堂津岳へ向かう稜線は根曲がり竹の切り株が竹槍のように地面から突き出ていた。
この根曲がり竹は、この時期がタケノコ鳥の適期。
方々に出ていたが、全行程標準コースタイム約14時間、先を急がねばならない。
様々な高山植物が短い夏を精一杯生きて花を咲かせている。
凝縮された命の輝きがある。
冗漫に生きている自分が恥ずかしくなる。
ここには厳しさと共に凛とした美しさがある。
稜線上の小さなピークに三角点がある。
ここは奥西山。
少しのアップダウンはあるが、ほぼ平坦な道。
ガスの切れ間が見え始めた。
突然姿を現したのは雲海の向こうの白馬連峰。
大雪渓も真正面に見える。
僕は基本的に、写真は選びに選んで少なくするようにしているが、今回ばかりは選べない。
次第に空が澄み渡っていった。
僕はただ言葉もなく立ち尽くしていた。
この絶景を見ただけで、苦労してここまで来た甲斐があるというものだ。
時間とともに姿を変えていく光と影。
朝の特別な時間。
目指す堂津岳もかすかに見える。
その先には乙妻から高妻へと続く戸隠連峰の最高峰が見える。
雲海の向こうに本院岳から西岳の、恐竜の背中のようなごつごつした岩峰も見え始めた。
もはや何の言葉もいらない。
かみさんは『よほど山の神様に好かれているんだね』という。
天気にしても、こうした景色にしても、僕は恵まれていると自分でも思う。
僕は山と自分が一体になったと感じる。
堂津岳手前の急な登りが始まる。
切り立った崖を過ぎると、猛烈な藪との戦いが始まる。
背丈をはるかに超える藪をかき分けながら道を探す。
この藪の中でも咲いている花がある。
こんな藪 の中でも花は咲く。
壮絶な藪漕ぎの中でほっと一息ついた瞬間だ。
もう頂上は近い、はずだ。
今日はここまで。