宇宙カレンダーの10月18日(27,8億年前)、酸素発生型の光合成をする微生物・シアノバクテリアが登場し、分離した分子酸素を出しはじめます。
といっても、倍率の高い顕微鏡でしか見えないほどの単細胞の微生物です。きわめてわずかずつでしかありません。
しかしどんなにわずかずつでも出していれば、溜まっていきます。
なんと6~9億年も経って、11月3日(19~22億年前)頃からやっと大気中の酸素量が増加しはじめるのです。
実にゆったりとした速度ですが、それでも確実に私たちの地球は進化していきます。
さらに11月8日(20億年前)、つまりさらに2,3億年も経って、光合成をする植物が出てきます。
このようにほとんど想像もできないほどの長い時間をかけて、シアノバクテリアが生まれ、植物が生まれ、今私たちが吸って生きている酸素の多い大気が調えられていきます
11月29日(12億年前)になって、ようやく明確な酸素大気が発達――完成ではありません――しはじめたと考えられています。
酸素発生型バクテリアの創発から15,6億年も経っています。
しかし、この段階ではまだすべての生命は海の中です。
その最大の理由は、酸素の豊富な大気圏が形成されていない、したがってオゾン層が形成されていないからです。
オゾン層なしの状態では、太陽から来る非常に強い紫外線が地上に直接に降り注いでいるので、生命は、紫外線が吸収されて弱くなった海の深めのところでしか生きられず、浅いところや海の外では死んでしまいます。
地上は溶岩の固まった岩かまだ噴火している火山ばかり、花はもちろんのこと、木や草も一本も生えていません。
一匹の虫も動物も動いていません。
想像しただけでも、凄まじく荒涼とした世界です。
そんな世界が、おそらく12月19日(4億3千9百万年前)頃まで続きます。
ところが、きわめてゆっくりではあるのですが、それでもやはり海中の酸素発生型の光合成バクテリアと植物(といっても微生物)はしだいに増えていき、放出する酸素量も増えていきます。
そうして、現在の地球大気に近い酸素の多い大気圏が形成されていきます。
光合成バクテリアの創発から大気中の酸素量が増えはじめるまででも15,6億年、オゾン層が形成されて、地上に出ても紫外線で細胞膜が壊されない、つまり死なない状態になるには、なんと24,5億年かかっています。
さて、ここで断片的な科学知識としてではなく、コスモロジー(世界観)として、このことの意味を考えて見ましょう。
バクテリアは、私たちと無関係ではありません。
最初のバクテリアは私たちの先祖であり、他の種も先祖から分かれた親戚なのです。
さらにバクテリアのような生命から進化・分化して、植物が生まれます。
植物も、私たち動物と枝分かれした親戚です。
つまり、40億年前のご先祖さまや27,8億年前の親戚、20億年前の親戚たちが、その後の子孫である多様な酸素を必要とする好気性生物のために、24,5億年もかけて、酸素大気というプレゼントを準備してくれたといってもいいでしょう。
驚くほど根気強い努力です。
その努力のお陰で、今私たちが呼吸できるのです。
英語のpresentという言葉には、「贈り物」と「今」という2つの意味があります。
今という時は多くの先祖たちからの贈り物だといっていいのではないでしょうか。
すでに気づいている読者も多いと思いますが、こういう事実は、たままたそうなっただけ、偶然だと解釈することもできます。
また、近代科学には、宇宙の始まりから現在まで、すべてを偶然そうなったと捉えるのが科学的な考えだという、強い偏見――あえて「偏見」といいたいと思いますが――がありました。
しかし、すでにいくつか引用してきたように、「現代科学」では、そうとう事情が変わってきています。
少なくとも、宇宙で起っているすべてのことが宇宙の自己組織化――自分で自分をそう変容させてきた――の結果であるということについては、1977年プリゴジーヌのノーベル賞受賞以後の現代の科学者にとっては、当然の合意ラインだと思われます。
そして、それよりも何よりも、「無数の先祖たちのお陰で今私がいる」という捉え方のほうが、はるかに人生を豊かにするものではないかと思うのですが、どうでしょう。
しかし、どちらの捉え方をするか、現段階では、それぞれの選択の自由・思想の自由だということになるでしょうが。
*前にも載せた地球の写真を再度載せます。地平線のあたりの青くぼやけているごく薄い層が大気圏です。酸素21%のこの薄い膜を海の中の光合成微生物と植物、そして遅れて地上の植物が協力して作ってくれたのです。できれば拡大して、しみじみと見てください。
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