近代ではなく現代の生物学によれば、生命は物質を基礎にしていますが、単純に物質に還元できない新しい性質をもっています。
といっても生命は、つながりあった原子=分子、さらに分子がいっそう複雑にしかしデタラメではなく整然とした秩序をもってつながりあった高分子という物質に支えられていることはまちがいありません。
生命を支えている高分子には、たんぱく質(酵素の主体)、多糖類(でんぷん等)、核酸があり、よく知られているように様々な生命のかたちを決める遺伝情報はDNAと呼ばれる複雑な核酸によって担われています。
そして、1950年代、ワトソンとクリックによる遺伝子のラセン構造の発見以来、今日までに研究されてきた生物は、不思議なことにもっとも単純なものからもっとも複雑なものまですべて基本的には同じ構造のDNAを持っているらしいのです。
そして、すべての生命のDNAの違いをいわば系図のように調べていくと、どうも38~40億年くらい前に地球上-海の中で発生した1つの生命がすべての生命の祖先であるようです。
(1つだけではないという説もありますが、それにしてもごく少数の生命からということのようです)。
もしその仮説が正しいとすると、すべての生命は、たった1つの共通の祖先から驚くほど多様に展開・進化してきたものだ、ということになります。
つまり、すべての生命はつながっているわけです。
そして、そういう38~40億年の生命のつながりの中で私が生まれているのです。
K・マーシャルという女性科学教育家の『人類の長い旅――ビッグ・バンからあなたまで』(さ・え・ら書房、87頁)という本には、こう書かれています(読みやすくするために改行、1行あけを加えています)。
「人間のからだをつくっている化合物……じつは、動物や植物の化合物とまったくおなじなのです。
地上のすべての生きものには、アミノ酸と核酸塩基があります。
そして、将来の世代をつくり出すための指令となっている、複雑なかたちのDNAの分子をもっています。花と木と魚とトカゲとトラとゾウと人間と、それぞれのあいだのちがいは、ただ化合物のならびかたと、DNAが伝える命令のちがいだけです。
このことからわかるのは、わたしたちはみな、おなじ生命の木からはえているえだなのだということです。」
現代日本の代表的な生物学者岩槻邦男さんの言葉も聞いてみましょう(『生命系――生物多様性の新しい考え』岩波書店、17頁)。
「……自分の生命は何百万年前にさかのぼると、ヒトの身体から、だんだんサルに似た生命体に収まっており、さらに時代を億単位の年数で数える昔にさかのぼると、魚のような姿の生命体の中で生きており、30億年も前にまで歴史をさかのぼると、ついにはバクテリアのような姿の生命体に収まっている生命にまで到達することを確認する。
……生物のひとつの個体は、個体がつくるとき誕生するものであるとしても、生きている生命は個体をつくる生命体を乗り換えながら、30数億年前からの生を生き続けているのである。」
「さらにここで考えておかなければならないことは、30数億年生き続けてきたのは、ヒトの生命だけではない、という事実である。
私たちの身の回りにいる生物はすべて、30数億年の生命をもっているのである。」
すべての生命は、最初のたった1つの単細胞生物の生命を引き継ぎながら、30数億年かけて多様に進化-分化したものです。
そういう意味でいうと、すべての生き物は共通の先祖を持った親戚です。
遠い遠い関係だとしても、でもやはり親戚なのですね。
水中や地下の微生物も、道端の草や山の木も、セミやトンボもチョウも、イヌもネコも、数え切れないほどのいろいろな生き物が、みんな自分の親戚だということが、科学の眼からも語ることができるというのは、とても不思議で、とても感動的なことだとは思いませんか。
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