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この、精神の疾走!―兵庫県立美術館 ピカソとクレーの時代

2009-03-28 22:04:00 | 美術
 絵画という芸術が全力で疾走(しっそう)した時代がありました。
 精神のなかを猛然と駆けたのです。
 マティスやピカソやカンディンスキーやクレーたちが波状的にひとびとを仰天(ぎょうてん)させ続けた時代です。
 そのはなばなしい時代を今に体感しようという展覧会が神戸の兵庫県立美術館で4月10日から始まります。
 「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展です。

 今から振り返ってみますと、20世紀の大衆的な芸術と文化には二つの大きなピークが見えます。
 近いほうから言えば、ひとつはプレスリーとビートルズとカラヤンで代表される1950年代半ばから1960年代半ばにかけてのまさしくポップ(大衆的)な10年です。
 そしてもうひとつは、ピカソやカンディンスキーやクレーの名前とともに浮き上がる1900年代後半から第一次世界大戦(1914年―1918年)前後までの、こちらはレボリューショナル(革命的)な10年です。
 ザ・ビートルズの「ラヴ・ミー。ドゥ」(1962年)がひとつの時代を象徴する歌だとすれば、パブロ・ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」(1907年)もまたひとつの時代の幕開けをしるす大きな記号になったのでした。

 魂が炸裂(さくれつ)した時代です。
 野獣派といういささか物騒(ぶっそう)な名でよばれた画家マティスがシンプルでリズミカルな「ダンス」を描いて、いよいよ本領を発揮しつつありました。
 変身の天才ピカソがついにキュビスムの原点となる「アヴィニヨンの娘たち」に行き着きます。
 インテリ画家のカンディンスキーが抽象画の草分けとなる「コンポジション」にかかるのです。
 澄明な色彩と明晰な線の作家となるパウル・クレーがチュニジアへの旅行で、まさしく色彩に目覚めたのもこのときです。
 そしてシャガールは愛の絵を旺盛(おうせい)に発表し、一方ミロやマグリットが本格的活動への準備を進めていたのです。
 日本でもファンの多いモネやドガやルノワールら印象派の画家の時代をかりにモダンアートへの助走の時代と読み替えれば、ピカソやクレーの時代はまさしくその全力疾走の時代だったともいえるでしょう。

 精神的な疲弊(ひへい)が深まるばかりの今の時代から見れば、なんとも贅沢(ぜいたく)な時代です。
 現代になお清新な衝撃を呼び起こす芸術の風。
 むしろ、旋風…。
 神戸でその風に触れることで、わたしたちの魂をみずみずしく甦(よみがえ)らせようではないですか。

 兵庫県立美術館の展覧会には上記の巨匠たちを含め23作家の64作品が並べられます。
 ピカソの「二人の座る裸婦」「鏡の前の女」「ひじかけ椅子に座る女」、クレーの「リズミカルな森のラクダ」、シャガールの「バイオリン弾き」、マティスの「午後の休息(サン=トロペ湾)」、そしてベックマンの「夜」…。
 みんなデュッセルドルフ(ドイツ)のノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館のコレクションです。
 州立美術館の改修休館を機に神戸で紹介されることになりました。
 20世紀の100年間を生き生きとさせたモダンアートの、その骨格を知るうえでも格好の企画です。
  
 会期は4月10日(金)―5月31日(日)。原則として月曜休館。一般1300円(前売1100円)、大高生900円(700円)、中小生500円(300円)。℡078.262.0901
 http://www.artm.pref.hyogo.jp/