Motoharu Radio Show #067

2011年02月03日 | Motoharu Radio Show

・特集『月と専制君主』
セルフ・カヴァー・アルバム『月と専制君主』の特集、その第二回目。アルバム制作にまつわる話などを交えて新しいアルバムの曲の紹介。聞き手は番組アシスタントの後藤さん。

・月と専制君主(from ‘Cafe Bohemia’)
1986年にリリースしたアルバム『Cafe Bohemia』から。テーマがあって、バース1、バース2、後半になると世界観が変わって、ちょっとした組曲風のアレンジになってる、と元春。最後のほうはみんなに呼びかけるようなR&B的な調子になってて、今聴いてもずいぶん変わってるなと感じるそうだ。'80年代の中頃に編集していた雑誌「This」の取材でパリを訪れ、フランス五月革命に関連した物事や人々を取材していたときに、パリの友人たちとモンマルトルやカルチェ・ラタン辺りを散歩しながらいろいろな話をしたという。そのときにこの詩のテーマが思い浮かんだとか。オリジナル・ヴァージョンには「Sidewalk Talk」という副題を付けていて、サイドウォークを歩きながらお喋りするというイメージ。

後藤: 「Rock & Roll Night」をキーも変えて、全く違うアレンジでやったときに賛否両論だったという話を聞いたんですね。賛否両論の反対のほうの意見ってどう思ってますか?

元春 : それは僕の負けだなと思いますね。自分の曲をアレンジを変えてライヴなどでよく演奏しますけれども、オリジナル以上のインパクトですとか、オリジナル以上の説得力がないと、やはり聴き手はがっかりしてしまうと思うんですね。これはソングライターであり、サウンドをデザインしている自分の、アーティスティックのエゴだと思うんですけれども、オリジナル以上の表現ができると自信を持ったときにそれをやるわけなんですけれどね、ステージで披露するときにはいつもドキドキしますね。評判が悪かったらすぐに撤回しますし(笑)、いいねという評判があると、さらにそれを押し進めるようなこともありますね。

後藤: 僕はあの「Rock & Roll Night」すごく好きだったんですよね。

元春 : う~ん。「Rock & Roll Night」とか「SOMEDAY」だとか、かなりレコードでサウンドや編曲が構築的なもの、そしてすでに世界観ががっちり決まってる曲については、やっぱり壊しにくいですし、それを超える新しい編曲というのはなかなか難しいというのが正直な感想ですね。

後藤: 自分の曲に挑んだ結果を聴いてみたいと思うんですが。

元春 : 「月と専制君主」は今回、タイトル・ナンバーになってますけれども、アルバムに収録した曲が全部過去に書いた曲であるんですけれども、大体'80年代中盤から'90年代前半にかけて書いた曲です。かなり昔に書いた曲なので、自分の中ではそれらの曲に対して距離を置いて聴けるというか、自分を対象化して聴けるので、まるで人の曲をね、カヴァーするような冷静さがありましたね。これが最近の曲、例えば『THE SUN』とか『COYOTE』をカヴァーするとなると、まだ自分の中でホットな部分があるので、編曲し直すにあたって、ちょっと躊躇するようなところがありますね。

後藤: 「月と専制君主」、タイトル・トラックですが、先行してダウンロードだけで発売されたんですけれど...

元春 : そうそう。「月と専制君主」、アルバムに入ってるヴァージョン以外に先行シングルとしてリリースした、これはダウンローディングのみなんですけれども、この楽曲にシンガーのCoccoが参加してくれるという、そういううれしいハプニングがありましたね。それではその「月と専制君主」、Coccoが一緒に歌ってくれた「Boys & Girsl version」というんですが、今夜はこのヴァージョンを聴いてもらいたいと思います。

・月と専制君主 - Boys & Girls Version -

後藤: 「月と専制君主」、Coccoとのデュエットのヴァージョン...

元春 : うん。どうだったかな?

後藤: あぁ~、これはアルバムのほう以上にメッセージが伝わってきますね。

元春 : 詩が持ってる世界観、Coccoという素晴らしいシンガーが一緒に歌ってくれたことによって、さらに充実したというか、広がりをもった。だからこの曲に参加してくれたことにとても僕は感謝しています。

後藤: そもそもカヴァー・アルバムそのものは何回か出そうと思ったことがあったんですか?

元春 : 全くなかったです。

後藤: 急にですか?

