話は、水素の創発で終わりではありません。
さらに水分子の中の酸素のほうですが、水素よりは遅れて、しかしこれもかなり早い時期にできています。
……と、ここまでお話ししてきて、いつも感慨にふけってしまいます。
「そうか、元素も永遠の昔からあるわけではなく、できたんだなあ……宇宙そのものができたんだから、当たり前といえば当たり前だけど」と。
さて、原子の違いは、原子核の陽子の数に対応しています。
陽子一個の水素原子核同士の核融合反応によって、重陽子(陽子一個、中性子一個)ができます。
陽子と重陽子が反応してヘリウム3(陽子二個、中性子一個)ができ、さらにヘリウム3とヘリウム3が反応してヘリウム4(陽子二個、中性子二個)ができます。
これは今でも多くの星、特に太陽で起っていることで、私たち地球の生命のほとんどは、その核融合反応のエネルギーによって生かされています。
ヘリウム同士の反応によってベリリウムや炭素ができ、ヘリウムと炭素の反応によって酸素ができた、といわれています(佐治晴夫『ゆらぎの不思議』PHP文庫、44頁)。
私たちがまったく別のもののように思っているそれぞれの原子は、すべて同じ陽子、中性子、電子という要素からできていて、ただその数が違うだけなのです。
現在、宇宙には、自然にできた元素が約90種類、人工のものを加えると110種類以上発見されていますが、それらすべての物質が、基本的にまったく同じ構成要素でできている、そしてもちろん私の体もそうだというのは、気づいてみると、とても不思議なことですね。
そして酸素は、水分子の中の酸素として、また血液中の酸素として、私の体の中にありますし、炭素も、タンパク質、糖、核酸、アミノ酸、脂肪などの炭素化合物の一部として、私の体・いのちを構成しています。
さらに「どの生物にとっても不可欠な元素が17種類あると考えられてい」て(前掲『元素の話』)、水素、酸素、炭素、窒素、カルシウム、燐、硫黄、ナトリウム、カリウム、塩素……などですが、水素やヘリウム以外の元素も宇宙の誕生後まもなく(といっても2億年後)、水素やヘリウムの原子が集まって生まれた恒星内部での核融合反応によって作られはじめたものです。
宇宙論の専門家佐治晴夫さんはこういっておられます(『ゆらぎの不思議』48頁)。
「……考えてみると、私たちのまわりにあるすべてのものたちは、ひとつのこらず星のかけらからつくられたものであり、熱い星のからだの中をくぐりぬけてきたものばかりなのですね。
私たちだって例外ではありません。
もとはといえば、みんな小さな光の粒の中にいました。やがて渦巻く水素の霧としてただよい、銀河となって、星になり、星が一生かけてつくってくれた元素たちから生命がうまれました。だからみんなみんな〝星のかけら〟なのです。」
もう一度いっておきたいのですが、これも科学者の言葉であって、特定の宗教の教義やイデオロギーではありません。
誰でも、ほんとうかどうか疑ったり、確かめたりすることができ、納得できたら、共有できるものです。
こうしたことを学んだ時、筆者は、「私・私のいのちには、宇宙137億年の歴史が込められている。それに価値がないなどと、誰がいえるだろう」と思いました。
これはもちろん、すべての人に当てはまることです。
どんな人でも、人間であるということだけで、宇宙の歴史が体の中に秘められているのですから。
そうだとすると、「私と宇宙はつながって1つ」という事実に基づいて、私の、あなたの、すべての人のいのちには、宇宙的、つまり絶対的な価値・尊厳があるといえるのではないでしょうか?
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*写真はM16「ワシ星雲」内にある星形成領域の赤外線写真。NASA提供。