少し前になりますが、第51回現代医療鍼灸臨床研究会(令和2年10月25日)にて、「不妊症に対する鍼灸最前線」というテーマで講座がありましたので、オンラインライブで参加させていただきました。 の続き第3弾
午前中の基礎講座は聴講できなかったのですが、聴講した分を3回に分けて学んだ点や私の意見等も書いていきたいと思います。
第1話 専門鍼灸師が実践する有効な治療方法とは?」【シンポジウム】
第2話 不妊症の病態と東洋医学(漢方・鍼灸)が果たす役割【教育講演】
第3話 (本日)不妊症に対する鍼灸治療ー諸外国における臨床研究の現状と課題を中心としてー【基礎講座】
※聴講できませんでしたが資料より
第3話【基礎講座】
不妊症に対する鍼灸治療ー諸外国における臨床研究の現状と課題を中心としてー
東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 安野 富美子 先生
「不妊」、「鍼灸」をキーワードとして検索すると(2020年10月1日)、Googleで312万件、Yahooで316万件ヒットする現状です。その中で不妊に対する鍼灸治療の効果として、「妊孕性は高まるか」「出生率は高まるか」「体外受精前後の鍼治療は妊娠率を高めるか」など、鍼灸にエビデンス(科学的根拠)はあるのでしょうか?
日本では、古くから不妊症や妊娠しずらいカラダの改善に鍼灸は頻用されてきましたが、不妊に対する鍼灸治療の論文は僅かであるのが現状です。
諸外国で行なわれてきた鍼治療の臨床研究について紹介し、臨床研究の現状と課題をお話していただくのが、この基礎講座の趣旨でした。
あっ、そうだオンデマンド(期間限定)で聴講できるのを忘れてました でも資料だけでも勉強になりました
体外受精(ART)における妊娠率に及ぼす鍼治療の効果ー世界初のRCT研究(2002年 Paulusら)ー
※RCT:「ランダム化比較試験」の略で、集団を無作為にいくつかに分けて、治療や介入の効果を比較研究する方法です。もっとも信頼のおける研究方法となっています。
ドイツ研究チームと中国武漢「同済病院」の合同研究
研究対象:ARTを受けている良質の胚を持つ160名の不妊患者
鍼治療を受ける群(80名)と受けない群(80名)にランダムに割り付け
評価:臨床妊娠(胚移植後6週間の超音波検査で胎嚢確認)
鍼治療:0.25×0.25mmの鍼を使用し、得気を起こした上で置鍼。10分後、再度、得気を起こすため鍼を回転(合計25分)
鍼刺入深度;10mm~20mm(身体部位に応じて)
胚移植前後に鍼治療
(移植前)内関・地機・太衝・百会・帰来 (移植後)足三里・三陰交・血海・合谷・(耳鍼)
結果:鍼治療群 80名中34名(42.5%)、対照群 80名中21名(26.3%)の臨床妊娠確認(p=0.03)
鍼治療はART後の妊娠率を改善するために有用なツールであると報告
鍼療法と生殖補助技術~コクランライブラリー2013ー~
※コクランライブラリー:世界中で実施されている治療や予防に信頼性ある論文を評価し、医療関係者、医療政策決定、消費者の意志決定に供するために収集されたデータのことです。随時、そのデータは更新されています。
論文検索エンジン(9つ、開始から2013年7月まで)から情報を入手
Cheongらが、ARTを受ける患者の鍼治療のエビデンスを上記よりメタアナリシス(MA)によりまとめたもの
※メタアナリシス:複数の研究結果を統合し、より高い見地から分析すること。またそのための手法や統計解析のことです。
20件のランダム化比較試験を選択
鍼治療と対照群の比較
・胚移植時(14試験 3632例) 採卵時(6試験 912例)
・対照群;プラセボ鍼と無治療群に分かれる
・対象はすべて体外受精(IVF)患者
・排卵誘発、人工授精に対する鍼治療の効果報告はなし
評価:出生率、臨床妊娠率、継続妊娠率、流産率、副作用
主な結果:鍼治療群は無治療群と比較し生児出生率が有意に多かった
偽鍼群との間に有意差はなかった
エビデンス:胚移植前後と採卵時の鍼のMAでは、
鍼治療による妊娠率と出生率向上、流産率の低下に関するエビデンスは十分に示し得たとは言えない
体外受精を受けている女性の生児出生率に対する鍼治療と偽鍼治療の効果ーRCTによる検討ー
ウエスタンシドニー大学国立補完医学研究所(NICM・オーストラリア)の大規模RCT
対象:新鮮胚移植、顕微授精を受け、鍼治療を受けていない18~42歳の女性
オーストラリア、ニュージーランドの不妊センター16カ所で実施
研究期間:2011年6月~2015年10月末(フォローアップ期間 2016年8月)
比較:鍼治療群(424名)と偽鍼治療群(424名)にランダムに割り付け(平均年齢35.4±4.3歳)
出生転帰のデータを取得できた809名(98.2%)で分析
主評価:生児出生率(数)
初回鍼治療:卵巣刺激ホルモン投与後6~8日目
(治療部位)帰来、関元、気海、三陰交、血海が基本で、+中医診断に基づき選択した経穴;最大5経穴
(治療方法)刺鍼後、得気を起こし25分間の置鍼 途中に再度、得気を得る刺激を加える
二回目鍼治療:①胚移植の1時間前 ②胚移植後
①帰来、地機、血海、太衝、関元、神門、内関、耳介部(子宮)
②百会、太渓、足三里、三陰交、内関、耳介部(神門)
対照群(偽鍼):Park鍼を用いて、経穴(ツボ)ではない部位に置く
結果:生児出生率=鍼治療群18.3%(74/405名)、偽鍼群17.8%(72/404名)
両群間で有意差なし。
体外受精による不妊治療を行なう前後に鍼治療を受けても、生児出生率を高める効果は期待できない・・・?!