元春 : 30周年ですよね。活動30年目を迎えるということだったので、なにかファンが楽しくなってくれるような、そういうレコードをプレゼントしたい、そういう思いがありましたね。その一環で今までやってなかったのでセルフ・カヴァー・アルバムやってみようかな、それがきっかけでしたね。今回は自分の新作を作るのと全く同じコストとエネルギーをかけて作りました。

後藤: Coccoとのデュエットだったんですけれど、デュエットって今までもBONNIE PINKだったり、何回かあるんですけれど、佐野さんにとってデュエット・ゲストを迎えるというのはどういうきっかけというか、気分でそういうことになるんですかね?

元春 : やはり、そこで歌われてる詩の世界ですよね、詩の内容、これが男性である僕に加えて、女性の視点といったものが加わると、ちょうど裏と表でひとつになるような、そのような詩というものが僕の中にいくつかあってね、例えば'90年代出したレコードでいうと「また明日」という曲、これは矢野顕子さんと。男性側から「また明日」と呼びかけて、女性側からも「また明日ね」と呼びかけられることによって詩がふくよかになるというか、詩が具体的になるというかね。そういうことを考えて、今回のこの「月と専制君主」も男性視点、それから女性視点、女性視点を補ってもらえるとさらに詩が膨らむかなという思いがありCoccoに参加してもらいました。

後藤: Coccoはデュエットしてみて、実際にスタジオではどうでした?

元春 : Cocco、よいアーティスト、表現者だと思うんですね。実をいうと'90年代に「This」というロックンロール・ショーケース・イベントを僕がプロデュースしてたことがあるんですけれども、そのときにちょうどCoccoがデビューしたばかりで、すばらしいシンガーが出たなと思い、出演を依頼して、彼女はそのときに僕がプロデュースしたイベントに出演してくれたんですよね。その頃から表現者としてのCoccoをときどき拝見させてもらって、素晴らしいなと思ってました。だから今回共演できてうれしく思ってます。

後藤: アルバムのほうにはさらにもう一曲。デュエット・ゲストを迎えた曲があるんですが。

元春 : あぁ、そうだね。LOVE PSYCHEDELICOとの共演ですよね。みなさんのほうがよく知ってると思うんですけれどもギタリストとシンガーのユニットですよね。その二人が参加してくれました。ではLOVE PSYCHEDELICOをフィーチャリングしたこの曲を聴いてください。「彼女が自由に踊るとき」。

・彼女が自由に踊るとき
LOVE PSYCHEDELICOとは民放のある音楽番組でボブ・ディランのカヴァーを一緒に歌ったのがきっかけとなって交流がはじまったとか。「あの世代にしては珍しくフォーク・ロックなサウンドを奏でてる。だから仲間のような感じがしてました」と元春。

後藤: (リスナーからのコメント)「佐野さん、新しいブルースをありがとう。最近、元春がとんでる兄貴に思えます」というメッセージをもらったんですけれど...

元春 : わぁ、それ(笑)。そうですか。

後藤: ブルースだっていうメッセージなんですよ。

元春 : そうだね。表現のエリアでいうと今聴いてもらったこの曲はブルース傾向が強いですよね。

後藤: それは音楽のスタイルというよりかは歌詞のほうのニュアンスですか。

元春 : そうだね。僕も音楽のその形態がブルースなのかロックンロールなのか、ソウルなのか、それはあんまり気にしてない、作ってるときにはね。ただ詩の世界ですよね。この曲も決して明るく開かれた世界というよりかは、閉ざしてはいないけれども、これから解き放たれたいという気持ちが表現されてると思うんです。男性である僕と、それからLOVE PSYCHEDELICOのKUMIさん、彼女の声が一緒になることによって、なにか一方的ではない表現になってるかなぁって自分では思ってるんですね。彼女が自由に踊るときこそ、世界が解放されるって、この気づきを3分間のポップ・ソングにしたかったというのが僕の意図でした。

(中略)

後藤: 今回のアルバムなんですけれど、マスタリング・エンジニアにジャクソン・ブラウンとかトム・ウェイツ、ジェームス・テイラーなんかの作品を手掛けてたゲビン・ラーセンを起用されてるんですけれど、すごく音がいいですね。

元春 : 今回は徹底的にアナログ的な響きにごわりました。特に今回マスタリングで仕事をしてもらったゲビン・ラーセン。彼はアナログ的なサウンドに仕上げるのが、現在いちばん優れたマスタリング・エンジニアだと思って、一にも二もなく彼に依頼しました。

