Sinead O'Connor 『Throw Down Your Arms』

2005年11月19日 | Rock

Sinead O'Connor(シネイド・オコナー)が引退宣言を撤回して発表した復活作『Throw Down Your Arms』で、あのボブ・マーリーの「War」をレコーディングした。

シネイド・オコナーの出身地アイルランドといえばカトリック教会が絶大な影響力を持っている国だ。離婚や中絶が法律で禁止されていて、現代社会の中でそれが問題となっている。保守的な宗教が支配するアイルランド社会にシネイド・オコナーは問題意識を持ち行動していた。

1992年頃のことだろうか。過激な行動に出てしまったことがあった。テレビの生放送でボブ・マーリーの「War」を歌った後、ローマ法王の写真を破いた。ポーズでなく信念からの行動だったから風当たりも相当厳しかった。

直後にディラン30周年のライヴに出演した彼女を待っていたのは観客からのブーイングだった。全く止むことのないブーイングを浴び、彼女はその場で歌う予定だったディランの「I Believe In You」を急遽取りやめ、キッと正面を見据えて「War」を歌った。舞台の袖で張りつめていた精神がほどけたのか彼女は激しく嗚咽した。

その時の映像は「ボブ・ディラン30周年記念コンサート」としてNHK BS-2で放送された。僕は友人からもらったその録画ビデオを見て、なんともいえない嫌な気分になったものだった。友人は若い頃のディランは「体制にたいして異議申し立てをする若者の象徴」であったけれど、それに共感していたはずのファンたちは結果的に「体制側の大人」になってしまったように感じた、と言った。

先日そのライヴの映像を見たがシネイド・オコナーの出演シーンのところは涙が出て止まらなかった。ディランのファンは群集心理であのようなブーイングになったのだと僕は見ている。そしてジョン・レノンの「この後何年かしたらキリストよりビートルズのほうが有名になってるかもしれない」なんていう昔の発言を思い出したりした。

その「War」をシネイド・オコナーがレコーディングした。 『Throw Down Your Arms』はレゲエのカヴァーを収録した作品集だ。シネイドは現在ではマスコミとは距離を置いてほとんど何も喋ろうとしていない。復活作でレゲエのカヴァー・アルバムを発表した真意は今もって不明のままなのだ。

アルバム・ジャケットの写真は幼き日のシネイドだ。カトリック信者にとって特別な日である初めての聖体拝領の儀式でのスナップ。アルバムは「神は死んでない」という曲ではじまり「War」で幕を閉じる(日本盤にはおまけでボーナス・トラックが収録されている)。なんとも言いがたいアルバムだ。でも僕には「War」がRebel Music(反抗の音楽)にしか聴こえない。最高のロックにしか聴こえないのだった。
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