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うたのイラスト(故郷〔ふるさと〕)

 日本人の愛唱歌の代表格。誰でも知っているし、誰でも歌える。

 でもこの歌の歌詞をよく考えてみた人は意外と少ないのかもしれない。

 懐かしいふるさとの光景が歌われている。しかし一番の歌詞は過去形で、二番の歌詞は現在を想像する形で、三番の歌詞は不確かな未来の形で歌われている。眼前にある現在の故郷の姿を歌ったものではない。

 なぜか。つまりこれは、「故郷を捨てた人の、望郷の歌」だからである。室生犀星が詩に詠んだごとく、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」だからである。いや、そう思わざるを得ない人の心の裡のふるさとだからである。

 幼き日を過ごし、友もいる故郷を捨てて、彼(彼女)は都会へ出た。しかし人生の常、世間は甘くない。夢は打ち砕かれ、望みは果て、志は潰える。現在なら故郷へ戻ることは容易いだろう。しかし一昔前の社会はそうではなかった。出世してこそ故郷を去った言い訳は立つ。尾羽打ち枯らした姿でおめおめとどうして帰れようか。心無い蔭口が待っているのだ。両親に会いたい。友にも会いたい。しかし帰れない。都会で悶々と過ごすその心の裡に、子供の頃遊んだ山川があざやかに浮かぶのだ。そしていつの日か志を果たして晴れ晴れと帰郷する日を、当てもなく夢見るのである。その心に、故郷の山や川はいっそう青く清く蘇るのである。

 この歌は近代日本の民衆の心情を掬い上げた名曲でもあるのだ。だからこれほど国民に広まったのだと言っていいだろう。これからの日本人はどう変わるのだろうか。

 

故郷(ふるさと)

高野辰之作詞・岡野貞一作曲

 

1.兎(うさぎ)追いしかの山、

小鮒(こぶな)釣りしかの川、

夢は今もめぐりて、

忘れがたき故郷(ふるさと)

 

2.  如何(いか)にいます父母、

恙(つつが)なしや友がき、

雨に風につけても、

想いいずる故郷。

 

3.  こころざしをはたして、

いつの日にか帰らん、

山はあおき故郷、

水は清き故郷。

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