ゲビン・ラーセンのキャリアを調べるとMotoharu Radio Showの「3PICKS!」で取り上げてるアーティストが多いのだという。「これは偶然ではないですね」と元春。プロデューサーのT-ボーン・バーネットもゲビン・ラーセンをよく起用しているのだとか。ここでゲビン・ラーセンが手掛けた作品の中からトム・ウェイツの「Trampled Rose」とジョー・ヘンリーの「Time Is a Lion」。

後藤: (トム・ウェイツの「Trampled Rose」とジョー・ヘンリーの「Time Is a Lion」を聴いて)やっぱり一貫してますよね。

元春 : 共通しているのはバンドが一斉に演奏してるのを録ってるということ。それからそれぞれの楽器に響きなんですけれども、そのレコーディング・スタジオのルームに響いてる音をなるべく自然に使おう、そういう傾向ですね。ですので聴いてると目の前でバンドが演奏してくれてるかのような、そしてまた、空気感を感じるサウンドですね。それについては僕の今回の『月と専制君主』アルバムもそうしたサウンドを目指しました。

後藤: それともう既にご存知の方もいると思うんですけれど、このアルバムのLPが同時にリリースされてるっていう...

元春 : そうだね。今回はアナログ的なサウンドを作ろうということで、当然ね、CDだけじゃなくアナログ盤もリリースしようということになりました。

後藤: 佐野さん、ご自分でそのカッテングされたものを聴いてどうでした?

元春 : いいアナログだなぁという感じ。で、今回はレコーデッドの時点からアナログ的な表現をと言ってきたので、最終的に盤になったときにはね、とても感慨深いものがありましたね(笑)。うれしかった。

後藤: すごく粋だなと思うのは、アナログ盤を買うとCDがオマケで付いてくるんですよね(笑)。

元春 : そこでのアーティストの主張っていうのはアナログのほうがCDサウンドより偉いんだぞということですよね。

後藤: ははははは。

元春 : CDサウンドはオマケだぞっていう(笑)、そういう主張ですね、はい。

後藤: すごくオーディオ的にもうるさい方にも是非聴いてもらいたいんですが。何度も聴かせてもらったんですけれど、そのアナログ的なサウンド、なぜこの時代にアナログなものを求めたのかっていうところをおうかがいしたかったんですが?

元春 : いくつかあるんですけれども、自分が十代、二十代、やはりアナログで育ってきたので、そこに向けてのちょっとした郷愁が(笑)、あるのかもしれないなっていうのがひとつと、それからあるときレコーディング・エンジニアとアナログとCDの音の聴き比べをしたことがあった。聴いたのはU2の『ヨシュアズ・トゥリー』。CDでリリースされましたが、最近になって重量盤で『ヨシュアズ・トゥリー』のアナログ盤もリリースされた。で、そのCDとアナログ盤をスタジオで聴き比べをしたんですね。そうするとCDのほうは音の世界観はよくわかるんだけれども、ボリュウムを上げていくと、ある限界地点を超えると耳に不快に響くという、耳障りが悪くなってくるんですね。でもアナログ盤はどんなにボリュウムを大きくしてもココロとカラダに気持ちよく響く。うん。確かに音の解像度だとか、音の質感でいうと再現性はCDのほうが確かなんでしょうけれど、アナログで聴いた楽器間とか、楽器とヴォーカルの音の滲み方、あいまいなんだけれども全体で聴くとココロとカラダにやさしく響く。どんなにボリュウム大きくしてもね。そのことがわかって、そのアナログのよさを再認識したんですね。

後藤: あっ、話は尽きないんですけれど、ちょっとまた、来週もお邪魔してもいいですかね?

元春 : もちろんです。

後藤: そのアナログをさらに突き詰めたような曲が一曲あるので、ちょっと聴かしていただいていいですか。

元春 : これは1999年にリリースした『Stones and Eggs』というアルバムに収録した曲です。かなりオリジナルと感じが違ってますけれどもね(笑)。今回、このヴァージョン、僕は個人的に気に入ってます。

後藤: かっこいいですよね。

元春 : では聴いてください。アルバム『月と専制君主』から「C'mon」。

・番組ウェブサイト
「番組ではウェブサイトを用意しています。是非ご覧になって曲のリクエスト、番組へのメッセージを送ってください。待ってます」と元春。
http://www.moto.co.jp/MRS/

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