ようやく「なぜ幼稚園は誕生したのか?」が完結しましたが、もう一つ公開したい論文があるのでもうしばらくおつきあいください。
さて、今日からしばらく、以前、梶山雅史氏の主宰する教育情報回路研究会(教育会史研究会)で発表した、「「教育情報回路」概念の検討」という論文資料を紹介します。この約10年来の教育会史研究のキーワードである「教育情報回路」概念を整理したものです。主に研究会メンバーの研究動向の整理であり、梶山先生をさしおいて私がやってしまっていいのかという迷いもあって、活字化するタイミングを見失っているうちに、刻々と時間が過ぎ、研究もどんどん進んでしまい…と、今になってしまいました。
同研究会メンバーが中心になって、今までに『近代日本教育会史研究』(学術出版会、2007年)と『続・近代日本教育会史研究』(同、2010年)とを出版してきましたが、「教育情報回路」概念についてはいまだにその中身が問われています。発表当時、現状を研究会メンバーの間で共有しようと思い、発表したものです。2012年段階の整理なので少し古い情報になってしまいましたが、現在にもつながる動向もある程度カバーできていると思いますので、この分野に興味ある方には参考になるかなと思います。
興味のない方は、ふーんこんな研究してるんだ、程度にみていただければと思います。
出典を示す場合は以下のように表記してください。
↓
白石崇人「「教育情報回路」概念の検討」教育情報回路研究会発表資料、於・東北大学、2012年11月25日。
または
白石崇人「「教育情報回路」概念の検討」教育情報回路研究会発表資料、於・東北大学、2012年11月25日(「教育史研究と邦楽作曲の生活」http://blog.goo.ne.jp/sirtakky4170、2015年2月13~23日)。
「教育情報回路」概念の検討
白石 崇人
はじめに
1.梶山雅史の「教育情報回路」概念
(1)「メディア」としての仮説的認識
(2)総合性への注目―「回路」
2.「教育情報回路」概念による教育会史研究への批判点
(1)国際的視点の不足
(2)「教育情報回路」概念内容の追究程度
(3)「教育情報回路」と「職能団体」
(4)「教育情報回路としての教育会」の総括的研究を求めて
3.「教育情報回路」概念による教育会史試論
(1)地域における学事協議・教員講習・教育研究機能の形成と継承 (1870年代)
(2)私立教育会結成による教育情報回路の形成開始 (1880年代~1890年代半ば)
(3)組織改革による教育情報回路の確立 (1890年代半ば~1900年代)
(4)教育会の系統化と情報集積・循環機能の充実 (1910年代~1920年代)
(5)教育情報回路の徹底・変容・再編 (1930年代~1940年代)
おわりに
はじめに
本発表は、教育情報回路研究会の研究成果を整理し、「教育情報回路」概念の意味内容とその問題点とを検討することを目的とする。
「教育情報回路」概念は、現在の教育会史研究においてなくてはならない概念である。この概念のもとに、世代・学閥を超えた教育史研究者が教育会を研究対象とし、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B))による共同研究に取り組んでいる。その結果が、『近代日本教育会史研究』(学術出版会、2007年)と『続・近代日本教育会史研究』(学術出版会、2010年)という研究書である。また、教育情報回路研究会では、前身の「教育会の総合的研究会」を含めると、すでに110本以上もの研究発表が行われた。さらに、教育史学会では、第49回大会(2005年)から第55回大会(2012年)まで、すでに7回のコロキウムを開催し、研究会メンバー以外の研究者にも教育会に関する興味関心を喚起してきた。「教育情報回路」概念は、このように教育会史研究を飛躍的に活発化させてきた重要な概念といえる。
しかし、とくに前2著に対する書評等の中で、「教育情報回路」概念への質問が相次いでいるのも事実である。また、教育情報回路研究会メンバーの間にも、その概念理解の内容に差があるのも事実であろう。そこで、本発表ではこの「教育情報回路」概念そのものを整理・検討することで、我々の研究のこれまでを見つめ直し、さらには今後の研究を展望する土台を形成したい。
以上の問題意識に基づき、本発表は次の通りに進める。まず、「教育情報回路」概念の主唱者である梶山雅史がどのようにこの概念を使ってきたかを取り上げ、現段階における概念内容を整理する。次に、『近代日本教育会史研究』と『続・近代日本教育会史研究』に対する批判を「教育情報回路」概念に対する批判として取り上げ、この概念についての残された課題を整理する。最後に、教育情報回路研究会および同研究会メンバーによる教育会史研究の成果をおおまかに整理して教育会史を試論的に叙述し、「教育情報回路」概念の具体的内容と今後の課題とを導き出すたたき台とする。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます