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ブログ版 シュプリッターエコー

金田弘さんという詩人―孤高の人

2007-07-03 16:54:45 | 本、文学、古書店
 梅雨の龍野は揖保川(いぼがわ)の水量が豊かです。
 町をめぐるかんがい用の水路もことのほか深い流れで、いたるところで涼しい水音が聞かれます。
 金田弘(かなだ・ひろし)さんはこの町で詩を書き続けている詩人です。
 ことし86歳。
 この1年足らずの間に2冊の詩集を出しました。
 「旅人は待てよ」(2006年6月)と「青衣(しょうえ)の女人」(2007年3月)の2冊です。
 その出版を祝って「金田弘さんを囲む会」が6月26日に揖保川河畔のガレリア(アーツ&ティー)で開かれました。

 現代最高の詩人に数えられてしかるべき人です。
 むろん知る人ぞ知る、ですが、一般にそれほど知られていないのは、作品がこの浅い時代にあまりに深いからでしょうか。
 頑健な哲学性、高い宗教性、鋭い洞察、そして強じんな文学構造、それらを堅固な骨組みにしてひとつひとつの作品がまるで大聖堂のように作られます。
 その近寄りがたさも確かにあると思います。

 けれどやはり、みずから名を追うこともなく、ふるさと龍野にじっくりと身を置いて文学の営みを続けてきた、その孤高のあり方、その潔いあり方が、金田さんの知名度を限定したものにしてきた、そのことも大きいように思えます。
 詩人としてのもっとも美しい生き方が、世間からもっとも深く詩人を隠すことになったのです。
 じっさい、金田さんがもし東京や大阪や京都の詩人なら、メディアはもっとしばしば取り上げてきたことでしょうし、もっと数多くの論評が書かれることになったでしょう。
 そのほうがよかったと言いたいわけではありませんが、これほどの大きな詩人の作品がその示唆(しさ)を十分に汲まれないままで来ているのは、やはり現代の損失だと思うのです。

 でもいま輝かしい2冊の詩集が生まれました。
 これはほうっておいても確実に龍野から広大な世界へ流れ出ていくことでしょう。

 金田さんのお話から推察しますに、詩人は日々ご伴侶の看護に尽くされながらその間に時間をつむいで、さながら血を搾り出すように詩句を生み出しておられるようです。
 「もう金田弘は死んだ」とそう洩(も)らされる言葉にも実感があります。
 「負けてたまるか」と語られる、その言葉にも実感があります。
 それにしても金田さんのファンたちはとても熱烈で、残酷です。
 この「囲む会」を「私への送り火」だと言う金田さんに「いや、これは迎え火だ」と言い返して、早くも次の新しい詩集の出版を待つと言い張って引き下がろうとしないのです。  
                 ☆
 なお詩集「旅人は待てよ」と「青衣の女人」はいずれも湯川書房刊。3000円。同書房は〒604-8005京都市中京区河原町三条上ル恵比須町534-40 電話075-213-3410
 また「青衣の女人」の論評をこのブログの姉妹版の「Splitterecho」Web版のCahierに掲載しています。お立ち寄りください。
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