生命の誕生は、宇宙の外に宇宙でない生命というものができたということではありません。
それは、宇宙の中に宇宙の一部としてそれまでにない新しい性質を持った部分ができたということ、すなわち宇宙の創発的な自己組織化なのです。
ビッグバンから原子の誕生、星の誕生、銀河の誕生、太陽系の誕生、地球の誕生、そして生命の誕生まで――そして実は私の誕生まで――すべては1つにつながった創発的な出来事の連なりなのだ、と確実にいえるようです。
ところで、私たち人間が生きているには、息をすること・呼吸が必要です。
息をするとは、出空気中の酸素を吸収して、二酸化炭素を吐き出すことですね。
「何を当たり前のことをいっているんだ」と思われるかもしれません。
しかし、いわれてみるとすぐわかるけれども、いわれるまで気が付かない方も多いのではないかと思いますが、息をすることについて、私たちには選択の自由はありませんよね。
「息をしようとしまいと私の勝手でしょ」というわけにはいかないのです。
もちろん、首をくくって自殺することはできますが、生きるのなら、息をしなければなりません。
それは生きていくための選択の余地のない基本的な条件です。
そして、それがいろいろなことを選択しながら生きることができる基礎でもあるのです。
現在の地球の大気は、窒素が78%くらい、酸素が21%くらい、アルゴンが0.95%、二酸化炭素と水蒸気その他が1%弱という割合になっているそうです。
だからといって、「窒素のほうが多くて有利だから、オレは窒素を吸うことにする」とか、「アルゴンのほうが希少で価値がありそうだから、アルゴンにする」といった選択は不可能なんですね。
ここで改めて、最初にお話しした「自由に選択できない条件が自由に選択できる基礎になっている」ということを思い出してください。
私たちの生きる決定的な条件・基礎の一つ、酸素を吸い二酸化炭素を吐くということも、進化の歴史の中で決められ、与えられたことです。
では、それは、いつごろ、どういうふうに決まったのでしょうか。
すべての生命は生きていくために、何よりも炭素、水素、酸素、窒素と、エネルギーが必要ですが、生命は最初から酸素を吸収していたわけではないようです。
小惑星や隕石の衝突による激しい爆発-燃焼によってできたため、原始の地球大気には、分離した酸素はほとんどなかったと推測されています。
最初の生命は、有機物のスープのような原始の海の水から、糖の一種であるグルコース(ブドウ糖、C6H12O6)を食べ、分解して、生きていただろうといわれています。
糖の分解は一種の発酵で酸素は必要ではないのです。
それどころか、そういう生命(嫌気性細菌)にとっては、酸素は生命にかかわる毒だったといいます。
ところが、生命が創発し、20億年もかかって膨大に増えてくると、さすがに豊富にあった海中のグルコースが不足してきます。
食糧危機、飢死の危険が出てきたのです。
ところが驚くべきことに――驚くべきことばかりですね――それに対処する方法を考え出した生物がいるのです。
思わず「考え出した」という表現を使ってしまいましたが、単細胞の微生物に考える能力=知恵があったのでしょうか?
それは、単なる生存に有利な突然変異がたまたま起っただけなのでしょうか?
知恵があったとしかいいようがない、と私は感じるのですが、それはおいておきましょう。
ともかく、まず自分でグルコースを合成することのできる生命が生まれます。
さらに、太陽の光のエネルギーを使ってより効率的にグルコースを合成できる生命が生まれてきます。
そうです、「光合成生物」です。
最古の光合成を行なう生命、シアノバクテリア(ラン藻)は、化石から見て遅くとも35億年前、宇宙カレンダーの9月29日頃には誕生しているといわれています。
初期の光合成は、太陽エネルギーを使って、二酸化炭素と、水素ガス、硫化水素などから取った水素でグルコースを作るというものでした。
しかしやがて、地球に豊富にある水を分解して水素を取るというかたちに進化していきます。
水から水素を取ると、残るのは酸素です。
そうです。この頃からようやく地球の大気に酸素が含まれるようになっていくのです。
酸素発生型光合成生物の創発は、10月18~21日(27~28億年前)のことです。
これは、進化史の2大事件の1つという科学者もいるほどの出来事です。
つまり、これはずっと後の、私たちを含む酸素を吸って生きる生物が、生まれ生きていくための基本的条件がこの時から始まったということなのです。
今私が呼吸をしているということは、27、8億年前の光合成微生物の創発と根本的に関わったことなのですね。
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