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うたのイラスト(「東京のバスガール」)

 子供の頃、コロムビア・ローズさんという歌手が歌って大ヒットしていた。

 私の記憶では、路線バスのバスガールという職業は私が中学生の頃まで普通に存在していた。中学校はバス通学だったから、女性の車掌さん(「車掌さん」と呼んでいた)は毎日目にしていたのである。

 歌で歌われているのは今もある「はとバス」の車掌さんらしいから、ちょっと路線バスの車掌さんとは違うのだけれど、ある種花形職業だったのだろう。

 バスガールの誇りと、職務上の辛さ(酔った客にいやな言葉を言われる)なども歌われている。淡い恋心がはかなく潰える様も歌われていて、今でいう職業ドラマの歌謡曲版ともいうべき内容である。

 私は中学生の時、帰りのバスを間違えて違う路線に乗ってしまったことがある。定期券だけで、現金は持っていなかった。「どうしよう」と焦って、途中の停留所で降りた。定期券を半分手で隠すようにして降りて、「ああバレなかった」と安堵した。それから、遠くに見える市民会館(当時は高い建物がなかったので、遠くからも見えた)を目指して畑や野原を突っ切って歩いた。途中で野犬の群れに囲まれて肝を冷やしたが、じっとしていたら去って行った。運が良かった、と思っていた。もちろん無事に家へ帰りついた。

 しかし今になって思うと、その時のバスのバスガール=車掌さんは、中学生の小芝居など当然お見通しで、あからさまに焦っている表情を見て見逃してくれたのだと思う。優しい車掌さんだったのだ。

 半世紀以上も経って、心の中で「ありがとうございました」と伝えたい気分である。

 そのバスガールも、観光バスにしか今は残っていないのだ。激務とは思うけれども、頑張っていただきたい。

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