問題点:対照群に偶然にも胚盤胞移植が多かった。
胚盤胞移植は新鮮胚移植に比較し妊娠率が高い(20~25%と30~60%との報告あり)
偽鍼が非侵襲刺激で経穴に刺激を加えている
もし期待できないというなら無治療群で比較するべきではないか
日本では皮下に刺さない接触鍼や散鍼という技法もある
胚移植の時期に行なわれる鍼治療~システマティックレビューとメタアナリシス~
※システマティックレビュー:臨床現場での疑問(クリニカル・クエッション)に対しての研究を網羅的に調査し、同質の研究をまとめ、偏りを評価しながら分析、統合を行なうことです。
RCTで行なわれた20件(2002~2018)を検討
アメリカ(4)、イタリア(3)、ドイツ(3)、オーストラリア(2)、ブラジル(2)、デンマーク(2),中国(2)、イラン(1)、イギリス(1)
サンプルサイズ:46~848名
評価:臨床妊娠率(20)、継続妊娠率(13)、出生率(14)
対照群のコントロール:無治療との2群(2)、偽鍼と無治療の3群(1)、偽鍼との2群(9)
治療方法:Paulus方式(7)、Paulus方式改良型(13)
治療のタイミング:胚移植前後(12)、胚移植前後+卵巣刺激(5)、胚移植前後+卵巣刺激+(または)黄体期(3)
偽鍼の種類:鍼を生殖点に関連しない場所に刺入(3)、非侵襲プラセボ鍼(6)
鍼治療と無治療;妊娠率(数)、出生率(数)は有意に高い、流産率(数)有意に減少
鍼治療と偽鍼治療:有意差はなし
これらの結果は異質性があった
有害事象が報告(5)吐き気、めまい、疲労感、眠気、胸痛、鍼の痛み、かゆみ
不妊に対する鍼灸治療の現状と課題
【現状】
無治療と比較するとARTの補助治療として妊娠率や出生率に影響を与える可能性あり
偽鍼との比較では有意差なし
世界的にはエビデンスは未だ確率されていない
【今後の課題】
胚移植前後等の単回治療ではなく、日本で日常臨床で行なわれている一定治療を受けた場合の効果の研究が必要
(加算効果・自然妊娠を望む患者さんへの効果など)
不妊治療にともなう心身のストレス緩和、採卵時の鎮痛効果、排卵誘発剤の副作用に対する対処、子宮や卵巣の機能改善による妊孕性の向上、他愁訴の健康管理などの効果を検討する(海外では検討している論文もある)
不妊に対する鍼灸治療の確立には多くの課題がある
不妊症に対する鍼灸について聴講した研修会について3回にわたり書かせていただきました。
現段階で様々な医学的観点から統計をとると効果的かどうかというエビデンスレベルについては鍼灸は低いという結果です。
これはこれでしっかり受け止めるべき必要がありますが、まったく効果が無いということではなく、いくつかの医療機関では健康管理や妊娠率や出産率をあげ、流産率を少しでも低くするため鍼灸を取り入れていただいたり、鍼灸院と連携していただいているクリニックや病院もあります。
人口や出産、結婚、仕事との関わり方、働き方は変化があるとしても、劇的に変わることはないと思いますが(コロナ渦では劇的に変化しましたが)、不妊治療に関する心身を取り巻く現状は、良くも悪くも変化するだろうと思います。
そんな中、不妊症に関する社会状況も、その時々の社会情勢や政策により変化はあるにしても、この悩みを持つご夫婦がすぐに少なくなることは考えられません。
最新の医療情報や社会情勢を踏まえながら、個人の開業鍼灸師としては、ご夫婦の天使ちゃんに出会いたいという願いの確率を少しでも高めるため、今後も不妊症にはチカラを入れて施術していきたいなと感じました。
最後が一番長くなってしまいました。
もし、妊活を行なっているご夫婦で鍼灸に興味のある方、カラダ作りに鍼灸を取り入れたいと考えられている方は、是非、ご連絡ください。ご相談承ります
最後までお読みいただき、ありがとうございます
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