじめ、主要キャストを舞台と同じメンバーが演じています。デイヴィスがアカデミー賞助演女優賞を受賞したほか、数々の映画賞に輝きましたが、日本では劇場公開が見送られ、先月DVDがリリースされました。

フェンス (Fences)

1950年代、ペンシルヴェニア州ピッツバーグ。妻のローズ、息子のコーリーと暮らすトロイは、かつて黒人リーグで活躍した野球選手でしたが、メジャーリーグへの夢を絶たれ、今はごみ収集の仕事をして家族を養っていました。

ある日、コーリーがアメフトのスカウトの目に留まり、大学への推薦入学の話が舞い込みます。しかしトロイはコーリーに、黒人がNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)に入れるはずがない、夢を見ないで地道に働けと言い、スカウトの話を断ってしまいます...。

もとが舞台劇とあって、とにかくセリフ量が半端ない。たとえばトロイの生い立ちにしても、ふつうは映像で表されると思いますが、すべてセリフのみで語られるのです。そんなわけで序盤は集中力が必要でしたが、だんだんトロイの人となりがわかるにつれ、物語の世界に引き込まれました。

お話は、ほとんどトロイの家とその庭で展開されます。トロイはローズのために、家の周りにフェンスを建てようとしていて、コーリーにも手伝わせています。フェンスは自分のテリトリーを示すものですが、本作では家族の束縛、世代の垣根、人種の垣根を象徴する存在として描かれていると感じました。

デンゼル演じるトロイは、いわゆる昔気質の頑固爺で、時代は変わり、今や黒人もスポーツの世界で活躍しはじめているというのに、自分から垣根を作って、息子が活躍できるわけがない、傷つくだけだと決めつけ、将来の芽を摘んでしまいます。

最初は息子への愛情から心配しているのかと思っていましたが、彼の中には、自分がなしえなかった夢を息子がかなえようとしていることへの、複雑な嫉妬心もない交ぜになっているようです。ローズはトロイを説得しますが、彼は父権を振りかざし、聞く耳を持ちません。

さらにトロイは、一生懸命家庭を支えてきたローズに対しても、裏切り行為をしていたことが明らかになるのでした...。

黒人という枠を超え、今やハリウッドを代表する名優のひとりであるデンゼル・ワシントンが、被害者意識にとらわれ、自分のテリトリーを自分で狭めてしまっている、老害の黒人男性を演じている、というのがシニカルです。一方、ヴィオラ・デイヴィスの魂のこもった演技には、思わずもらい泣きをしてしまいました...。

ピューリッツァー賞受賞の原作を重んじるあまり、映画らしさが生かせてなかったのが残念ですが、普遍的なテーマと、俳優たちの重厚な演技が心に残る作品でした。

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